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男は性欲に振り回されるから浮気するってほんと?

男なんて、どうせ浮気するに決まってる

男に絶望している女性は多い。
どうせ浮気されるから、もうその前提でいよう。男なんてどうせ浮気するし。期待するだけ無駄だ、傷つくのはこっちなんだから。そんなの馬鹿みたいじゃない。
別に浮気してもいいわよ。ただ、絶対に私にバレないようにしろよ。浮気がわかったら、お前殺すからな。

このような怒りを抱えている。腑が煮えくりかえっている。

そして我々男も、どこかで諦めている。
だってしょうがねえじゃん。女体を求めるのは男の本能なんだから。おっぱいデカい子いたら、どうしたって見ちゃうじゃん。ヤリてえなって思うじゃん。
いや、妻のことは愛してますよ。でも、なんていうかなあ、こんなこと言ったらあれだけど。毎日寿司だと飽きるでしょ。たまにはカレーも食いたいでしょ。でも俺が本当に好きなのは寿司なんです。だからちゃんと家には帰りますよ。別にそれでいいじゃないですか。

このようなくだらない言葉遊びに逃げるのは、我々男の十八番だ。
だが断言する。これは嘘だ。人生の嘘。
男も女も、心の底では求めている。絶対に自分を裏切らないパートナーを。裏切る、なんて頭によぎる事のない、本当の信頼を。

わたしは浮気を繰り返すクズだった。そして周りの男も、「浮気しない男なんかいないだろ」と開き直っているクズだった。そしてそれは男の本能だから、と言い訳して人生から逃げ続けるゴミだった。
いつから浮気に逃げるようになったのだろう。記憶を遡っていくと、中学三年の頃を思い出す。田舎の公立中学校に通っていた私は、その現象を日常のように見てきた。たかがガキの付き合う付き合わないなんて、大人から見ればくだらないと思うだろうか。だが当時の俺を抉るには十分すぎる現象だった。
田舎で、大した娯楽のない中学生たち。土日になれば皆で自転車でイオンに行くしか能がない中学生たち。やることといえば、イオンのフードコートで屯するか、カラオケに行くか、誰かの家で酒飲んでタバコ吸うぐらい。あとはヤることぐらい。
誰々が付き合った、誰々が浮気して別れた。別れた奴が同じクラスの誰々とまた付き合っている。男も女も猿のように、まぐわう相手を取っ替えていた。俺は真面目だったから浮気なんてしたことがなかった。
だが突然その日はやってきた。同じサッカー部の、親友だと思っていた奴が酔っ払った勢いで言い放った。駿の彼女、すげーフェラ上手いんだよな、と。問い詰めたらそういうことだった。
全くそんな気のなさそうな彼女だったから、抉られた。男にも女にも裏切られ、人間というのは恐ろしいものだと植え付けられたのは多分この頃だと思う。夜、家に帰るとギャンブル狂いの養父が母親のケータイを盗み見て「浮気してんのか」とよく怒鳴っていたから、男にはもちろんだが、なぜか女に対しては特に強い嫌悪感が生まれた。

どうせどこかで裏切られる。だったら最初から裏切ってやれ

俺は浅はかなリスクヘッジに囚われた。裏切られたくないなら最初から人間と関わらなければいいのに。女に一際強い嫌悪感があるなら近づかなければいいのに。でも女性の肌に飢えて。寂しい、でもこわいと怯えながら女性を口説く。滑稽な矛盾を抱えたガキのまま20代後半まで生きてきた。
彼女が居ても他の女性との繋がりを切らさない。だから彼女との関係性に微々たる暗雲が立ち込めても問題ない。いつでも構ってくれる女性はいるから。そう、必死に自分を騙そうと努力してきた。必死に努力している時点で24時間不安で苦しいのに。そんなことにも気づかずにいい歳まで生きてきた。

