第54話 ネネとの会話はコツがいる
そもそもネネがドールの街に行こうとしていた理由とは、人間の街が今どうなっているのか見てみたいと思っていたからでした。
そこにみんなから、街には大好きな「バニラアイスとマンガ」があると教えられたものですから、もうネネのワクワクは止まりません。
「怖い悪霊が出る」と忠告を受けたはずなのですが、そんなことはすっかり忘れていました。
ネネの生き方の信条は「食う・寝る・遊ぶ」なので、自分の欲求に忠実なのは仕方がないことです。
なぜなら、それがネネだから。
とはいえ、考え無しで自らトラブルの中に突っ込んでいくことが多すぎて、よく相棒のサンダー・ボルトからお説教されていました。
しかし反省する気配もなく、何度も同じことを繰り返してしまいます。
そしてまたもやネネは、天然ボケを発動していました。
月のルーナは、いきなりネネに質問されます。
「ルーナちゃん、ドールの街には、どんなアイスクリームがあるの?」
「いや、悪霊の話しようとしてんだけどネネちゃん」
「もしかして、ドーナツもある?」
「えっと・・・ネネちゃんは、悪霊が怖くないの?」
「あ!お金は持ってるから大丈夫だよ」
「いや、そうじゃなくて・・・話ちゃんと聞いてる?」
「うん」
ネネは、マジメに話を聞いていませんでした。
なぜなら彼女の頭の中は、すでにお菓子の事でいっぱいだったからです。
こういった嚙み合わない会話はネネの通常運転なので、死神やサンダー・ボルトはもう慣れたものです。
こういう時は、先にネネの疑問に答えてやるのが正解なのですが、彼女の性格をまだ知らない月のルーナは、いま初めてネネの洗礼を受けています。
あまりにも会話にならないので困っていたところ、妹のオレンジがネネの質問に答え始めていました。
「ネネちゃん、バニラアイスあるよ。イチゴアイスも、あったはず」
「この金貨で買えるかな、バニラとイチゴのアイスクリーム」
「十分だよ。えっとねドーナツもね、いろんな種類売られてたよ」
「オレンジちゃんは、天上界にアイスもドーナツも無いって知ってた?」
「天上界の神も女神も食べることに、全く関心ないからな~」
「ヘンテコな話だよね、あんなに美味しいのに」
「うんうん、気持ちはわかる」
「でしょ~ お菓子を小馬鹿にする神がいるなんて、信じられないでしょ」
「だよね。でも果物の桃は、食べてるらしいよ」
「桃?そんなものあったっけ」
「天上界のどこかにあるって、聞いたことあるよ」
「へぇ、知らなかった。そうだ!今度一緒に盗みに行かない?」
「それ面白そう!!」
「楽しみだね」
「うん」
今度は、会話が成立しています。
笑顔で物騒な約束をしているところが、ちょっと気になりますが。
「ところでネネちゃん。街には悪霊が出るけど、どうしたい?」
「もしかして、人間死んじゃったらアイス食べれなくなる?」
「そうだね」
「マジで!? ぐぬぬ、それは大変だ。悪霊やっつけよう!!」
「だね。あいつら夜になると現れるんだよ。それと物音立てると、いっぱい悪霊が集まってくるから気を付けようね」
「うん」
「ちなみにネネちゃんの師匠の死神は、その悪霊退治のプロだよ」
「えーーーー!!!そうだったの?!」
この会話を横で見ていたルーナは、唖然としました。
自分とは会話の仕方そのものが、全く違いました。
オレンジは最初にネネの食べ物の疑問にちゃんと答えてから、うまく悪霊の話に誘導していったのです。
オレンジとネネが仲良しになったのは、性格や考え方がよく似ているので、お互いの波長が合うからだろうなとは思っていました。
ちょっと子供同士の会話に見えなくもないですが、今度はちゃんと会話が成り立っています。
その場に死神が呼ばれ、悪霊に関する注意点が話されました。
ルーナが、さらに驚きます。
死神は単なる説明ではなく、まるで童話の物語を読み聞かせるように喋り始めたのです。
それはダークヒロインの女性2人組が、悪霊の群れと戦う話でした。
最後に悪霊が集まって、巨大な悪霊になってしまい苦戦します。
そこで死神が、気になることを言っていました。
それは「頭を叩かれた悪霊は、しばらく動けなくなり」です。
まるで死神がネネと模擬格闘戦をやる時の勝敗ルールである「頭を叩かれた方が負け」そのものでした。
つまり死神はネネに悪霊のことを何も教えてなかったわけではなく、修行と称して悪霊との戦い方を叩きこんでいたということになります。
原初神のルーナ達は悪霊との実戦経験はあるものの、死神ほど多くはありません。
知らないことを散りばめてくる死神の童話物語に、いつの間にかルーナとオレンジも惹き込まれているようです。
ネネも同じように興味津々みたいで、質問までし始めました。
「それから、その大きな悪霊ってどうなったの?」
「ひとりが悪霊の気をひく役目。もうひとりが、剣で切りつけてやっつけたのです」
「おぉー!すごい。かっこいい」
「あいかわらずネネさんは、ダークヒロインの冒険物語がお好きですね」
「だって、かっこいいっしょ」
「がんばり次第ですが、あなたも同じようになれると思いますよ」
「ホント!? えへへ、じゃー頑張るのだ」
死神も、実に見事な会話術でした。
ネネの興味を引いたうえで、さらにやる気まで引き出しています。
どう考えても、このダークヒロイン2人組は月のルーナと道化師のオレンジのことでした。
これは200年前に実際にあった出来事で、剣で切りつけていたのはルーナの方です。
つづく
【あとがき】
この小説の題名は「赤と黒のサンタ」です
ネネとの会話を成立させる最大のコツは「わかりやすく話す」ことでした
彼女が他の事に気を取られていると、そもそも会話にすらなりません
ある意味で「かなりめんどうくさい女神」ですが、興味を持ってくれさえすれば、のめり込むように話を聞いてくれます
原初神の月のルーナは、ネネとの会話を通して、改めて自分自身の在り方を見つめ直す良い機会になったようです
月のルーナもまた、ネネの影響を受け始めていました
全てAI生成画像です。「leonardo.Ai」さんを利用させて頂いてます
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