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出版界の多様性は大丈夫でしょうか?

山川方夫(まさお)という作家を
好きになったら、
同時代に同じくらいマイナーな
野呂邦暢(くにのぶ)も目に止まり、
これまた好きになりました。

山川方夫は、1930年に生まれ、
1965年に交通事故で急逝した、
とある。享年34。
あまりに早い旅立ちですね。

こうした、いい作家なのに、
時代のせいか、
何か他のせいか、
マイナー作家になり、
なせか一般的な知名度はなくなる。
クオリティはとても高いのに…。

今では、山川方夫は
文学好きな一部のファンの間で
ちょっと知られる程度で
ほとんど人口に膾炙していない。 
だから、山川方夫について
ああこう話ができる機会が
なかなかないんですね。
それが悲しい…。

こうした現象は
新潮社と文藝春秋の
文芸ツートップの保守性に
拠る所が大きい気がする。

文芸大手はそろばん次第で、
本を出さない。
内容は村上春樹となんら
違いないくらい面白いというのに。

文芸の大手は、
儲からないと考えたら、
作品を出さないでいる。
挑戦はめったにしない。

そんな大手出版社に
一人でも山川方夫好きな
編集者がいたら、
事態は全然違っていたろうに。

そういう意味では、
編集者の好みはバラバラに
多様性があった方がいい。
それをつくづく痛感させられる。

そんな偏りを正してくれるのが、
ちくま文庫や中公文庫、河出文庫ら
準大手出版社の役割ですね。

今、山川方夫の作品集が
出ているのは、
ちくま文庫『長くて短い一年』
ちくま文庫『箱の中のあなた』
講談社文芸文庫『春の華客・旅恋い』

上のちくま文庫は
今年出版された椿事でした。
山川好きには本当うれしかった。
ちくま文庫さんには、
足を向けては寝られませんね。
 
少しだけ山川方夫の作品を
一部、引用させて下さい。
「私はいつも自分にだけ関心をもって生きていればきたのだ。自分にとって、その他に確実なものはなにもなかったので、それを自分なりの正義だと思っていた。私はいつも自分を規定し、説明し、不可解さを追いかけ…」
『愛のごとく』冒頭より。

どうですか?
こんな身も蓋もない自意識を
大胆に書いた作品は
見たことがなかったので、
頭をバットで撃たれたような 
感覚に陥りました。

もう一人、山川方夫と
似た境遇の作家がいます。

野呂邦暢(くにのぶ)さん。
1937年に生まれ、
1974年、芥川賞受賞、
1980年、心筋梗塞で急逝。享年42。

野呂さんは
教科書や国語の問題にされたから、
ご存知の方もいますよね。

野呂さんの本を探そうとすると、
ちくま文庫『愛についてのデッサン』
中公文庫『野呂邦暢ミステリー集成』
ちくま文庫『野呂邦暢史論集』

といったところが、
ここ数年のうちで発刊されました。
きっと
ちくま文庫や中公文庫には
野呂邦暢ファンがちゃんと
いるんでしょうね。

また、野呂さんの一部を
紹介させてください。
「佐古啓介は二人の客が帰ってから新しい煙草に火をつけた。
しばらくぼんやりと考えこんだ。
長くなった煙草の灰が、絨毯にこぼれ落ちた。」
主人公の男の気持ちがよく
表されている描写で、
葛藤していることがよくわかる。
この先どうなるか期待が高まる。

この野呂邦暢さんや
先に引用した山川方夫さんが
絶版になるような出版界は
ディストピアでしょう。

儲からないだろうと、
そろばんを弾くことも、
ビジネスだから大事てすが、
残したい作品、
残したい作家は
きちんと残されて欲しい。

最近、つとに作品の映像化にばかり
力を込める文藝春秋や新潮社や
KADOKAWAの在り方が
多様性を失い始めていることに
私はちょっと退屈してきました。
売れ線作家の作品で
しっかりと利益を得ておいて、
その儲けで、チャレンジすることが
出版社の在り方でしょうになあ…。

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