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GUTTIの小説

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が執筆した小説を集めています。短編、中編、長編、過去の作品から書き下ろしまで。私
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記事一覧

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第11話:「日本中央の碑」をぶっこ抜け!

*    新たな相棒には「フェアレディZ」を選んだ。  黒服の男から逃げ切るためには、普通車では話にならない。スポーツカーをレンタルすることにした。いろいろ車種はあったが、日本を代表するスポーツカーの新型がよいと思った。  純白のボディで、最大時速で280kmも出るらしい。このスペックであれば、いざとなった時にぶちかますことができる。  支払を済ませたアキラと希虹(のあ)は車両に乗り込む。エンジンをかけると、まずはナビを立ち上げた。 「その日の本(ひのもと)ってのはど

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第10話:アウトロー同士の邂逅

*  西船橋のラブホテルで朝を迎えた江崎南斗(えざきみなと)は、チェックアウトを済ますと、煙草が吸えそうな喫茶店を捜し、駅前の『サルビア』という昭和の雰囲気満載の店に入った。スポーツ新聞をめくりながら、トーストとサラダ、アイスコーヒーのモーニングセットを頼んだ。  昨晩、デリヘル嬢とやるだけのことをやり追い出したあと、溝口に連絡をして、兵隊を五十人近く用意してもらい、すぐに東北自動車道および常磐道のサービスエリアの各地を張ってもらうことにした。  フェラーリの特徴と、車

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第9話:アキラのやんちゃな過去

*  360スパイダーとの出会いは、フェラーリの正規ディーラーであるCORNESの青山ショールームであった。  ベントレー、ランボルギーニ、フェラーリ、ロールス・ロイスと複数のブランドを体験できる場所は、青山をおいて他になかったから、最初からここで買うと決めていた。  そこで、今の360スパイダーに一目惚れした。一択だった。試乗して、すぐにキャッシュで支払いを決めた。そこから、アキラの愛馬である、360スパイダーとの共同生活が始まる。  アキラがそろそろ高級車を買いた

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第8話:消えたフェラーリ

*  アキラはスピードを緩め、八潮のインターチェンジで降りる。 「八潮って、確かカルト宗教のアジトがあったとかで有名よね」 「そんなことまでよく知っているな」とアキラは変に感心する。 「隠れるにはちょうどよいかもね」    希虹はそう軽口を叩くと、ククと声を立てて笑った。  アキラはウインカーを出し、県道に出る。土地勘がまったくないので運転も慎重だ。閑静な夜の田舎町に、高周波なフェラーリのエンジン音が響き渡り、ちょっと気が引けてしまう。  とりあえず希虹の服を買う

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第7話:ノアの方舟

* 「わりい、俺がバカなせいか、脳の整理が追いつかないわ」  希虹(のあ)から、思わぬ話を打ち明けられたアキラは、戸惑いを隠しきれなかった。  とにかく北上してほしいということで首都高を走らせていた360スパイダーは、スカイツリーの見える墨田区までやってきて、あと少しで都内を抜けるというところであった。 「無理もないわ。そんなこと、歴史の本には一切書かれていないし、学校でも教わるものでもないから」 「魚人族?っていうんだっけ? そんなの初めて聞いた。日本人て一つの民

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第6話:魚人の血をひく者?

*  昨夜の発砲事件により、六本木のショーレストラン『熱帯夜』には、警察の取り調べが入った。翌日も、オーナーと一部の従業員が警察に呼びだされており、事情聴取が続いているのだという。 「『熱帯夜』はしばらく休業する――」  従業員全員のグループLINEに、オーナーからの連絡が入った。 「まあ、当面はオープンできないよね」  樹里はそう言いながら、キャラメルフラペチーノのグラスの中を、緑色のストローでかき混ぜる。 「いや、オープン自体もあやしいんじゃない?」  千春

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第5話:危険な元カレ

*  警察との「鬼ごっこ」は慣れたものだった。撒くには撒いたが、東京中が相当な騒ぎになっているので、江崎南斗(えざきみなと)はすぐに溝口に連絡をし、鉄砲玉をよこさせた。  晴海ふ頭で、身替りとなる若者と落ち合った。まだ二十歳そこらのガキだった。普段、大麻入りのクッキーを主食にしているジャンキーということだったので、ちょうどよかった。ジャンキーが、クスリをやりすぎたあまり、夜の六本木で拳銃をぶっ放し、タクシーを奪い乗り、暴走したまでのこと。  江崎南斗は、自分が着ていた黒

