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税務調査の話 その15 〜非違事項別解説⑨ 人件費前編〜

元国税職員による税務調査のあれこれ。前回に引き続き非違事項(誤りや不正による要是正項目)別の解説をしていきます。今回は人件費を取り上げます。

これまでの記事(税務調査の話その○)


概要

人件費の水増し・架空計上もポピュラーな脱税手法です。仕入や外注費と異なり、社内の人間への支払なのでお手軽なイメージがあるのでしょうか。特に同族会社の場合、社長の親族に対する人件費の計上がよく問題になります。ポイントは勤務実態があるかどうかです。

調査手法

(1) 支払から見る

役員の身内でなければコスパの良い見方です。従業員の個人口座に振り込んでいれば、実態のある支払である蓋然性が高いからです。基本は振込なのに一部の従業員は現金支給となれば、不正の臭いがしてきます。

一方、役員の身内の場合、振込であっても容易にバックさせられるので、この見方で当たりは付けられません。

(2) 勤務実態の確認

履歴書、従業員名簿、出勤簿、タイムカード、作業日報、健康診断記録等、通常であれば備えておくべき書類がない場合、実在する人物か怪しくなります。

また、実際にオフィスを見て回って給与台帳と従業員本人とを照合します。従業員本人と面会できない場合、普段どんな仕事をしているのか、別の従業員にヒアリングすることもあります。

役員の身内の場合、これらの書類や勤務実態を確認できないことも多いですが、社長がちゃんと仕事をしていると強弁してくる場合もあります。そのときは、次の調査手法が有効です。

(3) 市役所(区役所)への照会

KSK(国税総合管理システム)で課税事績を調べても良いですが、KSKで確認できるのは確定申告をしている納税者だけです。給与所得しかない場合、ほとんどの方は年末調整で完結していますので、KSKでは分かりません。

KSKについてはこちらをご参照ください。

一方、給与の支払者である会社は、従業員ごとに住所地の市役所に給与支払報告書を提出しなければなりません。これは市役所が住民税の課税用に使用するもので、源泉徴収票のカーボンコピーみたいなものです。

すなわち、市役所に照会を掛けると、調べたい人がどこから給与をもらっているかが分かります。ここで、全く別の会社から数百万円ももらっているとなると、その別の会社に常勤しているということですから、調査している会社に勤務していないということの裏付けになります。

市役所にもよると思いますが、筆者が税務署に在籍していた頃は、電話一本で教えてもらえていたので、こちらもコスパの良い手法でした。

おわりに

筆者の事例の詳細は割愛しますが、これらの手法を組み合わせることで、ちょいちょい不正を見つけていました。

次回も引き続き人件費です。お楽しみに!

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