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【読む】世界は、水村美苗を読んだ人と、読んでない人に分かれる?

この世は、
水村美苗が好きな人と
読んだことがない人で分かれてしまう。
そういう分水嶺として
水村さんはうってつけな存在に思える。
ご本人がこれを読んだら、
ご不快かもしれないけど、、、。

水村美苗さんのエッセイ集が
最近、2冊もちくま文庫から出た。
とてもクラシカルで根源的な人だ。

「文学などというものはなんの役にも
立たないものですが、端からみればどうでもいいような存在に光をあて「美しく生きる」姿を人に知らしめることーーそれがその小さな使命の一つなのではないかと思っています。」
『日本語で読むということ』収録
「美しく生きる」より引用。

「人はより大きく自由意志を行使できるにつれ、より幸せになるのか?思うに『細雪』はこの問いに否、と答えるのではない。この問いそのものを問い直すのである。問い直すことによって、恋愛結婚の物語や、近代の思考がともに前提としていることに、疑問符を投げかける。」
同書収録 
「私が好きな『細雪』」より引用。

こんなにも当たり前のことを
あまりに明晰に、
そうして繊細に書ける人は
最近の文学世界では
かえって少ないのではないか、
と思ってしまうほど、
皆が忘れている話をしてくれる。

もはや誰もそれを話そうとも
しないから、水村美苗の言葉は
心に染み入りますね。

あまりに些細なことで、
見えないけど、そこに光をあて
人生の美しい価値について
語ろうというもの、それが
文学の使命ではないか?
…それは本当にそうですね。

そうしてまた、
人生の中で当然となった側面に
疑問符を投げかけるのも
小説の使命でしょう。

ところで、これも細やかな話で
本当、どうでもいい話ですが、
この水村美苗さんには
悔しい思い出があります。

もう10年以上前。
私はまだ結婚に多少は未練もあって、
周囲の人間に
それとなく誰か紹介してと
言っていた時期のことです。

ある日曜の夜、
部屋でうとうとしていたら 
知り合いの女子から連絡が来ました。
今から荻窪にこれない?
紹介したい女子がいるんだけど。

それを聞いた私はもう大慌てで、
呼ばれた居酒屋に向かいました。
ダサいな、笑。
薄暗いエスニックなお店で、
そこには女子が二人いて、
一人は知人。
もう一人は見た目から病的に繊細そうな
気配が香り立つ、
私の超タイプの女性が座っていました。

正直、これは頑張るぞ!と
心の中でガッツポーズを出した位。
本が好きだという話になり、
彼女は「水村美苗さんは読みますか?」
と私に尋ねました。

普段なら冷静であれば
ああ、あの水村さん?
『続・明暗』や『本格小説』を書いた?
とでも言えそうでしたが、
なぜかこの夜は、テンパって
頭に水村さんの知的な顔や
小説のカバーが浮かばなかったんです。
私はとっさに
「今来てる若いラノベ作家ですか?」
と言ってしまった。

すると、彼女はがっかりして、
急に私からは興味がなくなったのが
表情で分かりました。もう時すでに遅し。
水村美苗さんのこと、
チャンと思い出せていたらなあ?

こんな思い出があっても
水村美苗は読みたくなる。
小説では、
漱石の未完『明暗』を完成させ、
また『母の遺産』や『本格小説』
『日本語がほろびるとき』など
面白い本がいっぱいです。


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