青野短、宇宙へ行く。

 短さんが宇宙に行った。ロケットで打ち上げられ、太陽系の起源を観測するらしい。
 食べものは持ち込んでおらず、通信機能はない。
 片道切符。短さんは、クドリャフカになった。
 俺は必死に怪異を集め、みんなで手を繋ぎ、宇宙へのおばけロープを作った。
 先端に名乗り出たのは新三郎さんで、宇宙空間をさまよい、短さんの名を呼び続けた。
 水金地火木土天……
 ロープの長さが足りず、俺は怪異探しに奔走する。
 新三郎さんが、短さんを乗せたロケットを見つけたのは、23:00過ぎだった。
 怪異たちが伝言ゲームで、地上へ報告する。
「初を見つけた。ぐったりしているが生きている。みんなで体を引っ張ってくれ」
「初を見つけた。食ったり飲んだりして生きている。みんなで体を引っ張ってくれ」
「初が飲んだくれになっている。みんなで体を引っ張ってくれ」
「初が潰れている。みんなで引っぱたいてくれ」
「初がぺちゃんこになっている。みんなで引っぱたいたからだ」
 ついに、俺のところまで、伝言が戻ってきた。
「ぴこちゃん、てえへんだ! みんなが引っぱたいたせいで、初がぺちゃんこになっちまったらしい!」
「ええ!? なんでそんなことしたの!?」
 俺は泣き崩れ、地面を何度も叩いた。
 どうして短さんが死ななくちゃいけないんだ。たったひとりで太陽系の謎を解き明かしに行った、短さんが――
「あら? ぴこさん、どうされたのです?」
 ふと顔を上げると、短さんがそこにいた。
「短さん! 無事だったんですね!」
「……? はて、何のことかしら」
「宇宙で、ぺちゃんこになったって……」
 ぼろぼろと涙をこぼす俺を、短さんは不思議そうに見下ろしている。
「あの。もしかして、宇宙へ行くという嘘を信じたのですか?」
「え? うそ……?」
「はい。きょうはエイプリルフールです」
 俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。
 同時に、えもいわれぬ怒りがふつふつと沸いてくる。
「もう、もう信じられない。誰が嘘を……」
「「「テッテレー!」」」
 怪異たちが一斉に集まってきていて、死神の子供が、『ドッキリでした〜!』の看板を持ってはしゃいでいる。
「もおおおおおなんなんだよおおおおお!!!」
 我を忘れて暴れまわる。嘘もエンターテイメント性もなく、次々とものを破壊していく。
 ちなみにというか当たり前だが、この小咄は嘘である。
 ハッピーエイプリルフール。みんなも嘘を楽しんでね!

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