城アラキ

漫画原作家

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最近の記事

朝日新聞「それぞれの最終楽章」最終回

2か月近く、毎週土曜日に掲載していただいた「それぞれの最終楽章」も最終回。最後に「それぞれ……」について少しだけ述べたい。 妻の死について出版することに対しては、逡巡があった。今でもそれが良かったことなのか(少なくても淳子さんは呆れながら少々怒っていると思うし)分からない。 ただもし、ひとつだけ意味があったとするなら、本をきっかけに何人かのひとから「実は私も……」と似たような喪失の過去を打ち明けられたことだ。 誰の過去も、決して忘れ去られた「過去」ではなく、「今」とつながって

    • 映画「フェラーリ」と「フェラーリの赤」について

      「貧乏人が! フェラーリの一台、二台欲しがるな。どうせ買うならフェラーリ社そのものを買え」 というセリフが気に入っていて、いろいろな所で何度も使った。 この変形で「エルメス? バックの1つふたつ欲しがってはいけませんよ, お嬢さん。少しの間、紙のバックで我慢してくれれば、10年後にはパリのエルメス本社を君にプレゼントしてあげよう」 というわけで映画「フェラーリ」を見に行ってきた。 映画に文句をいうなら、イタリア女性はやっぱりイタリア語で喜怒哀楽を叫ぶからこそ、ラテンの血と

      • 朝日新聞「それぞれの最終楽章」⑥最後の日と「時間」について

        死=人の生は限られている。 限り=時間。……ということについて考え続けた。 私は学生の頃から、ライターという「職人」であることにプライドがあるので、「先生」にはならないようにしている。職人の世界では、読み手(あるいは使い手、映画なら観客)が理解出来ないような作品は、独りよがりな「先生気取り」と笑われるのだ。自分自身が他者に説明できるほど完全に理解した事以外は、近づかないというのが基本のスタンスだ。 だから本書でも、あの時に感じた不思議な時間感覚については、最後の最後「読み

        • 「関心領域」とケガレについて

          地方都市が困るのは、昼の上映映画がアニメとアイドル恋愛映画ばかりになること。シネマイーラでようやく上映されたので見てきた。公開されてだいぶたつので、見たいと思った人はすでに見てしまっただろうから、多少のネタバレはお許しあれ。 普通、ストーリーはイントロがあって、登場人物と背景の説明があって、事件が起こって、謎で引いて解決。エピローグとなる。(だから「すべてのストーリーはミステリーである」という。誰の言葉だっけ?) ところがこの映画は登場人物と背景の説明がない。不親切ともい

        朝日新聞「それぞれの最終楽章」最終回

          朝日新聞「それぞれの最終章」⑤「今日は死ぬにはもってこいの日だ」

          これはネイティブアメリカン・プエプロ族の言葉とされる。(詩にしたのはアメリカの詩人だが)。 例えば、西表島の沖、360度水平線を見晴らすