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税務調査の話 その17 〜非違事項別解説⑪ 人件費後編〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。前回に引き続き非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。今回は人件費のうち、源泉所得税固有の非違を取り上げます。

これまでの記事(税務調査の話その○)


固有の非違

法人税の調査では、売上除外や架空外注費等の処分が認定賞与になると、源泉所得税が追加で課税されます。詳しくは以下の記事をご参照ください。

これは法人税の課税処理に引っ張られるものであり、基本的には法人税の調査の枠組みの中で併せて処理が行われます。

一方、源泉所得税を追加で課税するものの、法人税には影響しないものもあります。これを固有の非違といいます。以下では、源泉所得税固有の非違のうち、主なものを取り上げます。

経済的利益(現物給与)

給与は現金で支給しなければなりません。労働基準法で定められています。一方で、現金支給に加えて、多くの会社では福利厚生的に従業員に対して様々な経済的利益の供与が行われるのが通常です。

例えば、食事の補助であったり、家賃補助だったり、いろいろなものがあるかと思います。こういったものは、社会通念上、福利厚生の範囲内であれば、取り立てて現物給与として源泉所得税を課税しなくても差し支えないこととされています。

ただし、一律に支給するのではなく、一部の役員・従業員にのみ支給したり、一般常識からみて高額となっていたりするなどの場合には、現物給与として源泉所得税が課税されることになります。

詳しくは、こちらの通達をご参照下さい。

ところで、このような目線での調査については、実はあまり本腰を入れてやられていないと思われます。というのも、多額の追徴課税ができる状況というのは、会社が大盤振る舞いをしているのが前提となるわけですから、そもそも経営として成り立たないわけです。

ということで、多くの場合、追徴できるとしても数十万円単位がせいぜいかなと思います。法人税の増差所得よりも重視されていない源泉税でこれっぽっちじゃ、熱心に見る調査官が少なくなってしまうのも仕方ないところかもしれません。

扶養控除等申告書・年末調整関係

サラリーマンの方は、前年度末か年度始めに扶養控除等申告書を書かされていると思います。扶養対象の人の情報等を記載する書類で、独身子なしの方は、名前・住所・生年月日だけ書いて、残りは白紙(従前の様式を前提)で提出しますが、何で俺がこんなの提出しなきゃならんのだ?と思ったことはないでしょうか。

実は、この書類を提出していないと、年末調整を受けられず、毎月の源泉徴収額も高額となります(乙欄課税)。

ということで、面倒でも書いてください。

とはいえ、扶養控除等申告書を提出せずに、提出があった場合を前提にした源泉徴収(甲欄課税)を行っている会社も少なくありません。

この場合、税務調査が入った場合、乙欄課税との差額を追徴課税するような気がしますよね?

実際にはそんな酷なことはしません。ちゃんと書いてもらってね、と指導して終わりです。

税務調査で乙欄課税を指摘するのは、二箇所以上から給与を受けている人について、誤って複数の会社で甲欄課税を受けている場合です。そもそも乙欄課税は、年末調整で完結せず、複数社分の給与を確定申告すべき人について、メインの会社以外では高額の源泉徴収を行うことで、確定申告を促すことが趣旨なのです。

ただ、このような事例はあまり多くないので、やはりこの調査に注力するということは少ないと思われます。

ですが、日雇い労働者の場合は、多額の追徴が可能なため、力を入れてみる調査官は結構いるかもしれません。

2か月を超えて継続して雇用していない日雇い労働者については、雇用という意識が低いこともあり、源泉徴収が行われていないことがあります。この場合は、源泉徴収税額表(日額表)の丙欄を使って課税します(丙欄課税)。

筆者が経験した事案(日雇い労働者)

筆者は、とある建設業の会社の調査で、数百人にも上る日雇い労働者の課税漏れを見つけたことがあります。5年間遡って2000万円以上の源泉所得税を追徴課税しました。

会社ではとても計算できないということで、給与明細を段ボール何箱分も借り上げて、税務署でせっせとExcelに入力して源泉税の計算をしました。普段は郵送物の開封やら何やら雑用をしているアルバイトさんを数人投入して、何日掛かったか忘れましたが、途中で別部門の統括官から”そんなことやって何になるんだ”みたいな嫌味を言われながらも集計作業を完遂しました。

結果は上記のとおりで、一統括(嫌味を言われた統括官より偉い人)から”目の覚める数字だね”と褒められたのは、十数年経った今でも鮮明に覚えています。

ちなみに、源泉所得税の追徴分については、給与を受けた本人から回収することとなります。この事案の場合、日雇い労働者ですから、連絡が取れない人ばかりで、結果として会社が被ることになり、かなりの痛手になったと思います。

国際課税(非居住者等)

人件費の文脈からは外れますが、源泉所得税固有の非違の調査のメインはこちらになるので、一応簡単にご紹介だけしておきます。

国内に住所地を有するか、現在まで引き続き1年以上居所を有する個人を居住者、それ以外の個人を非居住者といいます。そして、非居住者と外国法人を合わせて「非居住者等」といい、非居住者等が日本国内で得た所得(国内源泉所得)については、その支払いを行う者が源泉徴収しなければなりません

源泉徴収が必要な国内源泉所得は多岐にわたり、知見の少ない中小企業では、こんなのも源泉徴収するの?というものまであるので、課税漏れが非常に多い分野となっています。

例えば、非居住者等から国内にある土地・建物等を購入した場合や賃貸を受けた場合には、10.21%又は20.42%の所得税を源泉徴収しなければなりません(一定の場合を除く)。

そのほかにも様々なものがあります。詳しくはこちらをご参照ください。

この調査に関しては、税務署であれば源泉特官(特別調査官の源泉所得税担当)が行います。

おわりに

これで人件費はおしまいです。次回もお楽しみに!

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