中川文人(なかがわ ふみと)

ハードボイルド作家、兵法家。有限会社ヨセフアンドレオン代表取締役。 著書に『地獄誕生の…

中川文人(なかがわ ふみと)

ハードボイルド作家、兵法家。有限会社ヨセフアンドレオン代表取締役。 著書に『地獄誕生の物語』『ポスト学生運動史』など。 『情況』第5期にハードボイルド小説「黒ヘル戦記」、『論座』に映画批評「名作映画の原作を読んでみた」を連載。 創作物語コンテスト2022佳作入賞。

マガジン

  • 弾圧文学

    スポーツ選手の回顧録には必ず「ケガに泣いた時の話」が出てくる。これがけっこう胸を打つ。文学的なのだ。スポーツにケガはつきもの。長く選手を続ければ必ずどこかでケガをするのだが、我々の世界では弾圧がそれにあたる。

  • 池田伸哉の思い出

    2020年10月、突然、この世を去った池田伸哉にまつわる作品を集めた。毎年12月になると池田はこう言った。「ジョン・レノンは俺の誕生日に死んだ。だから、俺は誕生日が来るたびにジョンのことを思い出すんだ」去年、池田は俺の誕生日に死んだ。池田よ、俺も誕生日が来るたびに君のことを思い出すよ。/ 池田伸哉/1964年12月9日〜2020年10月2日。享年55歳。/岡山県出身。武蔵野美術大学卒業。デザイナー、写真家。/ 著書『ソビエト社会主義共和国連邦の冬』(彩流社)

  • 反体制ハードボイルド小説『黒ヘル戦記』

    『情況』(変革のための総合誌)に掲載された連作小説。 一九八〇年代から九〇年代にかけて、首都のど真ん中にキャンパスを持つ外堀大学はたびたび学園紛争に揺れた。正門にバリケードを築き上げてキャンパスを封鎖する学生たちを大学当局、公安警察は「黒ヘル」と呼んだ。 世界革命に青春を捧げた黒ヘルたちの明日なき戦いを描いた反体制ハードボイルド小説。

最近の記事

黒ヘル文学の最高峰、ついに発売!

『黒ヘル戦記』、全国書店で発売! 老舗左翼誌『情況』にて連載された本格革命小説『黒ヘル戦記』が発売されました。版元は連合赤軍や鈴木邦男の本の出版社としてお馴染みの彩流社です。1980年代から90年代にかけて「愛」と「革命」と「暴力」に生きた学生たちの姿が蘇ります。 目次 第1話  詐病 第2話  ランボーみたいな人 第3話  フラッシュフォワード 第4話  ボクサー 第5話  秘密党員 第6話  狼体験 第7話  失踪者 第8話  隠れた善行 第9話  空席      他4

    • 豚の子(短編小説)

      【生命倫理の問題に切り込むシリーズ】 豚の子 あらすじ 関東生命科学研究所の一室で、合成生物学の第一人者、塩見博士の刺殺死体が発見された。犯人は17歳の少年。少年は博士が豚のゲノムから作った人造人間だった。博士と少年の間に何があったのか。人工臓器の大量生産が実現し、人類は未曾有の長寿社会を築き上げたが、医学の進歩と生命倫理の衝突、人造人間の権利と人間の利益の対立など、前例のない問題に苦悩する。   1   20XX年、日本人の平均寿命は100歳を超えた。厚生労働省

      • セルフ出産(ショートショート) 

        【生命倫理の問題に切り込むシリーズ】  セルフ出産  20XX年、合計特殊出生率は3.0を超えた。0歳から14歳の年少人口も30%を超え、少子化問題は過去のものとなった。  子供が増えた最大の要因は代理出産の一般化である。今世紀の初め、代理出産は一部のセレブのものだったが、誰でも手軽に利用できる安価なコースが開発され、一般の女性も利用するようになったのだ。  新しく生まれたコースとは、豚を代理母とするコースである。  この日、五郎と奈々は5回目の結婚記念日を迎えた。 「

        • 池田伸哉写真集「ソビエト社会主義共和国連邦の冬」

          池田の写真集に書いた「解説」の入稿原稿が出て来た。池田の誕生日を記念してアップする。 池田写真集 解説 今はなき祖国ソ連邦の思い出 「天才」と呼ばれる写真家との出会い  池田伸哉と一緒にソ連を回ったのは1986年の12月から1987年の1月。12月の20日頃、新潟空港からハバロフスクに飛び、シベリア鉄道でイルクーツクに行き、そこから飛行機で中央アジアのサマルカンドへ飛び、そこからまた飛行機でアゼルバイジャンのバクーに飛び、そこからまた飛行機でキエフに飛び、キエフからは

        黒ヘル文学の最高峰、ついに発売!

