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Tim Wendelboe 地球からコーヒー農園を守れ

ゴールデンウィークは例年と違い全然ゴールデンなウィークではありませんでした。昨年は、仙台に行き山寺に行ったり、松島に行ったり、被災地跡を訪れたりしました。今年は一転インドアになり私は家でワンピースを読み返し、メルカリで本を売ったりしていました。

ところでメルカリで何かを販売したいという時に、いくらなら買ってくれそうか。相場感から値段をいじり、買ってもらえる値段の範囲でなるべく高い値段にします。多くの人もそうだと思います。出品した商品に対し、値下げ交渉をが闊達に行われるのも、売る側と、買う側のメリットを互いに大きくするために妥協点を探ります。企業間の取引ではここに売りたい人と買いたい人の購買力や販売力の差が影響します。

Tim Wendelboe という北欧のバリスタが居ます。(くわしくはこちら)2004年にWBC(World Barista Chanpionship)のウィナーになりました。今はノルウェーの首都オスロの近くの街のはずれで小さなロースタリー&カフェをやっています。お店は本当に小さく、カウンターと客席は全体で15畳くらいです。どこにも支店はなく、この1店舗のみです。豆はインターネットでも世界中に配送しています。サブスクリプションも行っており、月一で配送可能です。私もサブスクしていますがどの豆も本当に個性豊かでそれでいてバランスの取れた味わいです。こんなに美味しいコーヒーが毎月飲めるなんてこんな幸せなことはないです。取引量はウェブで見られるのですが、この小さい店で、2018年は総量として41,004kg生豆を購入しております。これは約16万パック(1pack / 250g)に相当します。年中無休としても1日に450パックのコーヒーを販売していることになります。取引量的に、メインはインターネット販売になります。おすすめの入れ方もシンプルな工程にして動画で公開しています。

一方で、この小さい(面積は)ロースターは世界中のコーヒー好きのちょっとした聖地になっており、本当に世界各国からお客が訪れます。

私は数回過去に訪れたことがありますが、本人に会うことはできず非常に悲しんでおります。インスタを見てみると、かなり長い間農園を訪れており、コーヒー農家との協業に勤しんでいます。

Tim Wendelboe は、農園へ適正な資金を提供すべきだ。という理念を持っておりそれを多方面へ発信しています。驚くのは、Transparency Reportという名称で毎年自分がいくらで誰からどの品種の豆を買ったかをWEBページで公開しております。つまり、彼と取引している農園にも取引が筒抜けなわけです。いつから始めたかはわかりませんが、2012年まで遡ることができます。

私を含めた客側も、自分で飲んでるコーヒーの生豆の相場を知ることができます。

こうした活動を他のロースターにも横展開をしようと、The Pleadge という活動に加盟しました。Web ページによると、この一連活動の理由をこのように記されています。

The ridiculously low commodity coffee price is currently driving hundreds of thousands of coffee farmers and their families into financial ruin and migration. Coffee plants are being cleared on a massive scale and replaced by coca cultivation or other crops. The consequence: the loss of the livelihood of these families. The coffee industry has not yet found any effective answers to this catastrophic development.
馬鹿げた価格のコモディティコーヒー(どこにでも手に入る普通のコーヒー)が、たくさんのコーヒー農園が資金繰りを困窮させ移住に追いやっています。結果として彼らは収入をなくしてしまいます。コーヒーの木達はコカインや他の穀物に植え変わったりしています。

つまりこのままでは農園が儲からずコーヒー農園を辞め、コーヒーの木がどんどん地球からなくなっていくため、それを業界で阻止するのが目的です。その対策として、The Pledge のページのTimのコメントには、生豆の価格に透明性を持たせるだけでなく、取引している農園が適正価格で販売できるように、業界が品質に見合った価格に見直しできるような、交渉材料にできるようにするためのものにしたいと書かれています。

そんな活動をしていて、農園にたくさんお金払っているのであればコーヒーもそれだけ高いんじゃないか?と思うかもしれませんがむしろTim の豆は日本のそれと比べると安いです。1パック250gで1500円程度です。日本のスペシャルティコーヒーは安くてもだいたい100gで1000円〜1200円くらいですから、ざっくり半額くらいです。

