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日本人が知らない「クラシック名曲」




落ち目の名曲たち


タイトルは少々大げさですが。

YouTuberでクラシック評論家のデヴィッド・ハーウィッツが、「むかし有名だったけど、いまは聞かないクラシック曲10選」という企画をやっていたんですね。

10 Formerly Popular Works That Have Faded From The Repertoire (David Hurwitz 1月26日)(英語)


むかしはよくレコーディングされたり、コンサートで演奏されたりしていたのに、最近は消えた、という趣旨。彼の「むかし」というのは、だいたい1950~60年代のレコーディングや、70年代くらいまでのコンサート、という意味らしい。

その10曲は、以下のとおり。


ゴルトマルク「田舎の婚礼交響曲」

ダンディ「フランス山人の歌による交響曲」

グリーグ「ピアノ協奏曲」

ハチャトリアン「ヴァイオリン/ピアノ協奏曲」

ハンソン「交響曲第2番”ロマンチック”」

ボロディン「交響曲第2番」

メンデルスゾーン「エリヤ」

ウォルトン「ヴァイオリン協奏曲」

ホヴァネス「交響曲第2番”神秘の山”」

チレア「アドリアーナ・ルクヴルール」


アメリカの音楽ファンには「あるある」かもしれないけど、日本人にはかなり違和感があるんじゃないでしょうか。

少なくとも、わたしにはそうでした。

ダンディとか、グリーグとかは「わかる、わかる」という感じだけど。

でも、ゴルトマルクとかハンソンとかは、

「日本じゃ、最初から流行ってねーよ」

と思うんですね。

まあ、こういうのは、その人の環境や世代によって、かなりちがう。あくまで主観的な話であることは、ハーウィッツもことわっている。

こういう企画で挙がりがちな「フランクの交響曲」「スッペの序曲」なんかは、番外で触れられていました。


とにかく明るいゴルトマルク


きのうは一日中、このリストでわたしの知らない曲、ゴルトマルクやハンソン、ホヴァネスなんかをYouTubeで聴いていました。

それぞれ、実にいいんですね。

ハンソンやホヴァネスはアメリカ人の作曲家で、日本人にとっての團伊玖磨や伊福部昭みたいなものかもしれない。

アメリカでは飽きられたかもしれないけど、日本ではまだ伸びしろがありそうです。

なかでも、注目したのがカール・ゴルトマルクであります。

この人はアメリカ人ではないけど、アメリカにゆかりがある。


カール・ゴルトマルクと「田舎の婚礼」の簡単な紹介

カール・ゴルトマルク(1830‐1915)はユダヤ系のハンガリー人。
チョー貧乏な家庭に育ち、才能を惜しんだ友人たちの募金で音楽学校に行った。
成人しても、ヴァイオリニストなどのバイトで稼いで作曲してたらしい。
ブラームスの親友になったが、本人はブラームスの性格が苦手で、音楽の趣味も、どちらかというとワグナー派だった。
オペラ「サバの女王」や、ヴァイオリン協奏曲、室内楽曲が欧米では戦前まで盛んに演奏され、シベリウスやフランツ・シュミットが影響を受けた。
作曲はほとんど独学だったが、劇場の経験から学んだ色彩的な管弦楽法が特長。ブラームスとマーラーをつなぐ作曲家とされ、マーラーも影響を受けたといわれる。
人気曲「交響曲1番”田舎の婚礼”」は、ブラームスの1番と同年1875年に初演され、ブラームスに絶賛された。
「田舎の婚礼」は5楽章形式で、中欧の風土がおおらかに謡われる。トマス・ビーチャムやレナード・バーンスタインのお気に入りだった。ほかにアンドレ・プレヴィンやモーリス・アブラヴァネルらが録音している。
なお、甥のルービン・ゴールドマーク(1872‐1936)はアメリカに渡り、ジョージ・ガーシュインやアーロン・コープランドの作曲の師となった。


ゴルトマルク:交響曲第1番”田舎の婚礼”


