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天風の剣

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右目が金色、左目が黒色という不思議な瞳を持つ青年キアランは、自身の出生の秘密と進むべき道を知るために旅に出た。幼かった自分と一緒に預けられたという「天風の剣」のみを携えて――。 …
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2024年1月の記事一覧

【創作長編小説】天風の剣 第102話

【創作長編小説】天風の剣 第102話

第九章 海の王
― 第102話 侵入 ―

 四聖を見つける、そのご命令を果たすまで、オニキス様に顔向けできない――。

 赤目は、ボロボロの体で地中深く移動する。まっすぐ、四聖の波動を感じる方向へと。
 あれから、何体かの魔の者を殺してその血を飲み、回復を図っていた。
 しかし、まだまだ完全な状態には程遠かった。
 散り散りになった獣たちをふたたび集めようとも試みた。赤目が生きている間は有効のは

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【創作長編小説】天風の剣 第103話

【創作長編小説】天風の剣 第103話

第九章 海の王
― 第103話 とび色の、長い髪 ―

 月明かりの下、長く緩やかに波打つとび色の髪を、風に揺らして佇むヴィーリヤミ。
 それはもう、以前の彼ではなかった――。

「ヴィーリヤミさんの体を、乗っ取ったというのか……!」

 キアランは愕然とした。あの獣たちを率い、そして獣たちの体に入り込んで操っていた魔の者が、今度は魔導師ヴィーリヤミの体に入り込んでいたとは――。

「ヴィーリヤミ

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【創作長編小説】天風の剣 第104話

【創作長編小説】天風の剣 第104話

第九章 海の王
― 第104話 実像 ―

 黒い糸状のものが外界にあふれ出たとき、ため息のような、かすかな呟き声がした。

『オニキス様――』

 永遠に途切れたままのその声は、人の耳にも、魔の者にさえも聞こえないような小さなものだった。それは、赤目の朦朧とした意識の中で、本人も意図せず漏れ出てしまった声。冷たい月だけが、通り過ぎる夜風だけが、最期の悲しげな響きを聞いていた。
 そのはずだった。

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【創作長編小説】天風の剣 第105話

【創作長編小説】天風の剣 第105話

第九章 海の王
― 第105話 目覚め ―― 

 エリアール国国王は、己の判断の過ちを悔いていた。

 四天王と繋がりがあったのは、オリヴィアではなくヴィーリヤミのほうだった……! ヴィーリヤミの意見を採用してしまった私は……!

 ケネトやヴィーリヤミの進言で、四聖と守護軍をノースストルム峡谷へ向かわせた。しかし、ヴィーリヤミが四天王と通じていたということは、ノースストルム峡谷にはなにか恐ろし

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【創作長編小説】天風の剣 第106話

【創作長編小説】天風の剣 第106話

第九章 海の王
― 第106話 熱望 ―― 

 吹雪だった。
 ついにたどり着いたノースストルム峡谷は、前が見えないほどの強い雪と風、氷の世界だった。
 守護軍の一行は、魔法を使いながらなんとか進み続けたが、これ以上は危険と判断し、なるべく風雪をしのげる大きな岩場の陰に留まることにした。

「聖なる風よ、雪よ、どうか我らの滞在をお許しください……!」

 魔導師たち、魔法使いたちが祈りを捧げる。

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【創作長編小説】天風の剣 第107話

【創作長編小説】天風の剣 第107話

第九章 海の王
― 第107話 分裂 ――

「キアラン、皆さん……!」

 キアランのもとへ、金の光が降り立つ。

「カナフさん!」

 キアランの目の前に、きらめく金の光をその身にまとう、カナフが立っていた。
 そのときその場には、キアランの他にオリヴィアとアマリア、それからダンしかいなかったが、守護軍の陣営の中にカナフが来たことに、キアランは驚きを覚えていた。
 カナフは、極力自らの気配を抑

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【創作長編小説】天風の剣 第108話

【創作長編小説】天風の剣 第108話

第九章 海の王
― 第108話 無理はいけませんよ ――

 四天王パールの登場で、四聖守護と王都守護の二手に分かれることになった守護軍だが、その人員の振り分けは、会議の必要のないほどあっさりと決まっていた。
 実権を握る魔導師たち全員が、四聖を守るためそのままノースストルム峡谷に残ることとなった。
 そのほか、オリヴィアを除き、魔導師たちと関わり合いの深い、いわゆる高い地位の魔法使いや上官たち、

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