ちなみにノルウェーの物価は世界で最も高い国のうちの一つです。私は以前現地で水と歯ブラシを購入して1000円を超えて引いたことがあります。TGI Fridayでハンバーガーとポテトとビールを飲んだら3000円を超えました。とにかく物価が高いのです。(ちなみに物価を測るBig Mac Index ではビッグマック単品の値段がUSAと比較して、Norway は 5.7% 高く、日本は、37.5% 安いという価格設定となっています。) 

何が言いたいかというと、その物価でスペシャルティコーヒーは日本の半額ということは、現地の人たちの金銭感覚的に言うとかなり買いやすい値段設定になっているということです。ノルウェーの物価に合わせるだけでも倍くらいの価格感で不自然なことはないですし、バリスタチャンピオンという肩書を使って値段を上げることは容易に可能です。

高く売れるモノを高く売らないと言う発想です。私がやってるメルカリの発想からすると、えっ!?という話ですよね。

透明度を販売価格アップの理由にするだけではなく、それだけ可能な限りオペレーションを削って適正な価格で顧客に提供を行うということまでワンセットで行うところまで追及しています。こちらによると、マーケティングとして透明度を語る輩とは明確に区別したいと書かれています。実は生豆はこれくらいの価格だから、販売価格も値上げさせてねー!という論法には絶対しないですよという意味です。

なぜそこまで自分を追い詰めるか?を一歩深掘りしてみると地球規模のコーヒー農園のサステナビリティを強化するために、コーヒーを趣向品にするのを避けたいんじゃないか?という視点が見えてきます。(つまりなるべく遠い未来まで美味しいコーヒーを飲めるようにするための努力をしているではないかということです。)

もし私のような凡人の思想であれば金儲けがメインになり、スウェーデンやデンマークに支店を展開し、カフェを充実させます。店のブランド化を維持するために提供する豆の単価を上げ、一部のコーヒーマニアの顧客を相手にします。レシピは非公開で、ノウハウを持った店員がいれるコーヒーへお店に来ないと楽しめない!そんなことを売りにします。

でもそうすると今度は起きることは、スペシャルティコーヒが趣向品になってしまい、一部のマニア(私もまぁそうなんですが)の密かな楽しみになってしまい、むしろコモディティコーヒーとの間には溝がうまれてしまいます。そうすると美味しいコーヒーが作れる一部の農園以外は結局救えなくなってしまいます。

それよりも、たくさんの人が手の届く範囲で気軽に楽しめるような価格帯を維持するため、なるべくオペレーションコストを削った企業努力をし、それがコーヒー農園に横展開されることにより、よりたくさんのコーヒー豆が適正な値付けがされることに主眼を置いています。

何よりどれを飲んでも本当に美味しい。日本でこれだけ華やかで美味しいコーヒーを飲むためには、100g 最低でも2000円くらいかけないと手に入らないレベルです。(実際同じ作り手の豆を日本で3倍以上で販売しているのを見たことがあります。実は私には味の違いがわからず、グレードも3倍違うのかもしれないですが。)

結局、Tim Wendelboeのお店が1店舗しかないのも、オスロの中心街ではなくグリンネルロッカの端にあるかも、お店が小さいことも、小さいお店ながら焙煎豆をインターネットで世界に販売することも、おすすめの入れ方をシンプルにして発信しているのも、すべてはオペレーションコストを抑え、美味しいコーヒーをなるべくたくさんの人に適正な価格で楽しんでもらい、地球レベルでコーヒー農園を守っていくための様々な努力の結晶であることがわかります。北欧のコーヒーはアジアに比べるとかなり相場感としては安いです。きっと欧州の方はコーヒー一杯にそこまでストーリーを見越していると思います。

実際私が仕事でノルウェーのベンチャー企業を訪れた時に、共用のキッチンにTim Wendelboeの豆が数パックキッチンに散乱していました。下にはWilfaのグラインダーが。きっと誰かが好きで調達しているのだと思いますが、おそらくこれこの姿こそ目指す姿でTim Wendelboeが望んだ自分の作品の完璧な行先であると思います。

※トップの写真はフィヨルドに面したオスロの港と高級マンション




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