もう、そんな生き方やめよう
一度だけ、21歳あたりでそう思うようになった。多分、浮気することに疲れてしまったからだと思う。気を抜いた時にふと、彼女ではない別の子と行った場所の話をしないようにしなきゃ、とか。ヤってる時に危うく別の子の名前を言いかけて危ない危ないとか。もうそんなことに冷や汗かいたりするのは疲れる、と。だから当たり前だが、彼女がいる時は他の女性と関係を持たなくなった。
22歳の時、バイト先の会社の、子会社の役員の人と付き合っていた。32歳の人だった。珍しく一年ほどちゃんと付き合い、仲良く過ごしていた。
とある会社から誘われていたが、かねてから「起業家になる」と息巻いていた俺はいよいよ決心した。貯金2万円しかないけど、もう就職せずに起業しようと。就職してしまったら恐れが出て起業できなくなる。失敗して一文無しになってもいいや、その時は多摩川の河川敷に立派なブルーシートの城を建てて暮らそう。「成功者になれないなら死にたい」と病んでいた俺は、そんな投げやりな気持ちで誘ってくれていた会社を断った。

10月中旬、やっと涼しくなり始めた日の夜。彼女の家でご飯を食べていた俺は彼女に言った。「俺、やっぱり起業する」と。唐突に、背景の説明も無しに。何度か口先だけではそんなことを言っていたから、なんとなく起業したいんだろうな、というのは彼女は知っていた。でも多分彼女は、「若造の戯言」だと思っていただろう。本気でするわけない、と。だから唐突に切り出した時、一瞬空気が止まった。食事をしていた彼女の手が止まった。シュッとした強い眼の彼女。一緒にいる時は角が取れていて柔らかい、優しさを帯びていた彼女の眼が変わった気がした。柔らかさが徐々になくなり、温かみのない眼に変わっていった。

…就職しないの。

なるべく穏やかに言おう、という彼女の配慮を感じた。だがそれに反して、冷たい声色が彼女の口から出てきた。無神経な俺は、彼女の心情に想いを馳せることができず。淡々と、だが若干の興奮が乗った口調で俺は説明した。
わたしが聞きたいのはそんなことじゃない。
そんな彼女の裡の声を、機微のかけらもない糞ガキの俺は聞き取ろうとすらしなかった。あなたの頭の中に私はいないのね。彼女は多分、そう感じただろう。

…へえ、そうなんだ。フリーターになるんだね。

一企業の役員として戦っている彼女からすれば、社会も知らない、なんの実力もないガキが下らないことを言っている、と思ったのだろう。明らかに俺を見下した口調で、彼女は俺を抉った。人の傷は感じ取れないのに、自分の傷だけは都合のいい時だけ感じ取れた俺は強烈な怒りを覚えた。勝手に「彼女ならわかってくれる」と期待を押し付けて、それが裏切られた。

ああ、もういいや。

怒りを表現することが心底恐ろしい俺は逃げた。彼女と向き合い、互いに削り合いながらも理解を深めていく、というプロセスを生まれてから一度も踏んだことがない俺は、勝手に傷ついて勝手に諦めた。
俺のことを理解してくれない女なんかいらねえよ。
自分が相手を理解しようとしないのに、ということすら分からなかった。どうせこいつも俺を裏切って傷つけるんだ、と本気で思っていた。彼女は徒に人を傷つける人ではない。なぜこれほどの怒りを俺にぶつけたのだろう。彼女はただの付き合いではなく、俺との将来を期待してくれていたのだろうか。だから怒りを覚えたのではないか、といったことすらも、何も考えることができなかった。

あっという間に元の自分に戻った。浮気し、頃合いを見て彼女とは別れた。

・他に好きな人ができた
・俺では君を幸せにすることができないと思う
・仕事が忙しい

男がよく使う「別れる時のクソ三大台詞」のいずれか、あるいは例外のクソ台詞の何かを言って別れた。もうなんと言ったかも覚えてないほど、ゴミな別れ方だった。

冒頭のテーマに戻る。男は性欲に振り回されてしまう生き物、だから浮気をするのはしょうがない。

これは真っ赤な嘘だ。自分の人生を振り返った時、一度も「性欲」という概念が出てこなかった。表面的に、「あの子の方がスタイルいいしエロいから」と自分が認識していた時もあるが、それだって「なぜ?」と徹底的に原因を掘り下げていけば性欲なんかではない。他の男たちの話を聞いていたって、「性欲」を傘にしている中身スカスカの理由だけだ。根本を見ていけば、絶対にそうではない。