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        • 弾圧文学
          3本
          ¥200
        • 池田伸哉の思い出
          8本
        • 反体制ハードボイルド小説『黒ヘル戦記』
          13本
          ¥1,000

        記事

          『黒ヘル戦記』の背景について

           『黒ヘル戦記』は、季刊誌『情況』の2020年冬号(1月号)から2022年夏号(7月号)に渡って掲載された連作小説である。  『情況』は1968年創刊の老舗雑誌。表紙には「変革のための総合誌」と書いてあるが、ようは、革命的左翼の業界誌である。読者は活動家と公安関係者、各国の情報部員。  『情況』はそのような媒体なので、この小説もその道のプロのために書かれている。そのため、革命的左翼とは縁のない一般の方々にはなんだかわからないところもあると思うので、少し解説しておく。  まず

          『黒ヘル戦記』の背景について

          【弾圧文学の2】籠の鳥

          【弾圧文学】は逮捕、ガサ入れ、収監など、弾圧をテーマにした掌編のシリーズです。  籠の鳥  8歳年上の白ヘルの活動家に坂上という男がいた。俺とは世代も違うし、ヘルメットの色も違う。が、この人のことはよく覚えている。  1987年の春から夏にかけて、坂上はH大の学生会館を住みかとしていた。その時、坂上は保釈中の身、坂上の保釈条件には「長野県の実家に住む」という項目があったが、実家では毎日が親子ゲンカ。それで、学館に避難してきたのである。  坂上は学館の奥の部屋からめったに出

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          テロ学の基礎講座①――テロを4つにカテゴライズする

          10月29日の「テロ審議会」では浅沼委員長刺殺事件(1960年)から和歌山爆弾投擲事件(2023年)までに起きた12のテロ事件について議論する。 https://talkingbox2022.com/1472/e20231029/ それで、TakingBoxの告知ページには12のテロが並んでいるわけだが、こうやって並べてみると、テロが4つにカテゴライズできることがわかる。 1 要人テロ 権力者を標的としたテロ。テロの基本。司馬遷「刺客列伝」の時代からテロといえばこれ。

          テロ学の基礎講座①――テロを4つにカテゴライズする

          【弾圧文学の3】押収物一覧表

          『情況』2019年秋号に掲載された掌編シリーズ「弾圧文学」の3。 「弾圧文学の1 救カード」「弾圧文学の2 籠の鳥」はこちら。  押収物一覧表  1990年の秋だったと思う。あの頃、H大の学生会館には2、3か月に一度は家宅捜索が入った。令状にはどこかのゲリラがどうしたとかなんだとか大学とは関係のないことが書いてあるのだが、それを法的根拠として公安刑事と機動隊員がワーッと入って来た。  家宅捜査の後には押収物一覧表が残る。我々はそれを見て、あー、白ヘルのあの部屋からはあれが

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          【弾圧文学の3】押収物一覧表

          星野仙一とジャニー喜多川

          「マスコミは、ジャニー喜多川の犯罪を知っていたくせに、なぜ、黙っていたのか」「犯罪を黙認していたマスコミも同罪だ」というマスコミ批判が盛んである。 マスコミはなぜ黙っていたのか。 私は、星野仙一のケースと同じではないかと思っている。 中日ドラゴンズの監督時代、星野仙一は毎日のように選手を殴っていた。が、それが問題になることはなかった。スポーツ紙の記者なら誰でも星野の暴力を知っていたが、それを記事にする記者はいなかった。 星野の暴力が黙認されたのは、「野球界はそういうところ

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          テロリスト異聞――山上徹也事件の「犯行の動機」を考える

          山上徹也の事件から一年が過ぎている。が、私には今もこの事件の輪郭が掴めない。山上徹也の生い立ち、家庭環境、統一教会との関係などについてはこの間の報道でわかったが、肝心の「犯行の動機」が見えてこないのだ。   山上の犯行の動機としては「家族と自分の人生をめちゃくちゃにした統一教会への恨みから、統一教会と関係の深い安倍元首相を狙った」という説が広く流布されている。 が、この説には飛躍がありすぎる。「ジャニーズ事務所に人生をめちゃくちゃにされたから、山下達郎を狙った」というのと同

