見出し画像

【演劇】スターリン(俳優座)

 2024年2月、劇団俳優座の舞台『スターリン』を観てきました。記録を残します。

■公演概要

(1)日程・場所

  • 期間:2024年2月9日(金)〜16日(金)

  • 場所:俳優座スタジオ(LABO公演 Vol.40)

 俳優座は1944年創立で80周年ということです。
 「俳優座スタジオ」は、東京・六本木にある「俳優座劇場」のビル5階にありました。同ビルは創立10周年で建設され、建設から70年が経ち老朽化が進んでいることから、建物としては2025年4月末に閉場するとの記事もありました。

(2)スタッフ

  • 脚本:ガストン・サルヴァトーレ

  • 翻訳・ドラマトゥルク:酒寄進一

  • 演出:落合真奈美、村雲龍一、中村圭吾

 俳優座の配布資料によると、サルヴァトーレ(1941〜2015)は、チリ系のドイツ語作家です。
 チリで出生、弁護士資格取得後、ドイツのベルリン大学に留学。ドイツの学生運動に深く関わり、逮捕状が出たため国外逃亡。「反骨劇作家」とありました。
 
 そのサルヴァトーレの作品を酒寄進一さんが翻訳し、3人の若手演出家がそれぞれ舞台化しました。なお、「ドラマトゥルク」とはドイツ語で、演劇カンパニーにおいて戯曲のリサーチや作品制作に関わる役職だそうです(Wikipediaより)。

(3)あらすじ

道化が暴く 独裁者の虚構と実像は
「一九五二年末から一九五三年初頭。モスクワから三十二キロ離れた独裁者の別荘。別荘は二十四時間一千二百人が警備にあたっている。」(ト書きから)
齢70を越える老スターリンはいまだ意気軒昂。権力の妄執に囚われている。折しもモスクワで老ユダヤ人役者サーゲリがリア王を演じている。リア王で自分を揶揄していると勘ぐったスターリンはサーゲリを別荘に呼びつける。片やリア王を演じて、サーゲリの真意を突き止めようとするスターリン。片や道化となって、逆にスターリンの虚像と実像を暴くサーゲリ。独裁国家だったチリからドイツに亡命した作者が、独裁者とはなにかを問う渾身の劇が始まる。

俳優座のホームページより

(4)出演

 上記「あらすじ」からも分かるように、基本的には、スターリンとサーゲリ2人の会話劇です。そういうこともあり、この項ではこの2役のみ記載してみます。先に名前のある方がサーゲリ役で、後がスターリン役です。

  • チーム落合:巻島康一、島秀臣

  • チーム村雲:斉藤淳、小田伸泰

  • チーム中村:川口敦子、森一

■感想

 私は、①チーム落合 → ②チーム村雲 → ③チーム中村の順番に観ました。
 これから書く感想としては、個人的に一番印象に残ったことと、3回目だったので一番理解深く観ることが出来たことから、「チーム中村」についての記載が中心になってしまうと思います。

(1)2人の会話劇(発言の意図)

 スターリンとサーゲリの2人が何を意図して話しているのか、しっかり押さえていないと混乱するような気がしました。以下、私の解釈も含めて記載してみます。

  • サーゲリ:モスクワでシェイクスピアの『リア王』を演じているのは何のためか。単に年老いた役者として演じてみたい役だったからなのか、それとも権力者のスターリンを批判したいがためなのか。

  • スターリン:サーゲリの真意を探り、場合によっては、粛清したいと考えている。

 「チーム中村」でスターリンを演じている森さんは、前半、鷹揚な雰囲気というか、笑顔を讃えながらサーゲリを迎えます。そして、2人の会話は戯曲『リア王』の解釈に始まり、それぞれの過去の話や関与した事件に及びます。
 後半は、森さんのスターリンが、笑顔を残しつつも、舌鋒鋭くなって行きます。森さんが、前半後半を通し一貫して「スターリン」という役柄を構築している感じがして、印象に残りました。