実生活で苦労人だったわりには、明るい楽想がいいですね。わたしは、ブラームスよりこっちのほうがいい。

バーンスタインがこの曲を好きだったというのは、やや意外ですが、同じユダヤ系で、たしかにマーラー的な響きがします。

ゴルトマルクは、交響曲を2曲しか書いていません。

有名なのはこの1番「田舎の婚礼」ですが、今回聴いてみて、ほとんど演奏されなかったという第2番のほうが、実はわたしの好みです。


ゴルトマルク:交響曲第2番


こちらのほうが、第1番より、もっとマーラー的な響きがする。でも、楽想はハイドン風で、「大言壮語しないマーラー」という感じ。マーラーより、こっちのほうがいいね。(第3楽章のスケルツォがホルスト「惑星」の「水星」に似ている。ホルストがパクった?)

ゴルトマルクは面白い。いい作曲家に出会えました。


「エイリアン」に勝手に使われたハンソン


ハワード・ハンソンは、映画「エイリアン」で曲が使われたので、有名かもしれない。

ハワード・ハンソンと交響曲第2番"ロマンチック"の簡単な紹介

ハワード・ハンソン(1896‐1981)はスウェーデン系のアメリカ人。
ローマでレスピーギの指導を受けた。
管弦楽曲や交響曲を多作するいっぽう、イーストマン音楽学校の校長としてアメリカ人作曲家の育成に努めた。
作風は、サミュエル・バーバーとともに「新ロマン主義」の作曲家といわれ、「アメリカのシベリウス」ともいわれる。
交響曲第2番"ロマンチック"は、ボストン・フィル50周年記念委嘱作で、1930年、クーゼヴィツキーにより初演された。
トスカニーニがニューヨーク・フィルで取り上げたほか、ネヴィル・マリナーやレオナルド・スラトキンなど多数の録音がある。最も演奏された20世紀アメリカの交響曲の一つ。
その第1楽章第2主題部分が、1979年の映画「エイリアン」のエンドロールで無断で使われたので、ハンソンは怒ったが、訴訟は起こさなかった(その2年後、ハンソンは亡くなった)。


ハンソンの「ロマンチック」は、ふつうに聴きやすい名曲で、アメリカ人に親しまれているのはよくわかります。

ハンソン:交響曲2番”ロマンチック”


こうやって聴いていくと、アメリカ人って、シベリウス風が好きだなあ、と思う。リヒャルト・シュトラウスみたいなのより、シベリウスが好き。

次に紹介するホヴァネスもシベリウスを目指した。

なお、カール・ゴルトマルクは、シベリウスに作曲を教えたことがあるようです。


スピリチュアルなホヴァネス


ホヴァネスも、知っている人は多いんでしょうね。

この人は多作で、交響曲を70曲以上書いている(番号では68番まで)。

わたしはまだ、ちょっと聴いただけですが、これも聴きやすい。

スピリチュアルで、精神性を感じる音楽。アルヴォ・ペルトとかに近いものを感じます。

YouTubeでも、けっこうな視聴回数をかせいでいるから、ファンは多いんじゃないでしょうか。


アラン・ホヴァネスと「神秘の山」の簡単な紹介

アラン・ホヴァネス(1911‐2000)はアルメニア系アメリカ人。シベリウスに私淑した。
タングルウッドのマルティヌーの作曲クラスで、7歳下のレナード・バーンスタインに交響曲第1番を「チープなゲットーの音楽」と批判され、自作を破棄して学校をやめたエピソードが有名。
その後、アルメニア音楽やインド音楽に傾倒する。
交響曲第2番”神秘の山”は1955年、ストコフスキー指揮ヒューストン響で初演され、テレビ放送された。シェーンベルクにも賞賛され、ホヴァネス最大の人気曲となった。フリッツ・ライナー指揮シカゴ響の録音が広く知られる。


ホヴァネス:交響曲2番”神秘の山”


YouTubeでホヴァネスをいろいろ聴いてると、以下の「The Spirit of the Tree」がよかった。視聴回数も10万を超え、人気のようです。

アラン・ホヴァネス「木の精」


もう残り少ない人生だけど、知らない作曲家の知らない曲が、たくさんあるなあ、と思う。

あと、YouTubeって、便利だなあ、と思う。



<参考>


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