向き合えない臆病者だから
ただそれだけだ。これ以外にない。「あいつは全然俺を理解してくれない」
「相性が悪い」「価値観が合わなかった」。浮気する弱い人間は、言葉巧みに様々な理由を挙げる。表面だけコーティングされた、中身が何もない、なんの思考もない理由。掘り下げていけば必ず、「向き合い不足」という言葉に負ける。

…へえ、そうなんだ。フリーターになるんだね。

こう言われた時に、傷ついてシュンとしている場合じゃない。「なぜそんなことを言うのか」ただこれを確認すればいいだけの話。あいつはどうせこうだから、こう思っているんじゃないか、だからどうせ言っても話し合っても意味がない。頭でごちゃごちゃ言い訳して、「他の女ならもっと上手くいく」「もっと俺のことちゃんとわかってくれる女がいるはず」「もっと相性いい女がいるはず」と、存在するはずもない女神のケツを追いかけ続ける。気づいた時にはチンポは勃たなくなっており、妻から熟年離婚され孤独死していく。

なぜそんなことを言うのか
これを勇気を振り絞って言えば、全てが変わる。彼女は怒りをぶつけ、我々男を傷つけてくるだろう。だが最初に傷つけたのは我々かもしれない。その原因と彼女の気持ちの両方と、全力で向き合う。
我々男は、「自分の弱みを見せたら負け」という呪いの中で生きてきたから、自分の弱さと向き合うのは身を切り裂かれるような思いがする。死ぬほど恐ろしい。だから彼女や妻と亀裂が生じた時に、「なぜ?」と踏み込んでいくことができない。

なぜ向き合えないのか。
それは徹底的に原因を考えれば答えは一つ。我々が最も恐れている親と向き合えていないから。動物にとって、親は生まれた時から「自分より強い」と刷り込まれている最強の敵だから。その敵に傷つけられ逃げ続けているままだから、目の前の女性と向き合えないのだ。だからいつ捨てられても大丈夫なように、表面的な薄っぺらい安堵感を求めて、複数の女性に囲まれることを望む。そして死ぬまで、存在しない女神のケツを追い回す。

崖から飛び降りるつもりで。死ぬ気で向き合えば、本当に欲していた安心感が手に入る。浮気の価値が暴落し、頭をよぎらなくなる。
親と向き合おう。根本を潰せば生き方が根底から変わる。目に映るもの、その全てが変わる。
そうすれば、目の前の女性と怖れずに向き合える。「なぜ?」と踏み込もう。寂しい時は他の女性に逃げずに、目の前の女性に「抱いてください」と言おう。
筋トレに明け暮れ胸筋膨らませてサングラスかけてヤニ吸って眉間に皺寄せて「俺の言うことをきけ」と言うのが男らしさではない。猫のようにごろんと床に転がってお腹を見せること。男から勇気を出して弱みを見せて、女性と心を通わすための一歩を踏み出すこと。
これこそが、男らしさではないか。





以下の長編小説、企画出版希望です。
編集者や出版関係者でこちらの内容を本で出版したい、と思ってくださる方は、
kanai@alba.healthcare
こちらまでご連絡ください。

第一弾:親殺しは13歳までに

あらすじ:
2006年。1日に1件以上、どこかの家庭で親族間殺人が起きている国、日本。そんな国で駿は物心ついた頃から群馬県の田舎で、両親の怒号が響き渡る、機能不全家庭で生まれ育つ。両親が離婚し、母親が義理の父親と再婚するも、駿は抑圧されて育ち、やがて精神が崩壊。幼馴染のミアから洗脳され、駿は自分を追い込んだ両親への、確かな殺意を醸成していく。
国内の機能不全家庭の割合は80%とも言われる。ありふれた家庭内に潜む狂気と殺意を描く。


第二弾:男という呪い

あらすじ:
年間2万体の自殺者の山が積み上がる国、日本。
想は、男尊女卑が肩で風を切って歩く群馬県の田舎町で生まれ育つ。
共感性のかけらもない親たちから「男らしくあれ」という呪いをかけられ、鬱病とパニック障害を発症。首を括る映像ばかりが脳裡に浮かぶ。
世界中を蝕む「男らしさ」という呪い。男という生物の醜さと生き辛さを描く。



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