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【わからない】南伸坊の個人授業シリーズは「落ちこぼれ」だから出来た講義録。これは優等生にはできない技だ。

「わからない」ということは
恥ずかしいことではない、、、
むしろ、なぜ自分は
「わからない」のか?
それを手がかりにして
核心を追求する、突き詰める。

一昨年に亡くなった作家
橋本治の本、
「『わからない』という方法」
(集英社新書)はそんなユニークな
発想の提唱でした。

普通「わからない」ことは
勉強したり、リサーチしたりして
無知を解消してから、
物事を考えるのが一般的。
知的に自分を見せたい欲望も
ありますしね(笑)。

勉強があまり出来ない、
勉強が苦手な落ちこぼれは
ちょっとカッコ悪い。
普通はそうはならないよう、
本を読む訳ですし(笑)。

ところで、この世には
優れた「落ちこぼれ屋」がいます。
イラストレーター南伸坊さんです。
南伸坊さんが
生徒さん役になって、
色んな先生が講義を開いて
楽しく教える、そんなスタイルの
本が何冊も出ました。

河合隼雄さんが先生になった
『心理療法個人授業』では
南伸坊さんが、
全く心理学やカウンセリングに、
無知な状態で授業を受けて
心理学の核心や面白さを
見つけていくんです。
これは「優等生」には
絶対にできない芸当です。
南伸坊さんは、自分の「無知」を
恥じることがなく、
いや、むしろ武器にして、
深い学問に向き合って
ユーモラスに学習していきます。
南伸坊さんの発見で印象深いのは
あの河合隼雄先生は一見、
仏?のような穏やかな顔なのが、
話の随所で、うわ?怖いマフィア?
みたいなドスの効いた顔に
変わるんだそうです。
偉大なカウンセラーは
温かみと凄みを両方持っている
のでしょうか?

他にも、
免疫学の権威だった多田富雄が
先生になって南伸坊に授業する
『免疫学個人授業』は
免疫というシステムの謎を
解説してくれるんですが、
この本でも、南さんは
ズブの素人として、
誰もがわからないポイントを
一般人の代表として
先生に質問していきます。

『解剖学個人授業』では、
養老孟司先生が
南伸坊に講義するんですが、
いきなり伸坊さんは
「今では人体の臓器はほとんど、
構造がわかってますね?
敢えて今、解剖学を勉強する
意味はあるんですか?
解剖学は今、何をしてるんですか」
と切り出して養老先生を
良い意味で困らせます。
これは核心的な質問だったんです。

『生物学個人授業』では
池田節人という先生が
遺伝子って何?
オスとメスが出来たのはなぜ?
死ぬって何?みたいな話を
南伸坊が上手く誘導するように、
落ちこぼれ生徒として
聞いていきます。

この4冊は、
南伸坊の「個人授業」シリーズで、
今はちょっと古書店にしかないですが、
こんなに面白くてタメになる
シリーズを復刻しない
各出版社の文庫編集部は、
勿体ない宝を埋もれさせてますね。
私がどこかの編集部にいたら
絶対に復刻しますね。

ああ、話が長くなりました。
優等生ではなく、
「落ちこぼれ」だからこそ出来る
謎の解明。核心への追求。

「わからない」は、
武器になってくれるんです。
知ったかぶりが一番詰まらない。

どこかの出版社の文庫編集部さん、
『心理療法個人授業』
『免疫学個人授業』
『解剖学個人授業』
『生物学個人授業』
復活させてくれないかなあ。

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