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吉岡果音
2024年9月25日 15:48
第九章 海の王― 第143話 藍色の夢の世界へ ― 長い銀の髪が、厚い雲を割って差し込む光を受け、透けるように輝く。 どさっ、そんな音が、時を止めたような純白の森に響き渡る。梢に積もった雪が、地面に落ちたのだろう。 シルガーは、目の前に立つ四天王パールを、じっと見据える。 手にした、天風の剣を構えようとせずに。 「立っているのもやっと、そんなふうに見えるなあ」 パールは、金のま
2023年5月6日 22:19
第一章 運命の旅― 第1話 黒の剣士、キアラン ― 闇夜を切り裂く、光――。それは、鋭い剣の軌道だった。 ガアアアア……! 咆哮と共に、巨大な獣が音を立て大地に伏す。 天高く輝く三日月だけが、すべてを見ていた。 剣を振るったのは、すらりとした黒髪の男。 その男の瞳は、右目が金色、左目が黒色という不思議な輝きを放っていた。 男は、剣を大きく振り血を払うと鞘に収めた。「ふむ
2023年5月8日 10:32
第一章 運命の旅― 第2話 旅の始まり ― 冷たい風が吹きすさぶ。荒涼とした大地には、風の道を遮るものがなかった。 流れる黒い雲のすき間から、時折月が顔を覗かせる。月は、果てしない荒野の中にある、男と少年――キアランとルーイ――を静かに照らしていた。 キアランは、持っていたテントを設置していた。長年使いこまれ、すっかりくたびれてはいたが、持ち主の最低限の安全は守るという機能は果たしている
2023年5月10日 09:55
第一章 運命の旅― 第3話 魔法使いの少年、ルーイ ― キアランは、朝日に輝く雲を見ていた。それは、美しい金の色を宿していた。 頬に当たる冷たい風が心地よい。あれほど一晩中吹き荒れていた風も、今は穏やかになっていた。「おはよー、キアラン! 今日はいい天気になりそうだねっ」 うん、と伸びをしながら、ルーイが隣に並ぶ。ルーイが目覚めないようにそっとテントから出たつもりだったが、起こして
2023年5月12日 10:19
第一章 運命の旅― 第4話 「四聖」を守護する者 ― 闇の中にいた。 キアランの意識は、内奥深くにあった。 私は――。 外界と繋がる表層的な部分の感覚、肉体的感覚がなかった。ひどく負傷したはずの背中の、痛みもなかった。まるで、魂だけが宙に漂っているかのようだった。 もしかして、これが「死」というものなのか、キアランは恐怖も執着も後悔もなく――、感情を生み出すことなく、ただぼんや
2023年5月13日 23:06
第一章 運命の旅― 第5話 亜麻色の髪の、アマリア ― 突然、不気味な地鳴りがし、大地が揺れ始めた。 キアラン、アマリア、ルーイに緊張が走る。「新たな魔の者が……!」 アマリアがいち早く魔の気配を察知し、叫んだ。「なに……!?」 キアランは驚く。いくらここが危険な空気をはらんだ場所とはいえ、これほどたて続けに魔の者が出現するとは、通常考えられないことだった。 まさか、本
2023年5月15日 17:54
第一章 運命の旅― 第6話 地底からの使者 ― 轟音と共に、大地が激しく揺れた。 「あっ……!」 振り返るルーイの小さな体は、たちまち黒い影に覆われる。土埃を立て、地中から巨大な怪物が姿を現したのだ。「魔の者……!」 それは、異様な姿だった。 長い鎌首をもたげるように顔を出した怪物。外見といい質感といい、まるで巨大な芋虫だった。 地上に現れた部分だけでもキアランの背丈をゆ
2023年5月17日 18:56
第一章 運命の旅― 第7話 夕餉の煙 ―『殺セ、殺セ、殺セ……!』 地の底から響くような、不気味な声。 そこには、数えきれないほどたくさんの異形の者たちの蠢く影が見えた。黒くざわめく影の中に、形も大きさも様々な異形の者たちの目が光る。『殺セ、殺セ……! 四聖ヲ、ソシテソレヲ守ル者ドモヲ殺セ……!』 異形の者たちの影は、大きくばねのように伸びあがり、縮み、それからひしゃげたり膨れ
2023年5月19日 12:18
第一章 運命の旅― 第8話 三つの星 ― 傷が完全に治ったわけではないが、ルーイとアマリアの魔法による懸命な治療で、キアランの体はかなり回復していた。 キアランは、あたためた簡素な携行食を口に運ぶ。 携行食は保存性に優れ、栄養価が高い。そして種類も数も豊富で、安価で入手しやすい。長旅を続ける者にとって欠かせない食料だ。いつもの、食べ慣れたはずの味。 うまいな――。 キアランは驚く
2023年5月21日 20:58
第一章 運命の旅― 第9話 炎のような運命 ― 流れ星が、濃藍の空に輝く軌跡を残していく――。「アマリアさん! 翼を持つ一族について、教えてくれ……!」 キアランは、息せき切ってアマリアに尋ねていた。 幼いキアランを育ての母に預けたという「翼を持つひと」、アマリアはきっとその存在についてなにかを知っている、キアランは心急く。「キアランさん――」 アマリアは、キアランの瞳をし
2023年5月23日 14:01
第二章 それは、守るために― 第10話 渦巻きの中の人影 ― 月明かりの荒野に、二つのテントが並ぶ。 キアランとルーイの休むテントの上では、ルーイの「見張りの鷹」が辺りに目を光らせている。 もう一つのテントでは、アマリアが休んでいた。そのすぐ傍に繋がれているアマリアの馬も、すでに夢の中にあった。 ルーイは深い眠りについていたが、キアランは起きていた。 キアランは暗がりの中、天風の剣を
2023年5月25日 18:39
第二章 それは、守るために― 第11話 青白い剣身が、映し出す ― 木の葉が、渦を描く。不吉な音を奏でながら――。 銀の髪の男の、笑い声が響く。「四聖、そしてそれを守護する者ども、私がまとめて葬り去ってくれよう……!」 「魔の者め……!」 キアランは天風の剣を構え、木の葉の作るトンネルの中を駆け出そうとした。「キアランさん! そこは、魔の者の作った空間です! 自ら飛び込むの
2023年5月27日 22:12
第二章 それは、守るために― 第12話 願いに近い、思い ― 森を抜けた。風の向こうに、町が見える。「キアラン……。大丈夫?」 心配そうに見上げるルーイに、キアランは微笑みで答えた。「大丈夫だ。あれからなんの異常もない」 使い魔という得体の知れないものを体に――おそらく体内に――つけられてしまったキアラン。気にならないかといえば嘘になるが、それがもう逃れられない事実なのであれ
2023年5月29日 22:35
第二章 それは、守るために― 第13話 双頭の怪物 ―「私は、大丈夫だ」 そうでもなかった。が、キアランは自分の体調が悪くないと言い張っていた。 しかし、アマリアとルーイは、この町の病院で治療を受けること、そして出発はこの町で宿泊してキアランの体の様子を見てからにしよう、そう提案し続けた。「お昼を食べた後、ちょうど午後の診療時間になると思います」「いや、医者にかからなくても大丈