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つまり僕も問題の一部だ。でも僕だけでなく、世界中の問題だ。

「私、made in Japanしか買わないの」

大手アパレルメーカーの店頭で接客していた時にお客様から言われた一言。

そのブランドは主に日本で生産していたが、その洋服の素材によっては、例えばニットなど、縫製の得意な工場をメインに考え、中国やベトナムでも生産を委託していた。

当時、私は理解していなかった。
お客様がなぜそのように仰ったのか。


ニットを着ている時期に春物の薄手のブラウスが入荷する。
まだ暑い日が続いている中で、秋物のニットが入荷する。
ファッション界は常に世間よりも動きが早い。

毎日洋服と向き合っていると、おしゃれというものがだんだん分からなくなってくる。
あれだけ洋服が大好きで働いていたのに。
アパレルで働く人のあるあるだそうだ。
毎回送られてくる大量の洋服を見ているとなんだか麻痺してくる。

店頭でのサイクルは一瞬で終わる。
これで良いのかと、アパレルで働いていながら思ってしまう。

「ALEX James Slowing Down Fast Fashion 」

現実にどんなに素晴らしいブランドの洋服だとしても、それでも売れ残るものは出てくる。

毎回シーズンごとに出る売れ残った大量の洋服はいったいどこへ行くのか。
アウトレット?EC?
それでも売れ残ったら?

それらは廃棄処分となる事は知っていた。

一社だけならまだしも、世界中の企業が同じルーティンで服を廃棄している。
まあ、服だけじゃないけれど。

イギリスのギターリストのアレックスは家族と共に田舎暮らしを始める。

華やかな芸能生活から、家族第一と考えるようになったからだ。
そうすると、世の中の見方が変わってくる。

彼の活躍当時は浪費と無駄が多かった。
貰い物も多く、着たい服、着るのも躊躇われる服、捨てたくなる服でクローゼットはいっぱい。
ツアー中は、毎日下着と靴下は一日履けば、使い捨てにした。
なぜならツアーで泊まっているホテルでの高級なクリーニング代を考えれば、使い捨ての方が安いからだ。

つまり僕も問題の一部。

でも僕だけでなく、世界中の問題だ。

アパレル業界は世界で2番目に環境汚染に影響していると言われている。

その疑問をドキュメンタリーにした映画「Slowing Down Fast Fashion」である。

彼はファッションが好きだ。
自己表現として、好きな洋服を着れば、なりたい自分になれる。
ほとんどの人がそう思って洋服を買うのではないだろうか。

イギリスでは人々は毎年100万トンの衣料を廃棄し、200万トンの新品を購入するという。
これを続ければ収納場所もなくなるし、その衣料を管理する時間も取られる。
そして廃棄される50%の衣料はリサイクルにはならずに埋立地へといく。

さて、日本ではどうだろうか。

ゴミとして出す衣料は50.8万トン。
そのうち95%は焼却・埋め立てされている。

また、家庭からリサイクルとして手放される衣料は75.1万トンだが、そのうちの34%しか実はリサイクルされていない。

世界では1秒毎にトラック1台分の衣料が廃棄されている。

廃棄されている衣料の8割はプラスチック、合成繊維でできている。
土にも水にも還らず、そのまま残り、土壌汚染や海洋プラスチックの原因となっている。

前澤さんが宇宙へ行ったが、シャトルや宇宙ステーションでは水が貴重であるため、洗濯をすることができない。

そのため着用した衣料、下着はそのまま宇宙へ捨てられる。

4万着以上は捨てられてきたそうだ。

宇宙飛行士が使用した肌着が、今も地球の軌道に沿って周っている。

衣服の影響は宇宙での汚染だけではない。
私達の生活ではどうだろう。

新しい服が欲しい、たくさんおしゃれしたい人には、安い服は好ましい。
バーゲンがあれば購買意欲が湧く。
そしてクローゼットがパンパンになる。
しかし着る服がない。
実際そこにはまだ着られる服はたくさんあるけれど、着たい服がない。

それはなぜか。
アパレルはサイクルが短く、旬がすぐに終わってしまう。
着れても、2年くらいすれば、なんだか古いもののように見えてしまう。

なぜ大量に作られ、大量に廃棄されるのか。
価格を抑えるために化学繊維は生産過程を短くできるため、都合が良い。

また、ロットで注文すれば、1枚だけ作るよりも1,000枚作って、売れ残って廃棄した方がコストがかからない仕組みがある。

とはいえ、日本では高齢化が進み、需要が減っているにも関わらず、アパレル経営の供給がそのまま大量生産、大量消費、大量廃棄の古いサイクルから抜け出せていないため、供給過剰になっている。

私も衣装を調達するときは、そういった安価なファストファッションを選ぶ場合もある。
価格が安いサテンなら、舞台では輝いて見える。
高価なシルクでなくても。

しかし、化学繊維を染めるには化学染料が必要で、水の汚染の原因になる。

合成繊維の衣料の単価が安いのは、原価はもちろん、安い人件費の元で作られていることもある。
そういった人権問題、そして作る時も捨てる時も同時に環境問題となる。

実際、日本の衣料の98%は海外製である。

オーガニックコットンは本当にサスティナブルなのか?

