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短編小説「写す」



 日も暮れだしクラスに残る生徒は男子生徒の2人だけであった。1人の生徒は教卓前のノートを2冊並べ、片方のノートの内容をもう片方へ書き写していた。両方の耳たぶに飾られた質素なピアスと、黄砂のような黄褐色に染められた短い頭髪。多くの教職員がその風貌を見て、彼は不真面目な生徒と評するが、宿題に対する提出意識はあるようである。やり方は決して褒められたものではないが。




 もう1人の生徒は、いかにも優等生のような出立ちをした黒髪の少年であった。彼は特にやることもないためか、教室の窓側のカーテンを閉めていた。タッセルを手に取り、カーテンの端を片手で掴むと、牛飼いが乳牛を散歩させるようにゆっくりとカーテンレールに沿って歩いた。彼の動作からは焦りは感じられない。彼は教室でノートを書き写す友人を気遣っているのであった。(自分の行動によって友達を焦られせはいけない……)彼は黄褐色の頭髪少年を〝友達〟と感じているらしいが、その関係性には些か疑問が残る。




 「よし、ようやく終わった。マジで今回の宿題面倒だったわ。途中式とかも全部書かせるとかふざけてるよな」黄褐色の頭髪少年は机の上に広げていたノートを片付けながら、教職員に対する愚痴を吐いた。「お疲れ様、大変だったんじゃない?」「そんなことないよ、どうってことないね」労いの言葉を受け黄褐色の頭髪少年は少し得意気な表情を作り、片方のノート黒髪の少年へ差し出した。





 「腕治るまで、この程度の提出物だったら俺が書き写してやるから遠慮するなよ。俺も書き写すだけで復習になるし、楽しんでるんだから」黒髪の少年は差し出されたノートを、三角巾で吊るしていない左手で受け取った。そして、少しノートの中を確認してみたが間違いなどは無さそうであった。黒髪の少年は、学年1位の学力を持つ友達———いや〝親友〟の満足そうな表情にいつも救われている。




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