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地面師たち

20240811

ひとりになってから、ゴミの散乱した部屋に閉じこもりつづけた。底なしの喪失感に疲れ果て、頭の中が分厚い諦念に覆いつくされていた。染みのひろがった天井を見つめながら、ひっそりと生が閉じることをどこかで期待していたのかもしれない。にも関わらず、結局は生きる道を選んでしまった。生そのものを諦めるには若すぎた。以来、何かに期待し、誰かを信じて生きていくことをやめた。

職種は違えど、今の仕事も、かたむける意欲の乏しさという点では大差ない。かろうじて生活が維持できるだけの対価のほかに意義は見いだせなかった。切れかかった糸で繋がれた凧のごとく、あてどなく世間の日陰を漂う。いっそのこと突風にもまれて引きちぎれてしまえばいいとすら思っていた。

依然、人生の目的を見いだせないでいた。単調な流れ作業のごとく、色あせた日常を消費していく無為の生活が続いていた。地面師であれなんであれ、命をつないでいくだけの金さえ入れば、自分が何者であるかにこだわりはなかった。

不純な動機かもしれない。それでも、未知のことがわかるようになり、できなかったことができるようになる体験は、かりそめの充実感をもたらしてくれたような気がする。

サディスティックな性癖や、常人がそなえているだろう共感性の欠如を考慮すれば、ある種の精神病質を先天的に抱えているのかもしれない。

したたかなものが笑い、弱きものが泣く。それ以上でもそれ以下でもなかった。かつて自分が食いつくされたように、弱きものはとことんまで食われてしまえばいい。

金を騙しとったからといって、胸の空隙が埋まるようなことはなかった。自ら悪に染まりきることで、過ぎし日をやり直せるわけでもない。誰かの善意や良心を搾取している間に、いや、そのような自覚さえも次第に無意識の淵へ消沈し、いつか地面師という仕事そのものに淫するようになっていた。地面師として仕事に打ちこんでいるときだけは、まるで自分が透明になったかのように無心になれた。

体力が落ちれば、気力も衰える。勘も鈍る。

これまで数えきれないほど多くの事件を追ってきた。必ずしも合理的な判断と行動ばかりが解決へと導いてくれるとは限らない。ときに思いつきでしかない直感が、ときに気まぐれのような寄り道が、思いがけぬ重要な情報をもたらし、捜査をいちじるしく進展させてきた。胸の引っ掛かりを自覚していながら、それを放置したばかりに取り返しのつかない事態に陥り、解決の道を完全に断たれたこともまた、一再ではない。

「またもとのくだらない世界に戻られるというんですか。さんざん見てきたじゃないですか。その理不尽ぶりを。世の中というやつは、どれだけ文明が進歩しようとも、いつだって醜くゆがんでいるものです。なぜなら、人間とはそういう生き物だから。一部の持てる者に利潤が流れるよう設計されている。だから、いつまでたってもこの地上から不幸がなくならない。だから、差別、貧困、争いごとがなくならない。持てる者はますます豊かになり、そういった強者のために、持たざる弱者はひたすらに辛酸を舐め続けなければならない。真摯に生きる者が馬鹿をみるんです。一見、公正をよそおっているぶん余計に始末が悪い。いびつなルールにしばられた世界を信じて、何がしたいんですか」

「どうか世界の本質を見てください。欺瞞にみちた常識や空気にだまされないでください。ご自身を信じてあげてください」
「運命を克服しましょう。 過去に拘泥してる場合じゃないはずです。いまを生きましょう」

—綺麗な海・・・・・・また見れるかな。
もっと一緒にいたかった。もう、ほんのわずかでもいいから、なんでもない時間をともにしたかった。

「いつまでも思い出に生きるひとは、永遠に思い出の中にいた方が幸せかもしれませんね」











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