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#小説
身に覚えのない交通系IC - 『雨月先生は催眠術を使いたくない』スピンオフSS
(ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください)
有楽町線・桜田門駅というのは、名前の華やかさとはうらはらに、あまり存在感のない駅である。
日本の中枢、官公庁舎が集められたこの場所には、千代田線・丸ノ内線・日比谷線が乗り入れる絶対王者の霞が関駅があり、わざわざ乗り換えがだるい有楽町線に乗る理由があまりない。
それは、桜田門と呼ばれる警視庁本部に出勤する者も例外ではなく、捜査二課の刑事で
染ヶ丘団地(名著奇変-はるまひ廃墟探訪1)
団地は民家に入りますか?
……と、満面の笑みで聞かれた。おやつのバナナのノリで廃墟を定義しようとするのはやめてほしい。
「最高にロマンなんだよ、団地の廃墟は!」
そう熱弁をふるうのは、幼馴染みの秋野真尋――黒髪団子ピアスバチバチ野郎だ。
廃墟でたむろしているヤンキー一味と言ったほうがしっくりくる見た目だが、残念ながら病的廃墟マニアで、由緒正しき我が校の写真部を、実質廃墟部にしてしまった。
― 有 島 ■ 月 ―
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人の記憶を消すのは疲れる。
体力を使う割に、たいていは徒労に終わる。
有島残月はフルフェイスのヘルメットを脱ぎ、金色のツイストパーマヘアを軽く掻き上げ、ため息をついた。
横須賀の離島で、心理学生ばかりが集められた脱出ゲームが行われるらしい――その噂を知らされたのは、ゴールデンウィークが始まる少し前、やたらと風が強い日だった。
他人の記憶を消す能力がある残月は、警
Day3.5「ミミズ探し」 八日後、君も消えるんだね 陽平誕生日SS
天の端っこ、天端村。
その名にふさわしく、緑豊かな美しい山の頂上が天に向かって切り開かれたような、小さな限界集落。
僕はこの村が好きだ。僕だけじゃなく、村人みんなこの小さな限界集落を愛している。
生きものもヒトも植物も、等しく太陽の光を浴びて、いつもキラキラしているから。
そんな僕らの村が突然、大噴火のような爆発音とともに、一変してしまった。
いま天端村は、周りの地面がなくなり、雲
雨月先生こどもの日SS。発熱中のじゅんすたが考えた捏造ゴールデンウィーク
5/5、ゴールデンウィーク真っ只中。
小説本編では、玲は弟妹たちと全力で遊んでいるところのはずですが、これは戯れのSSなのでその設定は無視され、不破の誘いで江ノ島に来ています。
海と車が大好きな不破修平は、しょっちゅう江ノ島に来ており、毎年恒例のスーパー大渋滞も見越してマニアックな道を進んできたため、正午の現在、快適に海辺でアイスを食べています。
コンクリートブロックに三人並んで腰掛けてい
『雨月先生は催眠術を使いたくない』発売1ヶ月SS 新宿コクーンタワーサイゼリヤの乱
講義の始まりとともに現れ、終わるとどこかへ消える、神出鬼没の心理学准教授・有島雨月。
雨月の行方を探すのは、なかなか骨が折れる。大学構内に、複数の隠し住処を持っているからだ。
玲は旧ゼミ棟の一階のドア前に立ち、深呼吸した。
三十分ほど構内を走り回り、全て捜し尽くした。となれば、もうここ、実験動物の飼育室――通称・有島動物園しかありえない。
ゴンゴンと強めにノックしドアを開けると、やわらか
青野短、ネイルサロンに行く(フライング誕生日SS)
お天道様、どういうことですか。こんなことが人生で起きるなんて、聞いてません。
俺はいま、場違い甚だしいおしゃれなネイルサロンの真ん中で、ペンを片手に白紙とにらめっこしている。
背中に冷や汗をかきつつ横を盗み見れば、短さんはネイリストさんと話に花を咲かせている。
なぜこんなことになってしまったのか――ことの始まりは、いまから六時間前、昼食どきまで遡る。
日曜の昼下がり。いつもどおり青野家
青野短、宇宙へ行く。
短さんが宇宙に行った。ロケットで打ち上げられ、太陽系の起源を観測するらしい。
食べものは持ち込んでおらず、通信機能はない。
片道切符。短さんは、クドリャフカになった。
俺は必死に怪異を集め、みんなで手を繋ぎ、宇宙へのおばけロープを作った。
先端に名乗り出たのは新三郎さんで、宇宙空間をさまよい、短さんの名を呼び続けた。
水金地火木土天……
ロープの長さが足りず、俺は怪異探しに奔走する。
青野短モテ伝説、バレンタインデーの場合(江戸落語奇譚小噺)
世はバレンタインデーである。
俺こと桜木月彦――極度の人見知りだ――にとっては、二十年の人生において全く無縁のイベントであり、友チョコはおろか、母からもらうということすらなかったので、まあ、普通に忘れていた。
本日が2/14なことに気づいたのは、昼過ぎ。
きょうも青野家にバイトに行くことになっているが……家がチョコだらけになっているのではないかと想像した。
学生時代、数々の『青野短モテ伝
幻の没シーン『江戸落語奇譚 始まりと未来』発売御礼企画その2
アルコール度数三%の、ジュースみたいなお酒を買ってみた。
真っ暗な部屋で、スマホを片手に、ちまちま飲む。あんまりおいしくない。アルコールの味が邪魔で、これなら普通にライチのスポーツドリンクを飲みたい。
「……まっず」
二十歳になったら自動的にお酒が好きになるわけではないらしい。
夢を抱くのにも、運が要る。生きている間にやりたいことに出会えなかったら、どうなるのだろう。
それに、無理やり見
SS『青野短、ネット通販で本を買う』
俺こと桜木月彦は、文筆家の青野短さんの助手のアルバイトをしている。
短さんは、江戸落語の怪異の研究家だ。
日々、怪異の目撃情報をもとにあちこち飛び回っているので、俺もその手伝いをしているというわけである。
今夜も、東京・根津の青野家で、仕事終わりにご飯をいただいていた――短さんは料理上手で、毎度おいしい和食を振る舞ってくれる。
口がぱんぱんになるくらいお米を詰め込んでいると、パソコンで