「神話の法則」を徹底解説! ハリウッド発・ヒット作のテンプレ
あの映画も、このマンガも、そのアニメも、すべて「ウケる法則」にのっとって描かれたとしたら、あなたはどう思うだろう。
いま作品を作ってる人としては「そんなん私が知りたいわい」と思うかもしれない。ロマンチストであれば「そんなわけない! パターンなんてあるはずない!」と胸ぐらを掴みたくなるだろう。
しかし事実、エンタメ作品におけるヒットの法則は「ある」のだ。今回はハリウッド脚本の教科書、といわれるプロット「神話の法則」について紹介しよう。
「神話の法則」とは「ヒット作のテンプレ」
「神話の法則」は2010年にクリストファー・ボグラーが発刊した書籍である。
彼は「ストーリー開発コンサルタント」という、一見めちゃ胡散臭い肩書きの人物だ。言うなれば脚本家ではないものの、脚本のヒントをライターに与えるお仕事である。「美女と野獣」「ライオン・キング」「アイアムレジェンド」などの作品に参加している実はすごい人である。
そもそも、ハリウッド映画というのは、ものすごくビジネスライクに作られる。ハリウッド式の脚本の書き方は、1人のストーリーライターが書き上げるのではない。「じゃあAさん1章、Bさん2章書いてね」と数人に振り分けて後からガッチャンコする。
その理由は「早く作品ができるから」だ。単純に仕事が早く進むのでみんなでやろうよ、という考え。なので創作性というより、ビジネスが大事なのである。
そこでボグラー氏は「ウケる法則を定義したらええんちゃうん?脚本をいちから考えんで済むやん?」と「神話の法則」を出版したわけだ。ちなみにその後には「物語の法則」という本も出している。
しかし「神話の法則」はボグラー氏がいちから作ったものではない。その背景にはジョーゼフ・キャンベルという神話学者が考えた「ヒーローズ・ジャーニー」という法則があったのだ。では、はじめにヒーローズ・ジャーニーの8つの展開を見ていこう。
ジョーゼフ・キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー」とは
ジョーゼフ・ジャーニーはコロンビア大学でも教鞭を取っていた神話学の先生だ。キャンベルは古今東西の英雄伝説や神話を何年もかけて収集していた。そしてある法則にたどりつく。「あれ?話のプロットがほぼ同じなんやけど……!」。そう、各国の神話、英雄譚は、ほぼ同じ流れで書かれていた。
その話を「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」と名づけ「千の顔を持つ英雄」という書籍のなかで発表した。この本で書かれたヒット作の定義はジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグ、フランシス・コッポラなどの映画監督に愛された。なかでも、もともとジョージ・ルーカスはキャンベル氏を知っており、講義を受けたことがあったようだ。
ヒーローズ・ジャーニーでは、以下の8つの流れが英雄譚の王道だと紹介されている。つまりだいたいどの英雄伝説も、この流れで書かれていたわけだ。
1.Calling(天命)
2.Commitment(旅の始まり)
3.Threshold(境界線)
4.Guardians(メンター)
5.Demon(悪魔)
6.Transformation(変容)
7.Complete the task(課題完了)
8.Return home(故郷へ帰る)
ジョージ・ルーカスはこのヒーローズ・ジャーニーを「スターウォーズ」で使ったのは有名な話だ。またその他「マトリックス」「ロードオブザリング」などもこの流れがぴったり当てはまる。
つまりヒーローズ・ジャーニーとは「どうストーリーを書けば、英雄がかっこよく見えるか」を書いたものだ。ジョーゼフ・キャンベルは、ハリウッド監督のメンターであり、監督陣は「すごい具体的で真似しやすいぞこれ」と、こぞってこのフレームワークを取り入れたわけである。
「千の顔を持つ男」をさらに昇華させた「神話の法則」の12ステップとは
ボグラーは、このジョーゼフ・キャンベルの「ヒーローズ・ジャーニー」をさらに進化させた。そして「神話の法則」として出版した。
ボグラーの神話の法則には12個のステップがプロットとして書かれている。では、各項目を紹介しよう。
ここでは万人が知ってる話として「千と千尋の神隠し」で例を挙げつつみていく。とはいえ見てない人も多いはずなので、できるだけ他の作品を挙げながら解説したい。
1「日常」 なんかちょっと情けない普段の姿
まずは日常のシーンから始まる。何気ない日常。この時点では、この後の冒険活劇の雰囲気は感じない。さらに言うと「ちょっと可哀想で情けない姿」を描くことが多い。ラノベの魔王系とか顕著だろう。ハリーポッターで言うと、嫌な家族に虐げられるポッターの姿。シンデレラも継母にいじめられている。千尋も気が弱そうな雰囲気の女の子。今は引っ越しの車に乗って移動中だ。
2「冒険への誘い」 何かが始まるわくわく感
冒険に発生する動機、理由が生まれる。冒険へのいざない、また問題が起こるシーンだ。ハリーポッターでいうとハグリッドが来る。 千と千尋の神隠しでいうと親が豚に変えられてしまい、ハクに助けられるまで。
3「冒険の拒否」 いや急に言われても出来ないって!
