見出し画像

大瀧詠一と松本隆 早慶盟友が創りだした「君は天然色」の80'sアンソロジー



1980年代、日本のポップミュージック界に革新をもたらした一人、大瀧詠一。

ナイアガラサウンドの集大成とも称される彼の楽曲は、数々のアイドルソングやコミックソングを手掛け、歌謡曲からポップスまで多彩に展開していました。

また、大瀧はプロデュース業でも多大な功績を残しました。

初めてのヒット曲となる太田裕美の「さらばシベリア鉄道」の提供や、
彼にとって初のチャート1位に輝いた松田聖子の『風立ちぬ』。

フジテレビの「オレたちひょうきん族」の、第1次お笑いブームでは、うなずきトリオ、本格派歌手の西城秀樹、また、演歌では、森進一の「冬のリヴィエラ」などの幅広い音楽ジャンルへのプロデュースなど、彼の功績について振り返っていきましょう。

君は天然色  歌詞

歌:大滝詠一

作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一

くちびるつんと尖らせて
何かたくらむ表情は
別れの気配をポケットに匿していたから
机の端のポラロイド
写真に話しかけてたら
過ぎ去った過去 しゃくだけど今より眩しい

※想い出はモノクローム 色を点けてくれ
もう一度そばに来て はなやいで
美しの Color Girl※

夜明けまで長電話して
受話器持つ手がしびれたね
耳もとに触れたささやきは今も忘れない

(※くり返し)

開いた雑誌を顔に乗せ
一人うとうと眠るのさ
今夢まくらに 君と会うトキメキを願う
渚を滑るディンギーで
手を振る君の小指から
流れ出す虹の幻で 空を染めてくれ

(※くり返し)


アルバム解説「A Long Vacation」日本初のCD化作品として

大定番のようなアルバム『A LONG VACATION』(ア・ロング・バケイション)は、1981年3月21日に大滝詠一さんのスタジオ・アルバムとして発売されました。

大滝さんの今までの作品よりも、知名度が上がり、『ロンバケ』という愛称までつけられ、のちに木村拓哉さんのドラマのタイトルになったほどの、彼の最大のヒット作です。

1982年にCD版がリリースされた後、オリコンで初めてのミリオンセールス作品にもなりました。

曲にはCMや映画のタイアップもされ、多くのアーティストにもカバーされています。大滝さんのキャリアを変えた大きな出来事であったといえるでしょう。

早稲田の大瀧、慶應の松本・早慶の盟友がタッグを組む


「Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語」を除くすべての楽曲の作詞は、松本隆さんが手掛けています。

大滝さんと松本さんがタッグを組むのは、はっぴいえんど『HAPPY END』収録曲「田舎道」「外はいい天気」以来です。

当初、本作は大滝さんの誕生日である7月28日にリリースされる予定でしたが、松本さんが妹の看病に専念しなければならず、さらに彼女の死去により詞が書けなくなってしまいました。

松本さんは大滝さんに「作詞を降りる」と告げましたが、大滝さんは「発売を延ばす。待つよ」という返答をし、延期が9月にまで伸びました。

しかし、さらに延期が重なり、結局3月に発売されることになりました。後年、松本さんはこれらの経緯について以下のようにコメントしています。

「(大滝から)連絡があったの。『頼みたいことがあるから松本の家に行っていいか』って言って。彼が言うには『今まで自分は売れないレコードをいっぱい作ったんだけれども、それは本意じゃなかった』『今回は、松本が売れて細野も売れて山下まで売れたから、俺も売れなくちゃいけないと思う』と言って。そりゃそうだろうねと思って。で、『手伝ってくれ』って言われて、いいよって言ってね」

「妹が、亡くなっちゃったの、突然。もう詞が書けるような精神状態じゃないから、困ったなと思って。(大滝に電話をかけて)今回はちょっと間に合わないと思うって言ってね。他の誰か作詞家の人に頼んでくれるかなと言ってね。言ったんだけど、大滝さんは『このアルバムは松本ありきで考えてるから、他の人じゃ駄目なんだ』って言ってね。『とにかく詞が書けるようになるまで待つから』って言って」

「半年ぐらい僕が遅れて、『カナリア諸島』と『君は天然色』っていうのを書いてね。『君は天然色』っていうのが…全く、妹が死んでショックがやっぱあって。渋谷を歩くと真っ白に見えるわけ。色がなくなっちゃってね。ああ何か目がおかしくなったなあって思って。その詞を書いたのが『君は天然色』でね。彼はその詞がすごい気に入って。あと『カナリア諸島』も気に入ってね。『ああ、こういうのを待ってた』と」   松本隆

