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忘れられない言葉たち

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強く共感したもの。心を突き動かされたもの。また読みたいとふいに思い出す素敵なnoteを入れさせてもらいました。やわらかな言葉に、切なさに、激しさに、もう一度スキを。
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#小説

バーチャルな恋が、リアルな愛に変わるとき

──── Grrrrrrrrrrr! 遠くに聞こえたその咆哮は、声だけで大物なことが分かった。全速で森…

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ショートショート「つくるをつくる私たちは」

鼓動がはやい。呼吸が乱れている。自覚してる。 音を吸収する素材がはられた壁。なのに、心臓…

野やぎ
1年前
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ハイライト

 前の日の雨で桜の花はほとんど落ち、路面や水たまりに散らばっている。泥にまみれた花びらを…

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本当に来るはずだったのとは別の朝

 朝、目覚めると、それが本当に来るはずだったのとは別の朝であることに気づいた。  ぼくら…

聖夜、祈りて #2021クリスマスアドベントカレンダーをつくろう

私が黒猫だった頃、飼い主は四人家族だった。父親と母親と息子が二人。 母親は毎晩、騒ぐ子ら…

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ショートショート『貯金残高やさしい5円』

貯金残高、1,832円。 それと、ボストンバッグ一つに収まった生活のあれこれ。 家を引き払って…

野やぎ
2年前
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羨しま not alone

 「うちのおとんもおかんも、なんや知らん間にめちゃ若がえってるねん。おとんはなんや、YouTubeで政治家とかDIYの配信チャンネルを見たりしてるやろ。おかんは、家の中のいらんもんをメルカリで売りまくっとる。noteやっけ?知ってる?なんかブログみたいなん書いてて、気の合う友達も出来てんて。zoomで知らん人と喋ったりして楽しそうや。スマホを買ったときは、質問攻めで鬱陶しかったのに、今や親の方が活用してるんちゃうかな。あ、せや、風呂入ってるおとんの口笛がYOASOBIやねんで

ショートショート『おかえりのお月見』

「新しいお月見?なんだそれは。」 「ちょっと待って。うん、西暦2,000年頃にニホンで生まれた…

野やぎ
2年前
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竹からやり直したいかぐや姫【完全版】

「月ヒマすぎわろた。」  天の羽衣が不良品だったので、かぐや姫は下界であったことを速攻全…

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ショートショート:惑星誕生【2785文字】

それはある日の朝、突然のことだった。 風の強い朝。窓に吹き付ける風は、ドンドンドーン、ド…

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波よせる場所

海へ向かう道を車で走らせる。窓を開ける。7月終わりの晴れた午後。乾いた風が髪を揺らす。フ…

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【小説】愛のカツカレー

「ねえ、おぼえてる?」  なげかけた言葉は白い冷蔵庫のドアにさえぎられ、力なくフローリン…

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二塁を廻れ

晩夏の夜の雨。秋雨にはまだ早い時期だが、この間まで街を包んでいた熱気が嘘のように肌寒い。…

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蛍売り

「いい色してるねぇ、これまた」 くぅ、とのけ反ったその人の頬骨を、お天道様が照らしている。 僕は、ふ、と笑った。 「これとこれとこれな。来週来るか?トマトがいいな。でっけぇやつな」 手渡されたざるに茄子、人参、胡瓜を入れながら、あ、はい来ます、と答える。 来週ならトマトもいい頃合いだ。 夏の日差しか、おっさんの掌か、小さく頭を下げながら掴んだ小銭はぬくかった。 「今年は猛暑だな。おめぇもそんなもん刈っちまいな。みてるこっちがあちぃわ」 顎でくいっと僕の頭に指図すると、おっ