冒険に出ることを1度は拒否する。だって怖いもん。やめとくわ。エヴァンゲリオンのシンジくん状態である。千尋も最初はこの世界で生きることを拒否していた。
4「賢者との出会い」いけるいける!という乗せ上手の登場
賢者と出会って諭される。いけるかも!と思い、冒険に出ることを決意する。賢者はいわばストーリーのガイドで、たまに神の目線で物事を見てる設定にもなる。スターウォーズでいうとヨーダに会うシーンだ。千尋はハクと出会い元気になる。
5「第一関門突破」いよいよ日常の外へ
冒険に出発し、第一関門を突破することになる。中ボスくらいを倒して、本格的に日常世界を離れるようになる段階だ。ハリーポッターでいうとホグワーツでトロールを倒して、日常を過ごし始める。千と千尋の神隠しでは湯婆婆から名前をもらって無事に雇われた。
6「試練、仲間、敵、成長」どんどん育っていくヒーロー
冒険先で試練を乗り越えたあと、仲間と遭遇してみんなでがんばる姿を通して、ヒーローが成長する様を描く。エヴァに乗ったシンジくんがレイやアスカと使徒を倒し始めるところ。千と千尋の神隠しでいうと、千尋はリンたちに出会い仕事を覚える。
7「最も危険な場所への接近」ラスボスの登場で何やら不穏な感じ
ラスボスが顔を覗かせるなど、物語の目的がはっきりしてくる。大きな目標が生まれるなどの演出。見ている側はなんとなーくクライマックスが読めてくる。シンデレラでいうと、靴の持ち主を探しに来て、姉たちが次々に履いていくところ。千と千尋の神隠しでいうと重傷のハクを助けて銭婆のところにいく。
8「最大の試練(中間)」ラスボスとの最初の決戦
物語の1つ目のクライマックス。ついにラスボスなどと対決のとき!向かい合う2人、切るか切られるか、みたいな張り詰めたムードのなか、戦いが始まる! ここは時間軸としては短いのが特徴。千と千尋の神隠しではたくさんの豚から両親を言い当てるシーンが最大の試練にあたる。
9「報酬」 戦いの結果、何かを得る
戦いを終えて何か報酬を手にする。「神話の法則」にはここでは必ずしも勝つとは書いていない。「この戦い何かを得る」ということが大事なところだ。千と千尋の神隠しでいうと元の世界に帰ることを許され「自由の身」を手にした。
10「帰路」 強くなった姿で元の日常に
最大の試練からなんとか生き延びて一旦落ち着く。しかし危機からは完全に脱せていない状態であり、ストーリーはまだ続く。千と千尋の神隠しでは、千尋が仲間たちに祝福されながら油屋から現実に戻る。
11「復活」 最終的なクライマックス
8で体感した試練を超える物語の最終的なクライマックス。当初の目的が達成される瞬間であり、物語はほとんど完結に向かって突き進む。今度こそ最大の試練を完全に乗り越える。千尋はトンネルの向こうで両親に会う。何も覚えていない両親と嬉しくて泣いてしまう千尋が描かれた。
12「宝を持っての帰還(大団円)」 何かを得た姿で元の世界に
最大の試練を乗り越えたあと、宝を持って日常に帰る。ここでの宝とはパワーや所帯、金銭など、そのストーリーを象徴するもの。千尋はそれまでなかった心の強さを持って、元の日常に戻っていった。完結。
「神話の法則」はあらゆる名作に当てはまる
ぜひ神話の法則を知ってから、映画やアニメ、漫画を見返してほしい。冒険系はもちろん、そのほかの作品にも、この12のプロットがピタッと当てはまることは多い。
映画でいうと「スターウォーズ」「マトリックス」「ロード・オブ・ザ・リング」は先述したが「ハリーポッター」なんかも、気持ちいいくらい当てはまる。
マンガ・アニメもそうだ。「千と千尋の神隠し」は例に挙げた通り。「君の名は」も神話の法則に基づいているし「ワンピース」「NARUTO」などのジャンプ作品は顕著だ。最近でいうと「鬼滅の刃」も近いのではないか。そのほか「セーラームーン」や「プリキュア」「ヒーロー戦隊シリーズ」などの東映アニメーションもこの法則に当てはまる。
まさに「神話の法則」はハリウッドだけでなく、世界のエンタメを構築した偉大なるプロットなのである。
とはいえ「テンプレをどう壊すか」が勝負でもある
とはいえ、神話の法則はあまりに使われすぎた結果、今となっては私たちも展開に慣れてしまっているのも事実だ。正直、なんとなく先が読めている。「あ〜これもうすぐピンチになるだろうな〜」とか「もっかい大オチ来るだろうなぁ〜」みたいに、ストーリーが見えてしまうのだ。
だから今ではあえて「神話の法則」を崩したような作品もよく見られるようになった。「ラスボスが実はヒーローだった」とか「時系列が逆転していた」など、視聴者の予想を裏切る工夫が見られるようになったわけだ。これからはより「神話の法則」をどう裏切るかがクリエイターの腕の見せ所だろう。
とはいえ、やはりさすがハリウッドの教科書。あの作品もこの作品も、見事なまでに当てはまる。ぜひ自分の好きな作品で、分析みてはいかがだろうか。
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