バイリンガル児の『ルー語』って大丈夫なの?
海外、日本国内を問わず、子どもに複数言語教育をしていると起こる英語(現地語)と日本語ミックスの「ルー語」状態。国際結婚家庭や海外在住家庭、または日本で早期英語教育中など、多言語子育てをしているとどの子どもにも起こり得る現象です。しかし、これが言語発達途中の子どもだから起こるのか、はては「もしや言葉が混乱しているのでは?」などと気になりますよね。検証してみましょう。
2言語ミックスにもパターンがある
言語を混ぜて話すことを「コードスイッチング(CS)」または「コードミキシング(CM)」と言います。言語学者の間でもCSとCMはそれほど区別していないようですが、中にはCSとCMを定義している研究者もいて、私も「CSは1つの会話の中でいくつかの言語が交互に使われること」であり、「CMは動機付けもなく言語を乱雑に混ぜて話をすること」と区別したいと思います。私は20数年間マルチリンガル児を育て、また他のお子さんを見ていて、言葉の混ぜ方にもだいたい2パターンあることに気付きました。
パターン1.CS:だいたい1段落くらいで日本語から英語、英語から日本語にCSが起こる。-うちの子どもたちの場合、姉弟間では日本語で話すことをルールにしています。彼らが英語で話し始めたら、私の「日本語で話しなさい!」という雄叫びが聞こえます。しかし、バイリンガル同士だと、本人たちはまったく意識せずにこのようなCSが起きます、また、彼らは英語の映画の場面などを再現する時は英語、補習校での思い出の場面を再現する時は日本語でないと難しいと言います。
パターン2.CM:日本語の文中に頻繁に英語の単語が入る。-「今日、nurseryでflowerのpicture描いたの。」語順は日本語なのに中の単語が英語に置き換わっています。日本語語彙の少ない子どもに表れる典型的な「ルー語」ですね。それが現地校入学で英語が強化され、だんだん日本語が出にくくなってくると、「今日Daddy picked me up at schoolのとき、I was so hungry。」のように、英語の文章を日本語で繋ぐようになっていきます。また、バイリンガルの帰国子女同士では日本語が特に弱くなくても混ぜて話します。「He called me five times yesterday. それってキモイよね。But…」彼らにとっては至って普通の話し方らしいのです。
ルー語になる原因
海外では、子どもが日本語会話に英語を混ぜても、親が理解できてしまうので放置しがちです。日本国内で英語育児をしていると子どもの口から英語が出てくると嬉しいものです。しかし、複数の言語を1つの会話に混ぜる場合、原因は以下のことが考えられます。
1.弱い言葉の語彙が不足。
2.混ぜても相手が理解できることを知っている。
3.生活に密着した言葉は現地語が優位(highway=高速道路、Laundry=洗濯物、等)
4.そのシーンで使われていた以外の言葉で再現するのが難しい。
5.どの言語も弱く芯となる言葉が育っていない。
バイリンガル児は幼くても言語を使い分け、話す相手によって言葉を選ぶ才能に長けています。言語の区別がつかず混乱するということはありません。相手が日本語しか話さないモノリンガルの場合は、たとえ幼くても自分も日本語で話そうとします。また、会話グループに日本語を理解しない人が1人でもいると自然と現地の言葉に切り替えます。ただ、会話相手が日本人なのに英語が入ってくる場合は、相手が英語も理解するので全部日本語で話すのが面倒なのか、本人の日本語の語彙が不足していると考えてよいでしょう。
バイリンガル同士の会話では、日本語でも英語でも最初に頭に浮かんだ言葉を発するのでごちゃまぜに話しているように聞こえます。彼らは、お互いの日本語力を見極めたうえで英語と日本語の比率や使う単語の難易度を変えたり、日本語的または英語的な表現はそのまま用いたり、また、強調したい単語や周りに聞かれたくない内容に応じてCSを繰り返します。
ルー語になるのは日本語母語話者の大人も例外ではありません。海外生活が長くなると日本語が出にくくなるのは確かで、現地生活者同士なら理解できるので単語が英語に置き換わったりします。私も「ちょっとbus stopまでdriveして○○をpick upしてくれない?」なんて話しているかもしれません。
混ざっている場合の対処法
幼児の場合、言語習得の過程なのか、何らかの問題があるのかの判断が難しいです。海外では「1人1言語」を基本に、日本語母語話者の親は日本語絵本の読み聞かせや話しかけをたくさんして母語を確立させます。また、日本語会話に英語が混じったら優しく日本語の正しい表現を言い添えます。私は日本語の語彙を増やす良い機会と捉え日本語で言い直させていました。
日本国内の英語子育てなら、英語偏重の育児をしていなければやがてルー語も減るでしょう。インターナショナルスクールでなく日本の学校に通っているというのであれば、日本語が弱くなるということは考えにくいので心配無用です。成長につれて日本語と英語をきちんと使い分けます。
もし、日本語も英語(現地語)もどちらの言葉もインプットが不足していて、芯となる母語*が育っていないと思われる場合は早急に母語を強くする対策が必要です。母語がしっかりしていないと、子どもが生涯にわたり深い思考ができなくなる可能性があります。
幼児が言語を混ぜることにやたらと過敏になる必要はありませんが、親が子どもの言葉の伸長に注意を払うことは大事なことだと言えるでしょう。
注*:母語とは最初に親から習い言語発達の基礎となる言葉。
参考:藤村香予「二言語話者の談話における『コードスイッチング』・『コードミキシング』の必要性」、時田朋子「同時バイリンガルの言語使用」、吉田 絢奈「バイリンガルとモノリンガルの日英語コードスイッチングの容認性」
この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2020年9月号に寄稿したものです。 https://torja.ca/kaede-trilingual-07/
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