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第4話:踊るスパイダー

* 「ほら、逃げて!」  希虹(のあ)は助手席でふんぞり返りながら呑気な感じで言う。まるでこの状況を楽しんでいるかのようにも見え、アキラには苛立たしかったが、そんなことを言っていてもはじまらない。  黒服の男が乗るタクシーが、猛スピードで追いかけてくる。タクシーの前を走っていた車の運命は最悪だ。背後から、耳を劈くようなクラクション音が鳴らされ、同時にハイビームが照射される。前の車は戸惑いながらも端に寄るのだが、タクシーは邪魔だとばかりに車体をぶつけてくる。  大惨事に

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第3話:風になれ!

* 「あいつ思っていた以上にバカだわ。街中でチャカぶっ放して。あれじゃサツを呼び込んでいるようなもんよ」  女はぶつくさ言いながら、前髪をかき上げる。剛力彩芽のようなショートカットで、よく見ると髪は水に濡れていて、艶がある。バスローブ一枚という姿あたり、風呂上りに部屋を飛び出してきたのだろうか。  アキラは、黒服の男が追いかけてきているかどうか、バックミラーを何度ものぞき込む。男が乗り込んだと思われるタクシーの姿は、今のところ確認できない。当たり前だ。タクシーごときで、

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第2話:暴れ馬

*    アキラは、東麻布の修理工場に預けていた愛車のフェラーリに、半月ぶりに再会した。「やっと戻ってきたな」アキラは嬉しさが抑えきれないというように口角を上げながら、メタリックレッドにラッピングされた愛車のボディを両手で撫でまわす。そのまま口づけもしたくなるほどのテンションであった。 「ご主人様に久しぶりに会えたって、車も喜んでいるみたいです」  修理工場の主人が微笑ましそうに言う。 「ああ、こいつは喜怒哀楽が激しいんだ」アキラは得意げだった。  フェラーリのオーナ

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第1話:熱帯夜の人魚

あらすじ 本編   前七年の星空でのできごと   春、木星は金星と出会う   夏と秋、木星は魚座の中でたびたび土星と出会う                       (河出書房新社 世界の歴史5「ローマ帝国とキリスト教」より)      *  希虹(のあ)が、夜の人魚と呼ばれる唯一の時間がある。その時間だけは、街の喧騒を離れ、地上の重力からも解放された。外界の音は遮られ、自分の体内を打つ鼓動だけが、誰かの囁きのように聴こえた。  希虹が体を動かすたびに、水は衣のよ

『フィッシュ・アイ・ドライブ』第0話:プロローグ・無重力の都

本編の位置付け    こんにちわ。GUTTIです。現在、note創作大賞2024に、長編小説『フィッシュ・アイ・ドライブ』を投稿中です。    今回の作品は、書下ろしで、原稿用紙150枚、約60,000文字を予定しています。20話くらいで完結できればと思っていますが、前後する可能性もあります。  長編ですと、長いお付き合いになってしまいます。ぽっと出の、私なんかの小説に関心をもって頂くのは難しいかもしれませんが、少しでもご関心ありましたら、最後まで読んでいただけますと幸

赤坂見附ブルーマンデー 第10話:幕張メッセ、大混乱

 ステージを進行するチームと、会場外で誘導するチームが交わすトランシーバーのやり取りも騒がしくなってくる。 「田村です。スペシャルステージ開始四十分前。各自、状況報告ください」 「恵です。現在、三〇〇名程度の来場者が待機中です。どうぞ」 「高山です。ステージリハは完了しています。あとはゲストを待つのみ。オープンはいつでも大丈夫です」 「桜庭です。シークレットゲストの二階堂彩夢さんですが、あと十分ほどで会場入りするそうです。現在、アパホテルを車で出たようです。どうぞ」

赤坂見附ブルーマンデー 第9話:アニメファン熱狂の祭典

 田村の異動は年明けからということだった。  その田村にとっての、宮戸チーム最後の仕事が、年末に行われるビッグイベント、『アニメ・ファンタジーフェスタ』だった。  アニメ・ファンタジーフェスタ、略称「アニファン」が開催されるのは、イベントの聖地幕張メッセだ。    アニファンは国内人気アニメの人気声優が、ファンサービスとしてステージに登場したり、その場でしか手に入らないアニメグッズなどが販売されたりなど、全国のアニメファンが一堂に会する祭典である。    田村はずっとこの