では、オーガニックコットンならどうだろう?
天然のものであるならば、地球にも人にも優しい、そう思っていた。

しかし綿花は非常に水を必要とする植物で、ジーンズを1本作るのに、1万リットルの水を必要だという。

その結果、世界で4番目に大きい湖だった中央アジアのアラル海は、綿花生産の引水のために70年代に砂漠化してしまった。

そして、世界の殺虫剤の25%が綿花生産に使われている。実は環境破壊の原因となっているのが綿花なのである。

また、世界最大の綿花の生産地であるインドでは綿花農家の高い自殺率が問題視されていた。

その死者は、なんと40万人である。
36分に一人自らの命を断っている計算になる。

ファストファッションでは、オーガニックコットンを取り扱う企業は意外と多い。

よって、企業からの原料仕入れは膨大な数になるので、農家は経済的に潤うのでは?となりそうだが、
現実は、契約した農家は綿花の育て方、経営の仕方などを知らずに、企業からの要請のみで、
農薬や化学肥料、遺伝子組み換えの種を買うために借金をする。

結果、それらを適切に使えなかったり、そもそも土地に合わなかったりなどの理由で収穫量が減り、借金を返せずに自殺してしまうという状況が生まれていた。

私たちがより安く、良いものを求めるがために、あまりにも犠牲が大きい事に愕然とした。

サスティナブルな洋服選びとは?


化学繊維は環境への負担が大きく、コットンはその生産背景をよく見なければならない。
サスティナブルな素材とは一体何なのか。

それはウールだという。
強度は綿の6倍、洗濯をしなくても臭いが付きにくい。
そして燃えにくく、土壌へと還る。
必要なのは、羊と水と牧草。羊を傷つけることもない。

しかし、コスト面でのハードルは、ファストファッションで慣れてしまった私たちにとっては高額だと思う人もいるだろう。
ハイブランドに似たデザインのものがより安く、おしゃれが身近になったメリットはある。
ミニマリストでさえ、中にはシーズンごとに全て捨てて、買い替える人もいる。
捨てる事がステータスのようになってしまえば、それは本末転倒のようにも思えるけれど。

ファストファッションが登場して以来、すっかり洋服は「使い捨て」になってしまった。

買う時に、捨てるところまで考えればよいのだが、素敵な洋服に出会った時はそんなことは一瞬にして忘れてしまう。
しかしその買い物の刺激は3日過ぎればその刺激は薄まり、新たな刺激を追い求めるためにまた買う。
そしてなんとなく、安ければ、取り扱いも雑になる人もいるのではないだろうか。

しかし、自分は環境問題、人権問題へと加担している一部である、と思えば、自然に選ぶものは変わってこないだろうか。

つまり僕も問題の一部。
でも僕だけでなく、世界中の問題だ。

そんなの自分には関係ない。
世界の問題にフォーカスしても仕方ない。
安い方がいいでしょう、そんなことよりもっと楽しい事にフォーカスしようよ。

そう思う人もいるだろう。

けれども、その生活が恵まれすぎていて気づいていないだけかもしれない。

地球環境と世界中の人々、そして生き物の命を尊ぶ道を選ぶのか、経済や自分の欲望を優先するのか

どちらの道を選ぶのか、その自由と選択肢が自分にあり、責任があるということを忘れないように。

好きなだけ買って好きなだけ捨てて、結局は、水質汚染、土壌汚染、海洋プラスチック、水不足、干ばつ、人権問題、気候変動という反作用で還ってきている、自分たちの首を絞めていることになっていると、そろそろ気づく必要があるだろう。

衣服廃棄禁止令

フランスでは今年2022年1月に、「衣服廃棄禁止令」を制定した。

これは、企業だけでなく、一般家庭でも廃棄・焼却を禁じ、リサイクルや寄附へと転じる、という条例である。

大量生産・大量消費・大量廃棄の経済社会から、廃棄物を最小限に抑えて、資源をできる限り再利用する循環型経済に転換することを目的としている。
2024年にはスェーデン、オランダも追従して制定されるそうだ。


買うな、ということではない。
自分がモノを得るということは、すべての地球環境、地球の生物に影響があることを知る。

未来を創る責任は、自分にはある、という生き方が今はかっこいい。

つづく

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