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「トマトジュースとタバスコ」

あれは学生時代
商店街の中ほどの
階段を降りた地下にあった喫茶店
少し仄暗い中、流れるクラッシック

友人と話すのは
恋の話から趣味の話に
それから人生について
真剣に悩み迷い語り合ったあの日々

わたし達が飲むのはいつもトマトジュース
何故かそこにタバスコを一振り二振り
不思議に辛いとは思わなくて
大人のスパイスみたいに思ってた

話は尽きずに時間は過ぎる
大きめのグラスに入った
トマトジュースが無くなる頃に
名残惜しいけど解散

あの頃のわたし達の
夢と情熱を、今眩しいように、思う

卒業後に友人は故郷に帰り
それから暫くして結婚した
わたしもそのあと結婚して
時々交わしていた便りも
いつしか途絶えてしまった

青春という名のセピア色になった時間
あの喫茶店もとうになくなってしまった

ああ、そういえばいつも
わたし達の指定席は一番奥のあの席だった
わたしは今でも時々思い出す
熱く語りあうわたし達の前に置かれていた
あのトマトジュースとタバスコ

懐かしき若き日の残像


【詩集】「満月音匣」つきの より

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