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税務調査の話 その16 〜非違事項別解説⑩ 人件費中編〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。前回に引き続き非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。今回も前回に引き続き人件費を取り上げます。

これまでの記事(税務調査の話その○)


法人税法上の損金不算入規定

役員報酬に係る定期同額給与、事前確定届出賞与、業績連動給与等、法人税法上には、課税所得の調整により適正な課税から逃れることを防止するための規定があります。

税務調査においても、これらの規定から損金不算入となるものが損金に算入されていないかといった観点のチェックが行われます。

本稿は法人税法の解説を目的とするものではないので、これらの規定の詳細は説明しません。

一方、同族会社では、社長の親族を役員に据えているものの、当該親族の勤務実態が確認できない場合が少なくありません。そういう場合の調査手法は前回の記事のとおりです。

勤務実態がないことを立証できれば、そこで終了ですが、税務調査ではここまでたどり着けることは多くありません。大体は、↓こんな感じの展開になります。

書類は揃ってないけど、ちゃんと働いてるからね。架空ってことはないでしょ。

税務調査では、事実関係が固められない場合、交渉の世界に入ってきます。そして、役員給与では、次の規定を使って落とし所を探ります。

法人税法第34条第2項
内国法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない

社長にやましいところがあれば、従業員のこの人と仕事内容が同じだから、その従業員の給与を超える部分は損金不算入としましょう、といった着地点になります。

それでも社長が強弁してくる場合、この規定の観点から事実関係を固めていく場合もありますが、調査打切りということも少なくありません。

というのも、この規定を使うということは、税法の適用を誤ったという事実を認定することになるため、仮装・隠蔽の事実に基づき重加算税を掛けることにはならないからです。

単なるミスを指摘しただけでは、税務署ではあまり評価されないので、そこまで労力を掛けるべきかという判断になってきます。

相手が納得していない場合、修正申告ではなく、税務署から一方的に課税を行う更正処分となりますが、審査請求・訴訟を見据えた証拠固めが必要となります。

不相当に高額というのが、文字どおり桁違いの場合、調査官は頑張ることになるでしょう。

ちなみに、国税不服審判所では、過去の裁決事例を公表しています。この規定に関する事例は6件掲載されています。

頑張っても税務署側が負けているものも少なくありません。

税務署の一般調査では、まずここまではやらないと思われます。

おわりに

実務では中々スパッと割り切れない場面も多いです。グレーゾーンの交渉を推奨しているわけではありません。

次回も人件費です。源泉所得税固有の非違について取り上げます。お楽しみに!

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