(2)幕のメリハリ

 舞台『スターリン』は、5幕です。演出家・中村さんのプレトークによると、シェイクスピアの『リア王』も5幕で、意識して創作されているのではないか、とのことでした。

 3回観てようやく分かってきたのですが、幕によって、2人の優勢度合いに違いがあるような気がします。この幕はスターリンが押しているなと感じたり、逆に、この幕はサーゲリが押しているなと感じたり。ボクシングのラウンドのように、ラウンドごとの判定が出来るかもしれません。
 もっとも、(多少ネタバレになりますが、)スターリンは、サーゲリの息子ユーリの命運を握っている部分があり、この点は、権力者のそれこそ「特権」のように感じました。

(3)そもそも道化とは

 サーゲリは道化を演じ、権力者・スターリンの実像と虚像を暴いていきます。3チームそれぞれの道化・サーゲリを見ながら、私はまだ自分が「道化」の本質とは何か、掴み切れていないような気がしました。権力者に従いつつも、時として「対等」な立場である空気を醸し出します。

 「チーム中村」でサーゲリを演じた川口敦子さんは90歳だそうです。そういう背景もあってか、川口さんが発せられる言葉に、深い意味が滲んでいるように感じる部分がたくさんありました。

(4)プロンプター役について

 「チーム中村」では、プロンプター役ということで、小島颯太さんが出演されていました。「プロンプター」という言葉をインターネットで検索してみました。

(プロンプターとは、)演技中の俳優に台詞せりふを教える役目の人。スピーチや放送などで,演者のために原稿を表示する装置。

インターネット検索

 確かに、小島さんがカンニングペーパーみたいなものを、ライトで追っているように見えたのですが、川口さんと森さんが、それを見ながら話している(演じている)ようには見えませんでした。
 では、なぜこの役が設定されたのでしょうか。いくつか考えてみました。

  • お二人に何かあった場合のいざという時の備え。能でいう「後見」のようなもの。

  • 歴史劇であり記録を残すような印象を作る。

  • スターリンとサーゲリの会話を、一つの人工的な演劇・舞台ととらえ、俯瞰してとらえる。

  • 後ろから二人に指示を出す、人形のように扱う役割。

 なお、このプロンプター役は「チーム中村」だけです。「チーム落合」「チーム村雲」では、アンサンブルという形で複数名が参加し、民衆の役を演じたり、セットの移動を担ったりしていました。この点も演出の違と言えるでしょう。

■その他・最後に

 ロシアの歴史にそれほど詳しくない私は、初めて「チーム落合」を観たとき、2人(スターリンとサーゲリ)の会話に出て来る人物の名前や事件の用語があまり分からず、難解さを感じました。
 しかし、帰宅後、カバンの整理をしていて、劇団俳優座作成・配布の「用語解説」なる用紙を発見し、大変助かりました。インターネットで検索したりして、振り返っている状況です。用語解説や年表で、舞台や実際の歴史を振り返りながら、①政治・権力者と②表現する人たちの間の問題についても、考えたりしています。

 そして、今回私が3チームとも観たのは、私はストーリーを一番に追うタイプで、あまり演出に拘らない部分があり(ズボラとも言えます)、そんな私が「演出」という役割や意義みたいなものを理解出来るのかなと思ったためでした。
 実際、比較的に観てどうだったかというと、表現する役者の演技や台詞に我々は接していて、その前段階(奥)にある「演出」なるものを、私はまだ十分に掴み切れてはいないように感じました。
 ただ、今回のように扱う主題が難しければ難しいほど、明確な意図を持って「演出」しなければ、台詞の応酬に終始する形になりかねないのかもしれないなと思いました。それは「役作り」も同じことであり、「演出」とは第三者が俯瞰的に行なう制作(「役作り」)なのかもしれません。
 あまり勉強不足のまま記載しても仕方がないのでこれ以上は控えますが、今回問題意識を持つことが出来ただけでも良かったと思います。

 最後に、写真は劇団俳優座のSNSで「使用OK」とされていたものを使用させて頂きました。ありがとうございました。
 そもそも旧ソ連のスターリンはどういう人物で、どういう歴史的評価がなされているのかなど、調べて学ぼうと思えば学べることはたくさんありますが、本日はここまでにしたいと思います。最後までお読み頂き、ありがとうございました。

この記事が参加している募集

舞台感想

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?