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【Part4】(脱)非モテコミット

 文香とはその後も変わらず電話やメッセージでそれなりに連絡を取り続けてはいた。
 文香も車の免許を取りに教習所へ通い始め、僅かな時間が出来れば学校帰りにバイトや教習所へ直行する日々を送るようになっていた。
「次いつ遊ぶー?」
「教習所とバイトと期末のテストで今ちょっとバタバタしてるかも」
「確かに難しそうだな。まぁ気が向いたらまたドライブでもしよっか」
「分かった。連絡するね」

 相手のこういった事情を知りながらでもあるので一方的に連絡を入れては誘うの一点張りではならない。
 こうして連絡を取り合っていながらも、次第にいつの仮免に向けてであるとか、教習所への通う生活を早く終わらせたいといった文香の意図が前面に出てくる余り、次の約束にこぎつけられず、一方的なメッセージのみへの連絡形態へと状況は次第に変わっていき、遂には用事があって本当に必要な連絡さえ実現させるのが困難な状態となった。
 ひと時の気持ちの高鳴りは誰にでもあるのかも知れない。だがそれを一時のものだった収めることが出来るかろいうと少なくとも僕は一度上がりかけた気持ちを抑えるには何かきっかけが必要な状況に陥っていた。
 
 文香と連絡が取れなくなってから1ヵ月程度経ったある日、同じ学科への入学、留年、退学の一連のフルコースを共に経験したツレのタカから連絡があった。
 僕達の同学年は留年や退学のような沙汰が当たり前のように繰り広げられていたが、たまたまこの学年だけのレアケースだったらしいと後から聞かされてはいた。
「クラス飲みするらしくて来るか?って言ってるよ!行くでしょ?」
「誰から声掛かった?」
 そう言いながら、誘い主によっては行き辛い状況だということを添えて問い返した。
「大丈夫、取り纏めが広く声かけてるらしく、オレらクビになった後ダブったヤツ等も来るらしいし関係ないっしょ!一緒に行こうぜ(笑)」

 そこで文香と顔を合わせるなら、少しくらい会話も出来るだろう。
 そう深く考えず、当日合流するとカラオケの広めの部屋でほぼ全員が私服姿でズラリと並んで寛いでいた。
 さすがにこのメンツを前にして文香のところへ直行するわけにもいかず、当時ダラダラと一緒につるんでいたオトコ連中の近くに腰を下ろした。

 帰り際、文香が原付で引き上げようとするところで声を掛けた。
「もう帰るの?(笑)」
「帰るからどいてー、邪魔ー(笑)」
「次いついける?(笑)」
「もう、行かないって…。ベラベラ喋り過ぎなんだって皆に言ったでしょ?(笑)」
「誰?」
「そっちの仲間の間で色々言ってたんでしょ?じゃぁ帰るね!」
 そのまま文香はグループの仲間数人と連なって颯爽と漆黒の闇へと原付の灯りを灯しながら消えて行った。
 皆がいたから照れもあったのか本音なのかの整理がつかないまま、その場に少しの間立ち尽くして動けなかったが、まだ帰らないと騒いでいる皆の元へ合流した。
 単純にそれまでの若干自分本意な文香の言動にもカチンと来ていた。
 結局その日は隣街の中学から同じ学科へ通っていたナオキを車で自宅に送りがてら、明け方近くまでコトの成り行きにを聞いてもらっていた。
「マジで?文香さんとキスとかヤバイじゃん…」
 童貞には少しヘビーだったかも知れない。何か状況を打破する術が見つかるはずもなかったが、ナオキがじっくり話を聞いてくれたお陰で僕は大分気が晴れた。

 その日の文香の言動を振り返りつつも、やはり直接的な原因を作ったのは僕の方なのかも知れない。日が経つにつれて段々とそうとしか思えなくなっていく。
 僕自身の性格的なものもあるかも知れないが、やはりこのゴロゴロしたまま過ごす限りなくニートに近い生活のリズムにも難があった。
 何もすることが無いのだからどうしても1人で思考を巡らせて暴走させてしまいがちなのだ。
 どこで連絡を入れるのが良いだろうなど、細かな自己葛藤の末に独りよがりになっていたのは事実だった。アタマで分かっていてはいても制御が効かず、行動に移せるかはまた別の話だった。

 飲みの場で会って以降、いい加減な態度を取られるのが怖く意固地になってとてもコンタクトを取る気にもなれずにいた。
 何とか挽回しようともその術さえ思い当たらない八方塞がりな状況は続き、余計なコトをしさえしなければ今の状況より悪い状況へは堕ちないだろう、そう1週間程度間を開けては電話かメッセージを入れるが空振りに終わるのを繰り返し、遂には自分自身の折り合いがつかずに間が持たなくなってしまった。
 久々にモノゴトに真摯に向き合いかけていた僕の想いは、こうして慈悲に砕け散っていった。
 アレコレ考えながらも報われない努力はもあるものだと、打ちひしがれる思いで一時の甘い記憶にソッと蓋を閉じる、そんな心境の変化を冷静に、客観的に捉えた瞬間があった。

 数日後、僕は文香をバイト先のコンビニの前で待っていた。
 共にほぼ同じシフトで勤務している同じクラスの歩美と連なって出てくるやいなや、歩美が僕に気がつき、気を利かせてその場を先に立ち去った。ありがとうと思いながら、笑顔で返し小さく手を振って見送った。

 文香に寄りながら声をかける。
「色々悪かったね。オレは最初に言ったようにそのまま文香さんのコトを好きになってたと思う。でももう暫く経つし状況も変わってるのを理解しているから」
「…」
「嫌な思いも少しはさせたと思ってて、こうしてまた面と向かって一言だけ詫びたかった 」
「分かった。もう良いって…」
「まぁでも嫌じゃなければまた時間が合えばドライブでも行こうよ」
「もう良いって、キモいって。ってかもう帰るよ(笑)」
 久々にこうして2人して対峙するついでに、あわよくばと思いながらの打診もものの見事に玉砕した。

 僕もこう面倒くさいヤツだが、そもそも文香自身も小っ恥ずかしいのを取り繕うタメには相手を無下にしたりとそういうヤツなのだ。
わざわざ出向いて言葉を交わす必要はなかったのかも知れない。少なくも文香にとってはそうだった。
 ただ僕にとってこの場は次へ向かって歩き出すための非常に大きな意味合いをもっていた。ある意味清々しい気持ちになったと同時に自分の中でこの出来事が消化され、喉の奥に引っかかった何かがスルリと奥へと通っていったような感覚だった。
 ヒトの想いは意図せぬところで行く末なく彷徨うコトがある。その事実を受け入れること、自身でその事実と向き合うことさえ折り合いがつかず難儀する。
身の上に起きた出来事を咀嚼して浄化出来ぬままでは、次へ向かおうにもなかなか足が出ない。
 
 数ヶ月の間全く他へ見向きもせずに文香にばかり意識が向いていた僕であったが、こちらからも折り合いがいてからは、その反動で以前にも増して狂ったように遊んだ。
 周囲の乱れた交友関係も後押ししてか、真夏に燃え盛る炎の中に油をぶちまけるように、強い反動だった。

(続く)


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