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あなたの孫が『失われたカナダ人』になるかもしれないと知っていますか?

カナダ人と日本人との国際結婚により、日本で生まれた子どもがカナダ国籍を持つとします。その子どもが成長しカナダ国外で出産した場合、自動的にカナダ国民にはなれないことを知っていましたか?意外に知らない人が多いかもしれないと思い、注意喚起も含めて書いてみたいと思います。
 


血統によるカナダ市民権の制限


 私はカナダ人の夫と日本で結婚しました。今は成人している子どもは2人とも日本で生まれ、日本の戸籍に入れると同時に在日本カナダ領事館でカナダ国籍の申請をしました。

今は成人している子どもは2人とも日本で生まれ、在日本カナダ領事館でカナダ国籍の申請をしました。
 
夫は英国生まれのカナダ人ですが、子どもたちがカナダ国籍を取ることに何の問題もありませんでした。
 その後、一家でカナダに永住。子どもたちが成長し、もし子ども(私の孫に当たる)を持つことになっても、当然カナダ国民になると思っていましたが、違っていました。

 カナダ市民権(国籍)法に「2009 年 4 月 17 日以降、カナダ国外で生まれた人が血統によりカナダ国民になるためには、その人はカナダ人の親の第 一 世代として生まれなければならない」とあります。保守のハーパー政権が通したC-37法案です。

 「第一世代」という意味を理解するのが難しいですが、要するに、外国生まれのカナダ人(一世)がカナダ国外で子どもを産んだ場合、その子どもは海外生まれ二世となり自動的にカナダ国民にはなりません。例外は、カナダ政府またはカナダ軍からの派遣で海外に駐在していた場合のみです。UNや赤十字の活動でも認められません。

 海外生まれ二世は、帰化によってカナダ国籍を取らなくてはいけなくなります。しかし、その帰化の手続きも、うまくいくかどうかはわからないのです。カナダ人の親から生まれカナダと強い結びつきがあるにもかかわらず、カナダ国籍が取れない人を「Lost Canadians(失われたカナダ人)」と呼びます。

 もし、この法律を知らずに2009年4月17日以降に日本で子どもを産んでいたら、子どもたちはカナダ国籍をもらえなかった可能性があります。
 

レバノン侵攻で法律が変わった


 2006年のイスラエル軍によるレバノン侵攻により、たくさんのカナダ国籍を持つ「レバノン系カナダ人」がカナダに「帰国」しました。しかし、彼らの多くがカナダ国籍は持つものの、それまでカナダに一度も住んだことがなかったり訪れたこともない人たちでした。

 当時、保守系国会議員であったガース・ターナーが彼らを「Canadians of Convenience(便利なカナダ人)」と呼び批判しました。カナダ国籍は自国を出国するためのセーフティーネットではないという考えから、強い保守思想を持つスティーヴン・ハーパー首相が、海外生まれ二世のカナダ国籍を制限するC-37法案を可決させました。
 しかし、この法案も無国籍児を生む可能性を含んでいます。
 

二世が無国籍になる可能性もある


 カナダ国営放送CBCの記事に、C-37法案によって困っている人たちを紹介したものがあります。

 ベトナム人の父がカナダ国籍を取った後に香港で生まれ、自身もカナダ国籍となり、カナダのエドモントンで育った女性が、英語を教えに行った日本で日本人男性と2007年に結婚し出産。子どものカナダ国籍を取ろうとしたらC-37法案が通った後で拒否されました。カナダに戻り何度も子どもの帰化申請をしますが、すでに13年間拒否され続けています。
 
 他には、アメリカ生まれでカナダ人を母に持つ男性は、カナダ国籍を持ちアルバータで育ちました。ロシア人の妻と香港で職を得た時に子どもを出産。子どものカナダ国籍は拒否され無国籍となりました。

 カナダ政府は、ロシアにまず国籍取得を申請し、それがダメだったらもう一度カナダ国籍を申請するようにと言います。しかし、男性は、子どもにはロシア国籍ではなくカナダ国籍を希望しています(今のロシア情勢を考えると理解できます。)
 
 なぜ、このような、法律を知っていたら回避できていたかもしれない事態になるのでしょうか。C-37法案以前にもカナダの国籍法は何度も変わっています。しかし、どれも周知を徹底していないため、法律が変わる毎に、カナダ国籍を取れない「失われたカナダ人」がたくさん生まれる状態を作っています。

 法律が変わるのは仕方ありません。それを皆に知らせる努力をしないカナダ政府の「怠慢」としか考えられません。実際、私と同じように日本で子どもを産み、今はカナダ在住の日加国際結婚の友人もこの法律を知りませんでした。

 また、このような法律は、「カナダ生まれのカナダ人」が優等で、「外国生まれのカナダ人」が劣等だとランク付けをするに等しいと、カナダでは議論になっています。
 

ボーダーレス化で起こり得ること


 ボーダーレス化時代には、国境を越えて才能や能力を試す機会が今後ますます増えるでしょう。研究者として招かれたり、海外企業に良いポストがあったり、国際貢献をするチャンスが来たりなど、これからの若者は自由に国境を越えていくでしょう。

 そして、いずれカナダに帰るつもりでも、子どもを持つタイミングが丁度国外在住中である状況も十分考えられます。その時に知らなかったでは取り返しがつかない場合があるので、海外生まれ一世の子どもを持つ親は、折に触れて話題にしておくとよいと思います。
 
参考:CBC News, October 27, 2022, Can new legislation help 'Lost Canadians' be found again?


他参考文献
https://www.theglobeandmail.com/opinion/article-i-am-a-canadian-citizen-why-cant-my-son-be-a-canadian-citizen-too/
 
https://thewayimmigration.ca/immigration-tips/how-to-apply-for-proof-of-canadian-citizenship-for-my-child
 
https://www.theglobeandmail.com/news/politics/children-born-abroad-to-canadian-parents-may-end-up-as-lost-canadians/article30938653/
 
https://visajpcanada.com/926-2/
 
https://www.cbc.ca/news/canada/manitoba/lost-canadians-legislation-1.6591737?fbclid=IwAR3K0xiTXwBNNqWHFwty_QB1vI9HYGhnhZUaE6xpuM6tfsPFTpFviy5NXDo
 
https://lostcanadian.com/history_page/canadians-born-abroad-were-often-stripped-of-citizenship/
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Canadians_of_convenience?fbclid=IwAR2udiXBPp9zO7Dp9EfsLlkgS9nn0uxb_F7fTrkIrv8m3Bka2U2kbBYJpJQ
 
https://lostcanadian.com/history_page/second-generation-born-abroad-canadians-lose-their-citizenship/

この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2023年3月号に寄稿したものです。 ☞ https://torja.ca/kaede-trilingual-37/

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