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持ち家が「心の安定」をもたらす 

賃貸は、健康に悪い。

喫煙や失業よりも「賃貸住宅で暮らす」ほうが老化が早い、というオーストラリアの研究が紹介されていた。

賃貸住宅に住むことによるストレス、たとえば家賃を払うお金がない、住居環境が悪い、引っ越しが煩わしい、賃借であることの引け目などによって、失業より100%以上、喫煙より50%以上も生物学的な老化が早まり「健康に深刻な影響が与えられる」ことをオーストラリアの研究チームが明らかにした。(中略)
論文では、持ち家の人よりも賃借人が毎年2週間半分も多く老いていくと述べられている。
(Forbes JAPAN 10月15日)


まあ、不動産が「不動心」をもたらす、と。


私がこの記事を読んで、まっさきに思い出したのは、右翼の田中英道大先生が、「不動産の所有と世襲」こそ日本文化の核心だと論じていたことです。


田中英道「天皇陛下の歴史の御講演を拝読す」 日本国史学会、連続講演会、令和元年6月8日


田中先生はここで、荘園制の意味を論じ、

「土地を持つことが心の安定につながり、文化の安定につながる」

と言っています(動画37:00あたり)


この話、日本保守党のこととつなげて、政治的文脈で別の記事でも取り上げたのだけど、


ここでは、もっと実感レベルで自分の体験を書いておきたい。


私の体験


私は若いころにバブル期を経験し、

「家を買うのは一生無理だ」

と諦めた世代です。


株と地価がバカみたいに上がった時代。

金持ちで、それらを適切に売り買いできた者は、大儲けした。

若くても、株で儲けた奴は、土地も手に入れて大儲けしていた。

その後、バブル崩壊で大損したかもしれないが、首都圏の土地を持ち続けていた者は、結局、得をしたはずです。


でも、私のような貧乏人で、奨学金の返済でアップアップいってるような者は、一生働いても土地を買えると思えず、一生貧乏を宣告されたようなものでした。

田中英道とは逆の方向で、日本では土地が「階級」を固定させている、と左翼的に理解し、そのことは小説「平成の亡霊」にも書きました。

このときが、日本の「土地神話」が最高潮に達した時期でした。


「持ち家VS賃貸」論争


それが、平成も後半になると、「土地神話」をバカにする風潮が出てきた。

「持ち家VS賃貸」論争が盛んにおこなわれたのも、そのことと関連するでしょう。

バブル期までの感覚では、論争もなにも、持ち家がいいに決まっていた。

でも、このころは、頭のよさげな人たちが、

「持ち家に執着するのは日本人的な不動産信仰。賃貸のほうがスマート」

みたいな議論をしていた。


そのころに、私は会社を退職して、退職金で安い中古マンションを買った。

上京して以来、40年間の賃貸生活に終止符を打てて、感慨無量でしたよ。契約更新のたび保証人を探す手間から解放されてせいせいしたし。

「心が安定した」か?

うん、そんな気がする。

持ち家は、たとえうちみたいなボロ家でも、やはりいいものです。


「賃貸のほうが得」という議論に、多少まどわされもしたけど、思い切って買ってよかった、と今ではしみじみ思う。

首都圏では、その後、不動産が高騰したからね。あのときに買っていないと、同じ条件ではもう買えなかったでしょう。

その意味でも、あの「持ち家VS賃貸」論争に耳を貸さなくてよかったと思っている。

現在、前ほど「持ち家VS賃貸」論争が聞こえなくなったと思うけど、どうだろう。


もちろん、「持ち家VS賃貸」が意味をもつのは、長期ローンで家を買う場合、しかもその家の将来的な資産価値が怪しい場合、ですね。

そういう場合は、ローン返済のリスクに加え、不動産価値の急落があるから、賃貸のほうが得、という計算になるのかもしれません。

結婚や子育てで家がほしい若い人は、いまでも悩むと思います。


そこは、私が独り身で、気楽だからよかった。

単身老後の住まいは、古くて狭くてもいいから、私でも買えたんですね。

一生賃貸だと覚悟していたから、それまで払った家賃がもったいなかったとも思わない。それも、私個人の考え方でしょう。

だから、一般化はできないのだけど、経験からは、私みたいに、できるだけ現金で、身の丈にあった不動産を買うのが、いちばんいいのではないか、と。


そして、あの「持ち家VS賃貸」論争が見逃していたのは、やはり精神面の安定だと思うんですよ。

それは、必ずしも日本特有の「土地神話」「土地信仰」というだけではない、ということですね。


文化の問題


上記の田中英道の動画では、以下のように言っています。


「日本がなぜしっかりしているかというと、すべての人が、まがりなりにも土地を持っている、ということなんですね。

そういうことによって、はじめて物質的な安定が、心の安定にもなっていく、と。

まあ、もってない人もいるかもしれませんし、そうはいかないよ、とメディアは言ってます。

しかし、大半が、この問題を、ある意味では、うちにちゃんともっていて、そのことが、人間の安定にもなっていくわけですね。

そうじゃないと、文化は生まれないんですよ。文化ってのは安定が基本ですから」

(上掲の動画、36:20~37:20あたり)


日本にも持ち家でない人はたくさんいるのだから、こんな話は眉唾だと思う人は多いでしょうが。

でも、持ち家でなくても、住民保護の文化というのは、日本にはあるような気がする。

アメリカみたいに、家賃が払えない人たちが問答無用に追い出されて、路頭にホームレスが群れをなす、みたいなことにはなっていない。

上で紹介したオーストラリアもアメリカと同じで、だから賃貸が寿命を縮めるようなストレスになるのかもしれない。日本ではそこまでストレスではないかもしれない。

それは文化的特質なんですかね。それがいいかどうかも、議論があるでしょうが。


いまは、人口減で「家があまる」現象もあるらしい。

それなら、なおさら、すべての人に持ち家を与える政策があってしかるべきです。

とくに、子育て世代に持ち家を与えるのが最大の少子化対策になる、ということも以前書きました。ロシアのプーチンですら、少子化対策で持ち家政策を進めたんです。

あるいは、積極的な家賃補助。上のオーストラリアの実験でも、政府の家賃補助が賃貸住人のストレスを減らすことが示されている。


この話、べつに結論はないのだけど、「不動産所有の精神的・文化的側面」というトピックが面白いので、これを書きました。




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