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書籍紹介 金間大介『静かに退職する若者たち』


 本書は、現代の若者が職場を静かに去る背景を詳細に分析した一冊です。本書では、まず「いい子症候群」と呼ばれる若者たちの特性について述べられています。彼らは、大人向けのコミュニケーションのテンプレートを持ち、感じよく振る舞いつつも本音を明かさない自己防衛的な姿勢を取っているとされています。周囲と調和しながらも内心では不満を抱えているとのことです。

1. 1on1ミーティング
 
企業の現場で1on1ミーティングが求められる理由が詳述されています。1on1は、経営者と現場の意見が一致する数少ない取り組みとして注目されています。適切なフィードバックが重要であり、上司は評価的要素を排除し、端的な情報のフィードバックに努めるべきと述べられています。現状では、多くの若者が本音を話さずに人間関係を保険のように守るため、1on1の本当の目的が達成されているか疑問視されています。1on1には覚悟が必要であり、長期的な視点で取り組むことが求められます。

1on1で相手にするのは人間の心だ。ちょっと本を読んだり研修を受けたりしたくらいで、どうにかなるものではない。1on1には、覚悟が必要だと思う。ちょっと導入しただけですぐに結果が出るようなものではなく、長い旅となる覚悟だ。その長旅のプロセスこそ、スキルは身につく。

出所:本書(P78)

 また、現在のビジネス環境では「答えがない世界」に対応するため、上司と部下のビジョンやミッションの共有が重要です。「いい子症候群」を理解し、若者たちが主体性を持つことに対して感じている強い不安を理解することが求められます。

ビジネスにおいても、『答えがない世界』と言われるようになって久しい。決めごと、決まりごとだけを実行していれば前に進めるという時代ではなくなった。これは一部の人にとっては、『大変な悲劇』と言っていい。だからこそ、上司と部下、先輩と後輩は、お互いのビジョンやミッションを共有しつつ、その場その場で臨機応変に業務に取り組む主体的な姿勢が尊重される。なぜそのことが『大変な悲劇』なのかというと、主体性という聞こえのいい言葉で覆い隠されているが、その実は『正解なのか、余計なことなのか、今はわからないけど自らの意思と責任で選べ』と言われていることと同義だからだ。だからこそ、答えとマニュアルとお手本があって、横並びの世界へ逃げ込もうとする『いい子症候群の若者たち』が増える、というのが僕の主張だ。さらに、『特に若者にその傾向が強い』と言っているのであって、『いい〇〇症候群』はすでに先輩世代の多くにも蔓延している。実際、逃避したい気持ちはよくわかる。批判するつもりは全くない。『正解か、余計なことか、自己責任で選べ』の世界はしんどい。本当にしんどい時代になった。そんな時代だからこそ、1on1の出番だ。年に1~2回じっくりと、というパターンもありだが、それよりも、回数多め×頻度高めの1on1が重宝される。難しい時代だからこそ、誰もストレートに正解を教えてくれるとは思っていない。でも、『確かにそれは難しいけど、俺ならこうするわ』という先輩の意見が聞ける。」

出所:本書(P87)

2. 若者たちが突然会社を辞める

 若者たちが突然会社を辞める理由として、退職代行サービスを利用する若者たちの中には、後輩に対する恐怖心があると述べられています。優秀な後輩に対して自分が無能だと思われることを恐れているのです。また、「ホワイトすぎて成長できない」職場に失望し、自己成長の機会が少ない職場を「ゆるブラック」と呼び、それを理由に退職する若者もいます。

要するに、今の若者の多くは、なるべく手軽に成長を実感したい、周りに遅れないよう効率的に職業人として通用する能力を身につけたい、という気持ちが強い。これが正確な表現だろう。だからスキルや能力向上の機会を無視してこき使う職場を『ブラック』、逆に仕事量が少なく、身につく知識やスキルが少ないと感じる職場を『ゆるブラック』と評することになる。

出所:本書(P213)

 日本では、アメリカのように人の流動性が高くないため、若手の退職は企業により大きなインパクトをもたらします。これにより、メンバーシップ型雇用の中で若者が退職を選ぶことが多いとされています。

 アメリカにおけるハッスル文化からの逃避は、別に退職まではしない。にもかかわらず、日本の若者は会社そのものに見切りをつけてしまうなんて、アメリカ人もびっくりの大胆行動だ。日本社会はアメリカのそれのように人の流動性は高くない。それは、いわゆるジョブ型雇用ではなく、メンバーシップ型雇用が理由だが、そのメンバーシップ型の雇用環境の中で(特に若手の)退職者を出すことは、組織にとって大きな痛手となる。つまり若手の退職は、日本社会において、より大きなインパクトをもたらす。

出所:本書(P202)

3. 上司・先輩のための「フィードバック入門」

 効果的なフィードバックの原則として、具体的で迅速なフィードバックが重要と強調されています。若者たちは過度な期待や圧力を感じるフィードバックを嫌います。上司や先輩にはその点を理解した対応が求められます。具体的なフィードバックを頻度高く行うことが推奨されており、若者たちの成長をサポートするためには、上司自身も学び続ける姿勢が重要です。

結局、僕は何をバラそうとしているかというと、1on1でうまくコミュニケーションが取れない、相手の素直な気持ちや考えを引き出せない、と悩んでいるのは、何よりも上司や先輩たちだということだ。1on1は若手だけではなく、上司や先輩にも学びがある。どうか、双方の学びの場として、部下や後輩である皆さんの力を貸してほしい。

出所:本書(P330)

 以上、本書は、若者と上司・先輩世代との間の相互理解を深めるための1on1を通じたコミュニケーションにおいて、若者の主体性を尊重しながら、社内の非合理文化を見直すことに重きを置くことを勧めています。
 全体として丁寧に分析され、具体的な提案が記されていますので、若者たちとのコミュニケーションに悩む上司や先輩には参考となるでしょう。


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