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国税関係

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元国税職員による税務調査の記事や税務職員になるための情報を掲載しています。
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#税金

税務調査の話 その1 〜調査官のノルマ〜

元国税職員による税務調査のあれこれを記事にしていきます。初回は調査官のノルマについて。 ノルマはあるのか結論から言うとありません。 ただし、目標数値があるので、これを実質的にノルマと考える職員も多いと思います。 目標数値は、国税局の主務課(法人課税課、個人課税課等)が定め、各税務署に割り当てていきます。法人課税部門でいうと、調査件数、増差所得、不正所得、不正発見割合等を目標管理しており、主に対前年比でこれらの数値を算定しています。 なお、増差所得とは、申告所得額に対し

税務調査の話 その2 〜調査の種類①〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。第2回は、調査の種類を整理します。 前回の記事 強制力による分類意外に思われるかもしれませんが、税務調査には、理由もなく拒否できるという意味での純粋な任意調査はありません。全て強制力を伴います。 間接強制調査 国税通則法第74条の2等に規定される質問検査権の行使による調査で、ほとんどの税務調査はこちらです。詳しく知りたい方は↓を参照 一般的には任意調査と呼ばれますが、同法第128条第2号により、調査を忌避した場合は、1年以下の懲役

税務調査の話 その4 〜調査の種類③〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。第4回も調査の種類の整理の続きです。 前回の記事 今回は取引先の調査です。 反面調査調査の対象となっている納税者から見た売上先、仕入先、外注先等に臨場し、取引の実在性(除外、架空計上がないか)、取引金額の整合性(一部除外、水増しがないか)について確認する調査を反面調査といいます。 仕入や外注費については、帳簿に記載されているので容易に反面調査先の把握が可能ですが、売上については、除外したものは帳簿に記載されていないので、事前に資料せ

税務調査の話 その5 〜調査選定〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。第5回は、どのような法人が調査対象として選ばれるのかについて記事にします。 これまでの記事 ※本記事で登場する用語については↑の記事も併せてご参照ください。 脱税してそうなとこ選ぶんでしょ?脱税をしていそうな者を選ぶというのは、皆さんが想像しているところだと思います。ただ、税務署が把握している情報だけでは、明らかに怪しいという者はかなり少ないです。そういった調査だけなら、第1回の記事に書いたような、是認続きで号泣してしまう職員は出ない

税務調査の話 その6 〜国税総合管理システム〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。今回は、国税総合管理システム(KSK)の現状と展望を記事にします。 これまでの記事 国税総合管理システム(KSK)とは全国の納税者が提出した確定申告書については、全てデータ化され、一つのシステムに集約されます。このシステムを国税総合管理システム(KSK)といいます。 以下、以前の記事にも書きましたので、既にお読みいただいている方は、次の項目まで読み飛ばしてください。 申告書の形式的な誤りについては、システムに入力した時点でエラーとし

税務調査の話 その7 〜非違事項別解説① 売掛金〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。今回から非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。いよいよ筆者の経験をお披露目するシリーズとなります。初回は売掛金について。 これまでの記事(税務調査の話その○) 売掛金の調査は基本中の基本駆け出しの国税職員(事務官)が最初に見方を覚えるのが売掛金の計上漏れです。 売上は、商品を引渡した時やサービスを提供したときなどに計上することなになっています。請求書をお客さんに送付しているかどうかは関係ありません。 小規模企

税務調査の話 その8 〜非違事項別解説② 現金売上の除外〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。前回に引き続き非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。今回は不正の一つである売上除外のうち、現金売上の除外を取り上げます。 これまでの記事(税務調査の話その○) 売上除外とは売上を意図的に帳簿上計上しないことを売上除外といいます。ただし、単に売上を計上しないだけでは、複式簿記を前提にすると、相手勘定の現金や預金(現預金)の残高と合わなくなってしまので、何らかの細工をしなければなりません。なお、売掛金や受取手形はいず

税務調査の話 その11 〜非違事項別解説⑤ 雑収入除外〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。前回に引き続き非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。今回は不正の一つである雑収入除外を取り上げます。 これまでの記事(税務調査の話その○) 基本は売上除外と同じ雑収入除外も売上除外と同じ収入の除外なので、その性質や除外方法(簿外預金等)ついては、基本的に売上除外と同じです。詳しくは、こちらの記事の「売上除外とは」という項目をご参照下さい。 売上を除外するのはかなり大胆な行動であるため気が引けるという心理が働きま

税務調査の話 その12 〜非違事項別解説⑥ 仕入〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。前回に引き続き非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。今回は仕入を取り上げます。 これまでの記事(税務調査の話その○) 仕入の水増し実在する仕入の金額を過大に計上することです。単純な水増しとキックバックに大別されます。 (1)単純な水増し 請求書や領収証等といった証憑書類な金額を書き換えるなどして、実際の金額より高く見せる方法です。お金の動きが記録に表れない現金仕入の場合、水増し分のお金は社長個人の財布に入れて、

税務調査の話 その13 〜非違事項別解説⑦ 在庫〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。前回に引き続き非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。今回は在庫を取り上げます。 これまでの記事(税務調査の話その○) 在庫に関する非違在庫管理の方法が継続記録法か棚卸計算法かに関係なく、売上原価は、期首在庫+当期仕入−期末在庫で計算されるので、期末在庫を過少に計上すると、売上原価が過大になるため、課税所得は低く算定されてしまいます。 このため、期末の棚卸が適切に行われているかについては、税務調査でしっかり確認が

税務調査の話 その15 〜非違事項別解説⑨ 人件費前編〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。前回に引き続き非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。今回は人件費を取り上げます。 これまでの記事(税務調査の話その○) 概要人件費の水増し・架空計上もポピュラーな脱税手法です。仕入や外注費と異なり、社内の人間への支払なのでお手軽なイメージがあるのでしょうか。特に同族会社の場合、社長の親族に対する人件費の計上がよく問題になります。ポイントは勤務実態があるかどうかです。 調査手法(1) 支払から見る 役員の身内で

税務調査の話 その16 〜非違事項別解説⑩ 人件費中編〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。前回に引き続き非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。今回も前回に引き続き人件費を取り上げます。 これまでの記事(税務調査の話その○) 法人税法上の損金不算入規定役員報酬に係る定期同額給与、事前確定届出賞与、業績連動給与等、法人税法上には、課税所得の調整により適正な課税から逃れることを防止するための規定があります。 税務調査においても、これらの規定から損金不算入となるものが損金に算入されていないかといった観点のチ

税務調査の話 その17 〜非違事項別解説⑪ 人件費後編〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。前回に引き続き非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。今回は人件費のうち、源泉所得税固有の非違を取り上げます。 これまでの記事(税務調査の話その○) 固有の非違法人税の調査では、売上除外や架空外注費等の処分が認定賞与になると、源泉所得税が追加で課税されます。詳しくは以下の記事をご参照ください。 これは法人税の課税処理に引っ張られるものであり、基本的には法人税の調査の枠組みの中で併せて処理が行われます。 一方、源

税務調査の話 その18 〜非違事項別解説⑫ 経費前編〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。前回に引き続き非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。今回は経費を取り上げます。 これまでの記事(税務調査の話その○) 基本は仕入・外注費と同じ不正の手口については、仕入・外注費と基本的には同じです。詳しくはこちらをご参照下さい。 本稿では、経費に特有の(特徴的な)非違事項について記述します。 個人的経費の付け込み法人の場合は役員個人の経費を会社の経費に計上し、個人事業主の場合は家事費を事業所得計算上の必要経費