文体模写の模写日記:レイモンド・チャンドラー編
マッサージとの最初の出会いは、たいていはおとうさんの肩たたきか銭湯内に設置されているマッサージチェアだ。人は楽な体勢になり、リラックスする。そして、いじっていた携帯を仕舞い込み、出番を待たせる。結局のところ、マッサージとはそういう存在なのだ。
リビングで寝ている父が言った。「ちょっと肩こってんねん。肩揉んでくれへんか?」
こんな場面が来てようやくマッサージの開始となる。往々にして、人生にはそういうポイントがいくつかあるものだ。
マッサージをするにはウォーミングアップが必要だ。指のストレッチを軽くして、ならす。それが終わると、手首を回して、伸ばさなければならない。ちょうど、タバコを一本吸い終わるくらいの時間だ。
5分が経ち、灰皿に吸い殻を押し付けると、指圧の準備にとりかかった。指にしっかり圧をかけ、適切な強度を探っていく。指に力が入った。
「もうちょい強く」と父から声がした。してもらうだけの人間は気楽なものだ。私はストゼロのロング缶をすすり、圧力の最終調整に入った。
適切な強さでツボを刺激する。真っ白だった肌が赤みを帯びてくる。私は指圧を続けると、父が寝てしまわないように強くツボを押した。父はリビングで目を瞑っている。微かに加齢臭がした。いつもの情景がよみがえってくる。
リビングを出ようとすると、小さな声で「もう終わりか」と父が言った。私はそれが聞こえていないかのように、静かに自分の部屋へと向かった。
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