大滝さんによると、自身のボーカルにキーを合わせたのは、初のソロアルバムである『大瀧詠一』以来だそうです。

その間は全て楽器に合わせて作曲していたとのことです。

今作では、アルバム全体がコンサートスタイルで構成されています。

第1曲の「君は天然色」の前にはチューニングの音が収録されており、「FUN×4」の最後には拍手とアンコールの音が聞こえます。

そして、アルバムは「さらばシベリア鉄道」によって締めくくられています。

オリコン1位は逃しましたが、最高2位まで上昇し、発売後1年で100万枚を突破しました。

これは、2006年の音楽市場規模に換算すると400万枚に相当するそうです。

累計売上は、2001年時点で再発売を含めて約170万枚でしたが、2020年には200万枚以上に達しているそうです。

アートワーク、パッケージ

このアルバムの帯には、以下の素敵なキャッチコピーが載っています。

「BREEZEが心の中を通り抜ける」

アルバム・ジャケットの美しいアートワークとパッケージは、大滝の他の作品でも手がけた永井博氏によるものです。

実は、このアートワークは永井が1979年に発表した『A LONG VACATION artbook』からのインスピレーションを得て作られました。

大滝が「こんなテイストにしたい」と思ったそうです。

さらに、松本隆氏によると、白いパラソルを描いたこのアートワークからインスピレーションを得て、松田聖子さんの「白いパラソル」が作られたのだとか。

この後、松本さんと大瀧さんのタッグで、松田聖子さんのシングル「風立ちぬ」と、同名のアルバム「風立ちぬ」の制作に至ります。

余談 松田聖子の唯一の誤算

その松田聖子さんは、大瀧さんから厳しいボーカル指導を受けています。

「先生、これ難しくて歌えません」と半ば泣き声で、話している録音テープが現存されています。

アルバム「風立ちぬ」は、日本で2番目にCD化された作品として、記録に残っています。

本作は、松田聖子の「最高のハイ・グレードアルバム」と称されています。

オリコンチャート初登場1位をマークした、アイドルとしては異例の大ヒット作品で、今なお高い評価を受けていて、その評価は高すぎるほど。

アイドルのアルバムは「シングルの寄せ集めのゴミ」と言われた常識を破ったのは松田聖子。

彼女はデビューアルバムから、ほぼすべての作品をチャートの1位にしています。

このようなことは、全盛期のピンク・レディーやキャンディーズ、山口百恵でも達成できなかったことでした。

シングル「風立ちぬ」は、スペインや、フランスでヒットチャートに入り、現地のファンたちを喜ばせています。

また、次の「赤いスイートピー」では「I will follow You」と、歌詞に英語が入っていたため、「ミス・セイコがイングリッシュで歌ってくれたよ。もう嬉しくて泣きそうだよ!」と、これにも感激した欧州のファンたちから、ぜひ、ヨーロッパでの活動を求める意見がありましたが、聖子さん本人がこれを嫌がり、実現できませんでした。

松田聖子さんは、ヨーロッパのグレイな空が嫌いで、LAのような太陽サンサンなアメリカのことしか考えられなかったようです。「もし、あのとき、彼女が、ヨーロッパ進出していれば」と、多くの評論家は残念に思っているのです。
それだけ、当時の松田聖子のヨーロッパでの人気は驚異的なものでした。

ポール・マッカートニーも聖子さんと対談して、彼女がライブでビートルズのカバーをしていたことに喜び、その「英語力の高さ」から、彼もまた、
イギリスほかヨーロッパ進出を期待したのですが、これもまた、拒否してかなわぬこととなり、のちのアメリカでの失敗への原因ともされています。

松田聖子は、アメリカではなく、ヨーロピアン・サウンドの似合う、哀愁を武器とした歌手。アメリカのようなセクシーさを売りにする歌手ではない。

このことは、だれしも知ることなのに、若松宗雄ディレクターら、CBSソニーのスタッフは何を考えていたのか、まったくバカげた話です。

記事のタイトルに「早慶」を入れたのには理由があります。

松田聖子さんの兄は、早稲田大学の卒業生で、その校友会の「稲門会」の集まりに毎度参加されている有名人。聖子さんもノーギャラで参加して歌ったりしています。また、聖子さんの現夫は、東北大(旧帝)歯学部卒の慶大の准教授でした。彼女は早慶ともに昔から深い縁があり、ダブルミーニングを込めて、このタイトルとしました。

聖子さんのこのアルバムと大瀧さんのアルバムを合わせて、J-POP「夏」と「冬」の名盤とされていますので、ぜひ、合わせて聴きたいところです。

皆さんも、大瀧さんの、この美しいアートワークを見たら、ぜひ心の奥深くまで感じてみてくださいね。

評価

本作は、雑誌『レコード・コレクターズ』2010年9月号の特集

「日本のロック・アルバム・ベスト100(1980年代編)」にて、第1位に選ばれた。

「君は天然色」楽曲解説

SIDE A 1曲目の「君は天然色」は、松本隆氏による歌詞、大瀧詠一氏による作曲の楽曲です。

この曲の間奏部分は、元々クレイジー・パーティーの「がんばれば愛」(アニメ映画『がんばれ!!タブチくん!!』シリーズエンディングテーマ)の間奏に使うことが計画されていました。

しかし、カウントのみをカットしたバージョンがアルバムと同じ日にシングルとしてリリースされました。

その後、この曲はロート製薬「新・Vロート」(1982年)、キリンビバレッジ「生茶」(2004年)、アサヒビール「すらっと」(2010年)、サントリー「金麦糖質75%オフ」(2012年)、ダイハツ「ムーヴ キャンバス」(2020年)のCMソングとして使用されました。

2020年には、テレビアニメ『かくしごと』のエンディングテーマとしても使用され、映画『私をくいとめて』では挿入歌&エンディングテーマとして採用されました。

この曲には2チャンネルのワンテイク録音が使用されています。

アルパム 収録曲

  1. 君は天然色 – (5:06)

  2. Velvet Motel – (3:44)

  3. カナリア諸島にて – (4:00)

  4. Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語(ストーリー) – (3:15)

  5. 我が心のピンボール – (4:26)

  6. 雨のウェンズデイ – (4:25)

  7. スピーチ・バルーン – (3:56)

  8. 恋するカレン – (3:23)

  9. FUN×4 – (3:27)

  10. さらばシベリア鉄道 – (4:35)


分析と文責 高松ショウ

参考資料 
ウィキペディア
青春音楽グラフィティ 集英社文庫


最後まで、お読み下さり、ありがとうございました。よかったらスキ、フォローよろしくお願いします😉

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?