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篭田 雪江(かごた ゆきえ)
2019年9月29日 19:27
テーブルにうずくまっていた私は、はっと目を覚ました。意識不明から回復したかのように。 あわてて顔をこすった。手の平がかさついていて、頬がけずられた。時計をみた。午後十時。テーブルに並んだ夕食は、新聞紙の下でとっくに冷めていた。 私は、共に暮らす彼の帰りを待っていた。 小さなデザイン会社に勤める彼は、多忙な日々を送っていた。二月に入ったここ半月は十時に帰れれば早い方で、日付が変わる頃に帰宅し
2019年8月25日 16:30
女の子の両脚が動かなくなって、車いすに乗るようになったばかりの、ある秋の日。 女の子はお母さんに車いすを押してもらい、病院の外にお散歩に出かけた。病院からお出かけするのは、脚が動かなくなってからはじめてのことだった。 看護師長さんから「おさんぽ、いいねえ」と声をかけられた。女の子は照れ、赤い野球帽をかぶりなおした。野球帽はお兄ちゃんが今日の散歩のため「かしてあげて!」とお母さんにあずけたもの
2019年6月1日 21:02
あれ、これって……。 玄関先の掃除を終えてほうきを物置にかたづけていると、シートがかけられたそれがみえた。 シートをめくると、車いすがのぞいた。 私は外にひっぱりだし、広げようとした。しかしさびついていてなかなか広がらない。体重をかけてシート部分を押し込んだ。お年寄りが乗る自転車のような甲高い音がして、ようやく車いすは広がった。「なにしてんの」 後ろからあくびまじりの声がした。妹がや
2019年5月16日 15:17
「今日、誕生日なんですね」 CT検査をおえて身支度をととのえていると、男性技師がカルテをみながら言った。 おれはCT室の壁にさげられたカレンダーに目をやった。日付の下に製薬会社のロゴだけが書かれた、愛想のないものだ。今日の日付は十二月二十七日、たしかに誕生日だ。「しかも記念すべき三十歳の誕生日ですね。先輩として歓迎しますよ」 技師はいたずらっぽく言った。浅黒い肌に白い歯を持った健康の見本の