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【2021】インストバンドとは|言葉の意味・代表的な日本のバンド5選など

日本語は、とんでもなくおもしろい。それは「日本語」というものが単なる記号ではなく、微妙なニュアンスを伝える役割を果たすからだ。

例えば日本語の場合は主語→修飾語→術語という順番で文章が成り立つ。しかし英語の場合は主語→術語→修飾語となる。

英語はとにかく要件を円滑に、さっぱりと伝えるのがコミュニケーションの手段。しかし日本語の場合は述語に行き着くまでに、修飾語で微妙なニュアンスを表現するわけである。「私はおにぎりを食べたい」と「私はできればおにぎりを食べたい」では、まったくニュアンスが変わるだろう。

これを「Yes Noがはっきりしない」とネガティブに捉えることもできる。しかしポジティブな考え方をすれば「言葉に繊細な生き物」だということだ。

だからこそ、日本の音楽は特に歌詞を重視する傾向がある。歌謡曲の歴史から、J-POPに至るまで作詞家産業が長く盛り上がり、リスナーは歌詞に共感しながら、音楽を聴くのが常だった。

しかし、ここ数年で日本音楽の楽しみ方は変わりつつある。それは海外音楽がすんごいスピードで日本に侵攻してきたのが要因の1つだ。もはや「あの曲の、このフレーズがいい」という話より「あの曲はノリが良いから、フェスで踊れる」といった話に主題が移っている。

もはや「ドールチェアーンドガッバーナー♪」だ。「香水の香りで元カノとの生活を思い出す」という使い古されたストーリーには、何の面白みも感じない。「ドールチェアーンドガッバーナー」という耳に残るリズムがあの曲の武器なのだ。今後も歌詞よりノリ、というメインストリームは進んでいくだろう。

そこで今回は「日本のインストバンド」を紹介したい。歌詞ではなく曲。ようやく彼らに時代が追いついてきた感覚がある。「もはや歌詞なんていらない」という世界は近い。ウルトラジャパンの盛り上がりを見てくれ。もう歌詞も言葉もないEDMが、あんなに盛り上がっているだろう。

こんな「音楽そのものが重視される世界」が来るとしたら、instrumental(ボーカルなし)は、より日本でも認知されるようになるはずだ。

ちなみに私自身、もう7年くらいインストバンドでドラムを叩いている。おじさんが酔狂でやっている、地元でも誰も知らないバンドだ。

インストバンドを定義してみる

そもそも「インストバンド」と当たり前に書いてしまったが、いったいインストバンドとは何なのか。ここを定義しておかねば、話が進まない。

インストバンドとは「インストゥルメンタルバンド」の略で「歌がなく楽器だけで構成されるバンド」のことだ。しかし音楽といえばクラシックの時代も含め、もともと歌がないものだ。じゃあどこからがインストバンドなのか、という議論がある。

私は4年間ほどライブハウスで働いていた。バンドマンたちが口にするインストバンドとは、ある種の俗語だった。これはロキノン系に近い。

例えばビッグバンドのジャズはインストバンドだろうか。なんか違う気がする。T-SQUAREなどのフュージョンバンドはどうか。これもなんか微妙に違う。クラシック然り「歌がないことがスタンダードなジャンル」である場合は、あえてインストバンドとはいわない。

もちろんインスト(instrumental)の定義は「歌がないこと」だ。しかし俗に言う「インストバンド」となると、そうではない。ここで以下のようにインストバンドを定義する。

本来は歌がありそうなロック、またはポップスであるのに関わらず、ボーカルが入っていない音楽

おすすめ国内インストバンド5選

ではこの定義に基づいて、おすすめの国内インストバンドを5つ挙げてみよう。なお、今回はあくまで入門編である。すでに音楽玄人の皆さまからすると「今さらなに言ってんだこの野郎」と思うかもしれない。

しかしこのメディアのコンセプト的にも「はじめてインストバンドを聴く方」に向けて書くことにしよう。なお、もしハマってしまったときに困るので、また活動を続けているバンドに絞って書く。

toe

先の動画を観てもらうと、分かる人には分かるだろう。toeにはめちゃくちゃ影響を受けた。「toe、かっこいいよね」という話題からバンドを組んだほどだ。

toeは山嵜廣和、美濃隆章、山根さとし、柏倉隆史からなるバンドだ。もともと美濃と柏倉はREACHというメロコアバンドをしていた背景がある。その影響もあるのか、ライブパフォーマンスは圧巻の一言。とんでもない。4人の気迫でもう動けなくなる。

