見出し画像

テロリスト異聞――山上徹也事件の「犯行の動機」を考える

山上徹也の事件から一年が過ぎている。が、私には今もこの事件の輪郭が掴めない。山上徹也の生い立ち、家庭環境、統一教会との関係などについてはこの間の報道でわかったが、肝心の「犯行の動機」が見えてこないのだ。  

山上の犯行の動機としては「家族と自分の人生をめちゃくちゃにした統一教会への恨みから、統一教会と関係の深い安倍元首相を狙った」という説が広く流布されている。
が、この説には飛躍がありすぎる。「ジャニーズ事務所に人生をめちゃくちゃにされたから、山下達郎を狙った」というのと同じで、殺人の動機としては無理がある。

また、「統一教会への恨み」説は山上徹也の伯父が言い出したものである。メディアはこの「身内の証言」を土台に物語を作り上げているわけだが、この伯父さんの話はどこまで信用できるのか。
というのは、一方で伯父さんが「徹也とは、徹也が自殺未遂事件を起こした時(2005年)以来、会っていない」とも言っているからだ。
その時、徹也は20代半ば、犯行時は40代。すっかり人間は変わっているはずだ。そんな徹也の心の内が10年以上も会ってなかった伯父さんにわかるのだろうか。私が山上徹也の立場だったら「勝手なことを言ってるんじゃないよ」と腹を立てただろう。

また、この伯父さんは弁護士である。何を言えば徹也が不利になり、どういう動機にすれば有利になるか、熟知した人間である。
伯父さんの作った「犯行の動機」を聞いて、少なからぬ人が山上徹也に同情を寄せているが、伯父さんは「しめた!」と思っていることだろう。

山上徹也の人物像も今ひとつはっきりしない。メディアは「真面目で、優秀で、家族思い。だけど、少しコミュ障で、人間関係が苦手」と言うような人物像を流布している。「堅物で付き合いづらいところはあるけど、悪いやつじゃない」といったところだが、徹也の伯父さんはこんな話もしている。

「自殺に踏み切る前、徹也はサラ金などから合計100万円ほど金を借りて飲み歩いていた。一人で「最後の晩餐」をやっていたんだろう。その借金は私が完済した。」
「自衛隊病院に入院していた徹也に会いに行った時、これからのことを話し合った。私は、しばらくおふくろ(伯父さんの近所に住む徹也の祖母)のところで暮らし、仕事を探すなり、勉強するなりして次のことを考えるのはどうかと提案した。それを聞いた徹也は喜んでなあ。
ところが、うちの家族が了承しなかった。ええかげんにせいということだったんだろう。」
(東洋経済オンライン「山上容疑者を凶行に駆り立てた一族の「壮絶歴史」」より)

ここで語られている山上徹也の人物像は「真面目で、家族思いで・・・」というものとは違う。リアルな山上徹也は、サラ金から借りた金で飲み歩き、自殺することでチャラにしようとした人間なのだ。

伯父さんは「最後の晩餐」と言っているが、これも信じがたい。20代半ばの人間が100万円も飲み食いできるわけがないからだ。
では、徹也は100万円を何に使ったのか。
大金を手にした20代の男性が行くところとしたら、風俗以外には考えられない。山上徹也は風俗依存症だったのかもしれない。
伯父さんの家族が徹也を拒否したのも、これが理由ではないのか。「サラ金から借りた金で風俗に通い詰めるようなやつはいやだ」と思うのは無理のない話である。
山上徹也を破滅に追い込んだのは統一教会ではなく、風俗だったのかもしれない。

では、なぜ、風俗依存症の男が元首相を狙ったのか。
足立正生監督の「Revolution+1」は、日本赤軍のリッダ闘争(テルアビブ空港乱射事件)との関係を指摘している。山上徹也の父親がリッダ闘争で戦死した安田安之と親しかったことから、二つの事件を結びつけているわけだが、私もそうではないかと思っている。

ある日、徹也は馴染みの風俗嬢にこんな話をした。
「俺の親父と兄貴は自殺した。しかし、俺は自殺未遂で終わった。俺は自殺もできない人間なんだ」
そう言って自嘲気味に笑う徹也の髪を撫でながら、風俗嬢はこう言った。
「自殺の家系なんだね。でも、どうせ死ぬなら、自爆テロすればいいのに。私なら絶対にそうする。一人じゃ死なない」
「自爆テロか。でも、俺はイスラム教徒じゃないから」
「日本人だってやるよ。私、生まれは京都なんだけど、京大の西部講堂にはオリオンの三つ星が描いてあるの」
「オリオンの三つ星?」
「昔、京都大学の学生は、パレスチナ解放のためにイスラエルで戦ってオリオンの三つ星になったの。すごいよね。私、子どもの頃、この話を聞いて、すっごく憧れた。私も星になりたいと思った」
「へー、俺の親父も京大卒だよ」
「そうなんだ。あなたのお父さん、世代的に、赤軍派と関係あるかもね」
徹也が、自分の父親と日本赤軍のただならぬ関係を知ったのは、それからだ。
徹也はむさぼるように重信房子の著作を読んだ。そして、ある日、覚悟を決める。
「赤軍派は佐藤栄作に潰された。俺はその仇を取る。佐藤栄作を大叔父とする安倍晋三に責任を取らせる」

※この物語はすべてフィクションです。私の妄想です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?