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税務調査の話 その5 〜調査選定〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。第5回は、どのような法人が調査対象として選ばれるのかについて記事にします。

これまでの記事

※本記事で登場する用語については↑の記事も併せてご参照ください。


脱税してそうなとこ選ぶんでしょ?

脱税をしていそうな者を選ぶというのは、皆さんが想像しているところだと思います。ただ、税務署が把握している情報だけでは、明らかに怪しいという者はかなり少ないです。そういった調査だけなら、第1回の記事に書いたような、是認続きで号泣してしまう職員は出ないはずです…。

調査件数のノルマ…ではなく目標があるため、見るからに何も出ないような法人でも調査対象として選定されることも少なくありません。

選定作業

国税局や税務署によって異なることもあると思いますが、税務署の一般調査部門では、毎月提出される確定申告書を見て選ぶのが通常かと思います。作業に当たるのは、統括国税調査官(税務署の課長。統括官)やベテランの上席国税調査官(税務署の係長。上席。"うわせき"とも)です。

筆者の場合、税務署でボーッとしているのが好きではなく、隙あらば調査という感じでガンガン調査していくタイプだったので、上司の選定を待たず、勝手に自分で選んでいました。

調査事績が積み上がり、信頼も得て、いつしか忙しい統括官に代わって筆者が部門全員の調査選定を行うようになっていました。ちなみに筆者のような破天荒な職員はあまりいません(笑)

ということで、自分の所属部門が所掌する法人の確定申告書には年間を通じてほとんど全て目を通していたので、自身の経験に基づいた選定の基準をご説明します。なので、選定基準の網羅性は意識していません。一つの考え方としてご参考にしていただければと思います。

選定基準

課税所得の有無 言うまでもなく黒字の方が手柄になりやすいです。調査の結果、追徴税額が出ないと、加算税が発生しないからです。不正所得が見つかっても、重加算税が発生せず、署長に事案のお披露目もできません。とはいえ、増差所得や不正所得は調査事績にカウントされるので、課税所得の有無は決定的な要因ではありません。例えば、申告書審理の結果、明らかな誤りが見つかれば、大赤字だろうがしめたものです。是認にならずに調査件数を増やせますから。

売上規模 かなり小さい法人でなければ、それほど関係ありません。数千万円もあれば普通に調査対象となります。ただ、筆者は、300万円程度の法人を選んで調査したことがあります。この程度の規模だと社長一人で経理から申告書作成までしている方も多く、単純ミスも少なくありません。

業種 基本的には関係ないです。ただ、現金商売だと無予告調査が前提になるので、入念な準備が必要なため、調査頻度は落ちると思います。

税理士の関与の有無 これは、調査官によります。税理士が関与していないと、不正や単純ミスが多い傾向にありますが、一方で修正申告書を作成できない方も多く、非違事項を見つけたは良いが、処理に時間が掛かるので嫌だという調査官もいます。一般的には不正の端緒を掴んでいなければ避ける傾向にあったように思います。筆者の場合は、さっさとこちらで修正申告書の下書きを作ってあげちゃうので、税理士との調整がない分、税理士非関与事案の方が楽でした。というのも、税理士が調査立会をするとなると、社長と税理士の都合が合致するところでしか調査日程が立てられないのです。これだと、年間の調査件数がなかなか伸びないんですね。

非協力団体の関与 エセ同和団体等、行政対象暴力を行う団体がありますが、これらの団体に加盟している納税者は、団体メンバーを招集して税務調査を妨害してきます。以前の記事にも書いたとおり、調査妨害は犯罪となりますが、そこまで持っていくのは並大抵の労力ではありません。もとより調査官自身の安全も脅かされます。ということで、これらの団体が関与している先については、確実な不正の端緒がある場合を除いて調査を行いません。ご丁寧に申告書に関与団体のゴム印を押してくれるので、調査を避けることができます。筆者も調査しようとしたところ、統括官に止められたことがあります。……真面目な納税者との対比で不公平ですよね…。まあこれが世の中の現実です。少しフォローすると、こういった反社会的勢力については、日夜資料収集を行い、不正の端緒の把握に努め、国税局とタッグを組んで組織的に調査を行なうこととしています。

OB税理士の関与 結論から言うとあまり関係がないです。確かにOBかどうかは調査前に把握していますが、OBというだけで調査を遠慮することはありません。中には自分を大物と勘違いした人もいて圧力を掛けて来ますが、統括官が当該OB税理士の元部下で、かつ、へなちょこ野郎でない限り忖度はないはずです(笑) むしろこれを売りにしている税理士は要注意です。調査官の無理筋な指摘に毅然と反論してくれるなら強い味方ですけどね。どちらかというと、別の意味で癖の強い非OB税理士の方を避ける傾向にあったと思います。同業者なので、ここまでにします(笑)

国税モニター 税務行政についてご意見をいただく趣旨で納税者に国税モニターとして協力してもらっています。社長が国税モニターの場合、一定の忖度がありました。筆者の場合、既に調査に着手済みの事案について、調査打切りにさせられました。流石に今の時代はこんなことやってないと思いたいです。

ということで、つらつら書いてきましたが、じゃあどういうのが狙わられるんだよ、ですね。

結論 準備調査の記事にも書きましたが、申告書・添付書類の内容に不審点がある(高齢の役員親族に多額の報酬)とか、有力な資料せん(簿外預金)があるとかでなければ、これを是非やりたいというのがないのが正直なところです。やましいことをしていなければ、皆んな同じように調査対象として見られていると思ってもらった方が良いでしょう。

おわりに

一般的な書籍とかwebサイトとかでは得られない、踏み込んだ内容まで記事にしてみました。次回もお楽しみに!

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