またtoeの4人はバンドだけで飯を食っているわけではない。各々がデザイナーやコンポーザー、スタジオミュージシャンとして本業をしている。そのうえでこれだけ売れるのが、大人の余裕があってかっこいい。

ただし、もちろん音楽に対しても熱い。2020年には「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」というプロジェクトを立ち上げた。コロナ下で客が来ずに困窮しているライブハウスのために、コンピレーションアルバムの売り上げを寄付するものである。

toeの呼びかけに、東京事変、ナンバーガール、Chara、BRAHMAN、スチャダラパー、石野卓球などの豪華なアーティストが集まった。toeの音楽界での影響力の大きさをあらためて思い知る。

LITE

LITEは逆輸入のような形で人気を博したインストバンドだ。日本で売れる前にヨーロッパで人気となる。楽曲がハンパなく複雑であり、キレッキレ。尖りまくったサウンドが特徴である。

演奏面でいうと、ギターもベースもドラムも、とんでもなくレベルが高い。「え、なにそのフレーズ。どうやったら思いつくん?」と驚く瞬間がめちゃめちゃある。

ただし、もちろんスキルだけではない。楽曲がめちゃめちゃキャッチーであるため、聞いていて楽しいバンドだ。

SPECIAL OTHERS

インストバンド界の横綱。略してスペアザ。toeやLITEがなんとなく、屋内で聴くのが似合うのに対して、スペアザはもう「山で聞くのがいちばん」というバンドだ。とにかく青空とビールが似合う。

もともとエレキ!という感じはなく、アコースティック感があるバンドだが、デビュー10周年を機に「SPECIAL OTHERS ACOUSTIC」を始動。より優しくなった。例えるならナイトキャンプで焚き火を前にホットコーヒー飲みながら聴くような……そんなおしゃれさを気取りたいときに聴いてほしい。

rega

regaは数あるインストバンドの中でも非常に聴きやすいと思う。曲の背景にユーモアがあるバンドだ。曲の構成はもちろん、ギターの掛け合いもベースのうねり方も、ドラムのフレーズも、溢れんばかりの遊び心がある。「そ、そうくるか!」という瞬間が連続でくる。彼らは発明家だ。

聴いていて、非常に楽しいバンドだが、決してシンプルなわけではなく、ものすごく緻密に作られている。一時期は活動を休止していたが、2019年から活動を再開した。新譜が待ち遠しいバンドの1つだ。

nuito

先に書くとnuitoは確実に入門編ではない。先の4バンドに比べると、知名度こそないものの「nuitoはちょっと紹介しておかなきゃ」という気を起こされる。nuitoほど自由で複雑な曲をするインストバンドは、世界を探しても珍しいのではないか。前衛すぎて、もう背中が見えない。誰も追いつけない。

私は大学2年生くらいのときにnuitoを知ったが、当時はiPodが壊れるくらいリピートしたものである。難解すぎて何度聞いても理解できなかったのだ。「絶対、レコーディング一発録りで再現できない曲なんだろう」と思った。しかし、これがちゃんと作られた曲なのである。ライブでものすごくしっかり演奏しているのだ。

nuitoもregaと同じく、活動を再開してからほとんど活動をしていない。さらにいうと、活休する前もほとんどリリースをしていない。ゆえに半ば伝説になりかけているバンドだ。200年後くらいに流行るかもしれない。

歌詞がない。だから"音楽"がもっとわかる

さて今回は日本を代表するインストバンドを5つ紹介した。この他にも日本には山ほどインストバンドがいる。しかし長く「歌詞」が重視されてきた日本では、なかなか流行らないものだ。

今回、紹介した5バンドも、やはり日本より海外からの評価が凄まじく高い。YouTubeのコメント欄とかもう英語ばっかりだ。

しかしインストにはインストの良さがある。歌詞がないからこそ、楽器がよく聞こえる。「よし!私は今から音楽を聴くぞ!」と思って聞いてみてほしい。一度、リズムやメロディ、ハーモニー、低音から高音までに集中してみようではないか。

音楽は人の生活に馴染みすぎたのである。今や「聴く」という行為に集中することはない。

だからこそ、インストを真剣に聴いてみようではないか。これまでボーカルしか耳に入ってこなかった方も、より音楽の奥深さ、おもしろさに気づくはずだ。「あれ、こんなに音が重なってるんだ」という発見が、音楽にハマる入り口になるかもしれない。

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