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僕のひこうき雲

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とある広告会社の総務部に勤務するしがない中年男です。このまま化石になりたくはないと日々足掻いています。
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2019年2月の記事一覧

僕のひこうき雲 17(知らずに傷つけた)

僕のひこうき雲 17(知らずに傷つけた)

某月某日

外は重い雲に覆われ、まるで会話を阻むかのように、冷たい小雨が傘を持つ身体にまとわりついてくる。

今日は手術前の麻酔科受診の日。

病院のエントランスホールは、平日の午前中に関わらず、外来患者や付き添いの家族などであふれていた。

まず空いている座席を見つけて妻に座ってもらい、温かいほうじ茶を淹れた水筒を手渡しした。

僕は、ずらりと並ぶ端末機で再診手続きを済ませ、その足で案内係に麻酔

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僕のひこうき雲   16(揺れる手術への決意4)

僕のひこうき雲   16(揺れる手術への決意4)

某月某日

同日、MRI撮影後に再び主治医と面談した。

まず主治医の方から、今日のMRI画像については二週間前に救急車で搬送された際に撮影されたものと大きな変わりはなかったと説明を受けた。

また脳腫瘍らしきものについては、まだタイプが分からず、比較対象も二週間前のものと期間が短いために、現時点では何とも言えないが、悪性度の高いものではないと思うとのこと、

ただし、画像に写る白い影は正常なもの

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僕のひこうき雲   15(揺れる手術への決意3)

僕のひこうき雲   15(揺れる手術への決意3)

某月某日

息子も中学校を休み、家族三人で11時から設定していただいた主治医との面談に臨んだ。

病院からは、主治医、また執刀して下さる上司の部長先生、同じく執刀して下さるもう一人の先生の三名が顔を揃えて下さった。

まず私からお時間を作って下さったことのお礼を述べ、率直に妻が手術に疑問を感じていることをお聞きした。

妻からのひとつ目の疑問であった、妻が身体の不調の原因は貧血ではないか、貧血で倒

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僕のひこうき雲    14(揺れる手術への決意2)

僕のひこうき雲    14(揺れる手術への決意2)

某月某日

週末なので、今日は息子も自宅で一緒に過ごしている。

妻の今後の予定は、週明けの月曜日には手術前のMRI撮影と麻酔科検診があり、木曜日に入院し、金曜日に手術とされているのだが、未だに手術を受けるかどうか、僕ら家族の意思を固めることはできない。

妻は、身体の不調のポイントは貧血であると思っている、専門家の意見がすべて正しいと思うの?と僕に問いかける。

今回初めて倒れた原因はてんかんな

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僕のひこうき雲   13(近況:外泊)

僕のひこうき雲   13(近況:外泊)

先々週から妻は外泊許可をもらえるようになり、週末は自宅で過ごしている。

家族三人で過ごせる週末を楽しみに、妻も息子も僕も、日常生活を乗り切るようにしている。

本記録は、自分が積極的に生きているか、意志を持って日常を送れているかを振り返るために始めた。

しかし、週末は、一時帰宅できるという始まりの幸福感と、病棟に戻らなければならない終わりの現実感があるため、両者の狭間で、否応なく24時間家族生

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僕のひこうき雲   12 (揺れる手術への決意)

僕のひこうき雲   12 (揺れる手術への決意)

某月某日

妻と手術の話し合いに時間をかけている。

先日、縁あって、妻の昔からの知り合いである足裏マッサージ師の方が、遠路はるばる東京から大阪までお越し下さり、施術を受けることができた。

その方は常に生きる力にみなぎり、博識で、自然と周囲に人が集まる方だが、施術をしながら、「手術は受けなくてよいのでは」との言葉を何度も妻に投げかけていた。

施術後になって、あまりに軽く無責任な言葉に、妻のこと

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