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          新しい時代を迎えた連赤本『虚ろな革命家たち』

          本書の主役の森恒夫は1944年生まれ。著者は1992年生まれ。50年近い開きがあるからか、世代論的なところの多い本だった。 私は世代的には連赤当事者と著者の中間にいるわけだが、著者の方に世代間ギャップを感じた。昭和と平成ではずいぶん考え方が違うようだ。 この若い著者は「森恒夫は、なぜ、あんな事件を起こしたのか?」という問いを抱えながら、森の高校時代の友人や連赤の生き残りを訪ねて回る。森の育った町や連赤事件の起きた山岳ベースにも足を運ぶ。コロナで中止になったが、森の旧友から話

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          ゴチャゴチャした街が好きだ――書評「コンスピチュアリティ入門」

          「コンスピチュアリティ」とは、陰謀論とスピリチュアルを合わせた造語というが、もともと両者に境界線などない。共産主義も自然食もホメオパシーもシュタイナー教育も陰謀論も、みんな同じ人がやっているということは、この界隈に立ち入ったことのある人間なら、誰もが知っていることである。 カルトと呼ばれる人たちもそうだ。共産主義とカルトは「遠い」と思われがちだが、実際のところは、同じ町内の一丁目と二丁目の違いでしかない。 この本の中にも、陰謀論とスピリチュアルの接近は「新しくも、驚くべきこと

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          人権か、ヤクザの掟か、それが問題なのだ

          昨日、ある人から「なんでロシアを擁護するようなことを言うんだ」と言われた。 「あなたはなぜ、ウクライナを支持しているのか、まずはそれを教えてくれ」 私がそう言うと、彼はこう答えた。 「権威主義と民主主義だったら、民主主義の方がいいに決まっているじゃないか」 彼はロシアとウクライナの戦争を「権威主義と民主主義の戦争」と思っているようだった。 それで、私はこんな話をした。 プーチンがエリツィンの後を継いでロシアの大統領になったのは2000年だが、彼はエリツィン時代からアメリカと

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          異種格闘技戦を戦った論客・鈴木邦男

          鈴木邦男さんのHPの管理人さんから追悼文を頼まれたので、何かネタになるものはないかとパソコンのハードディスクを漁っていたら、こんなメモが出てきた。 アントニオ猪木は「プロレスなんて、どうせ八百長でしょう」という世間の冷たい目と戦った。鈴木邦男は「右翼なんて、どうせ財界の手先でしょう」という世間の冷たい目と戦った。 同じ1943年生まれ。二人には似たところがある。 猪木は「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」といって異種格闘技戦を戦ったが、鈴木邦男も実に多くの人と論争した。あれは鈴

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          ルーツを訪ねる旅(私だけかもしれないレア体験)

           去年の5月のことである。玉川上水の起点を訪ねる旅をした。玉川上水は多摩川の源流から四谷まで続く水道路。1653年、江戸に住む人々の水源として造られた。太宰治が身を投げた川としても知られている。  私をこの旅に誘ったのは、『東京発 半日徒歩旅行』(2018年、山と渓谷社)という本である。この本は東京から半日で行って帰ってこられる小さな旅のガイドブックで、私はこの本を買ってから、月に1、2回、この本と地図を頼りに小さな旅に出かけている。  この本の著者は「旅好きライター」の佐藤

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          信長、秀吉、家康の出てこない歴史書――『対論 1968』(笠井潔、絓秀実、外山恒一)

          上の写真は「鳥になった塩見議長と人民」 (以下、ネタバレあり) 一気に読んだ。とっても面白かった。 私も職業柄(どういう職業か?)、1968年本はかなり読んでいる方だが、外山恒一がまとめたこの1968年本は、これまでに読んだ、どの1968年本とも違った。 冒頭部分で外山は本書の語り手、笠井潔と絓秀実をこう紹介している。 「笠井氏は党派の、しかも指導者クラスの活動家だ。共産主義労働者党という、ベ平連にも大きな影響力を持っていた中堅党派の、学生組織の委員長だった」 「対して

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