映画『アフター・ヤン』とコゴナダ監督
コゴナダ監督、待望の新作が公開!
その『アフター・ヤン』が素晴らしかったです。
なかなか簡単に感想を言うのが難しいタイプの作品ではあるのですが、色々とポイントはありますので、note書いてみたいと思います。
監督二作目にしてこの安定感、出来上がってる感があるココナダ監督を掘り下げてみたいと思います。
『アフター・ヤン』
<あらすじ>
テクノと呼ばれるAIロボットが家族の一員となっている近未来。中国系の養女ミカは、ロボットのヤンを兄のように慕っていたがある日ヤンが故障で動かなくなってしまう。修理の過程で、秘められたヤンに残された記録が明らかになってゆく…
いやー、しみじみ良かったです。
大きな波があるタイプの作品ではなくて、粛々と物語が進んでいくんですが小さい出来事が重なっていって、最後の感動につながります。
それではこの映画のポイントを見ていきたいと思います。
映像が美しい!
コゴナダ監督の美意識の高さを感じさせる映像美。
家のデザイン、建築物、洋服、インテリアから器など小物まで、細部にまでこだわりが感じられて、美術まわりが全て美しいです。
特に今作では、東洋のテイストになっていて、父であるコリン・ファレルの衣装もアジア的だし職業もお茶専門店でブレンドしたお茶を急須で入れています。(紅茶ではない)
養女ミカも中国系で、そのため中国系ロボットのヤンを購入したそう。
養育係でもあるヤンはミカに中国の話を聞かせたりもします。
小津安二郎を敬愛するコゴナダ監督らしく、構図もバッチリきまっています。
「喪失」と「記憶」
本作のテーマは、「喪失」と「記憶」かなと思います。
ヤンという家族の一員を失ったことで、改めてヤンの存在感や大切さに気付かされていきます。失って気づく関係性、そして喪失感。
コゴナダ監督は前作『コロンバス』でもそうでしたが、失うことで初めて知る家族との関係性を描いてきました。
そして「記憶」。
ヤンには自分で決めた一定の映像を「記録」しておける機能がありました。
でもそれってもはや「記憶」ではないだろうか。
ほぼ人間と変わらないAIロボットが自らの意思で決められる一定量の映像記録。そこには大切な思い出だけが詰まってるんです。
そこに気づいた時、後からジワジワ効いてきて。泣けてきちゃうんです。
前作『コロンバス』
コゴナダ監督の長編デビュー作『コロンバス』。
主人公は、倒れた高名な建築学者の父を見舞うためにモダニズム建築の街・コロンバスを訪れ、そこで出会った女性とコロンバスの建築群を見てまわります。そして疎遠であった父の側面も知っていくことになります。
これもしみじみいい作品です。
二人の会話を通してアメリカを代表するモダニズム建築を知ることができます。画面の構図もバッチリきまっていて、建築やアートはもちろん、『アフター・ヤン』にも通じる家族との関係性が感じられるところも見どころです。
動画配信でも観ることができます。
小津安二郎の影響
コゴナダ監督は、小津安二郎監督を敬愛していることを公言していて、小津映画の画面における構図をまとめた短編映画も作ったりしています。
しかもコゴナダという珍しい名前の由来は、なんと小津映画に欠かせない脚本家の野田高梧からきてるんです!
冗談みたいな話ですが、本当です笑
『コロンバス』の公式サイトにもちゃんと書いてあります。
一番感じるのは、その整然と計算され尽くした画面の構図です。
上下左右の対称性などに小津らしさを感じます。
本作のパンフレットを読むと映画評論家の方々が様々な小津映画からの引用を紐解いています。
オープニングの記念撮影から始まるのが『麦秋』や『長屋紳士録』からきていたり、『東京物語』や『戸田家の兄妹』などにも触れています。
詳しくはぜひ本作のパンフレットを手に取ってみてください。
Ozu // Passageways
コゴナダ監督が発表した小津映画の構図を映し出した素晴らしい短編作品です。
わずか1分ちょっとの作品ですが、小津映画で繰り返されるローアングルで左右対称のシンメトリーの整然と計算され尽くした構図の特徴がめちゃくちゃ良く分かります。
本当に好きなんだなーってしみじみ思います。
A24作品
映画好きの方ならご存知かと思いますが、エッジの効いた傑作を連発しているアメリカの映画レーベル「A24」。
本作は、そんなA24作品となってます。
A24作品というだけで一定のクオリティは保証されていると思ってもらっていいと思います。
いわゆるハリウッド映画とは対照的なアート的でエッジの効いた良作です。
(スリラーやホラーも多いですが)
A24については、以前にnote書いてますのでそちらもぜひ。
坂本龍一、Asuka Matsumiyaの音楽!
オリジナル・テーマは教授こと世界の坂本龍一です。
「Memory Bank」もいい曲です。
ココナダ監督の短編ビデオは元々チェックしていたんだとか。
劇伴を手掛けたのは、ロサンゼルスを拠点に活動する作曲家のAsuka Matsumiya。スパイク・ジョーンズ、ハル・ベリー作品のほか、ミュウミュウやシャネル、アウディなどのブランドとも仕事してるそうです。
劇中の家族参加のダンスゲームの音楽とか、真面目にやってるんだけど笑っちゃいます。
コゴナダ監督とは
コゴナダ監督は、韓国系アメリカ人です。
韓国生まれで、先ほどの小津映画の短編など数々の短編作品を手掛け、2017年の『コロンバス』で長編デビュー。本作が2作目となります。
小津安二郎を敬愛しており、他にもロベール・ブレッソンやイングマール・ベルイマンにも影響を受けているそう。
Apple TVでは『パチンコ』というドラマシリーズも手がけています。
公式サイトもいけてます。
最後に
失ってから気づく関係性と喪失感。
そんな家族の姿を描くのがコゴナダ監督の特徴なのかなと思います。
そして映像美やインテリアなど美術的なセンス。
この辺りがコゴナダ監督の魅力です。
ああだこうだ言いましたけど、映像的感覚だと思いますのでまずは観てもらってどこか感じるところがあれば、いい相性なんだと思います。
次の新作も楽しみに待ちましょう。
コリン・ファレルも昔はハリウッド大作の役者な感じでしたけど、ここ最近は『ロブスター』とか個性は監督のアート作品に出だして、演技の幅も広がっていい感じです。
ミカ役のマレア・エマ・チャンドラヤちゃんも良かったです。
歌上手いと思ったら歌手なんだとか。サッカーの試合前の国歌斉唱をやっちゃうくらいなんだとか。すごい名前ですがインドネシア系アメリカ人らしく中国語の他4ヶ国語も喋れる才女だそうです。彼女も今後どうなるか楽しみです。
ミニシアター系で公開館も多くはないですが、この機会にぜひ。
最後までありがとうございます。
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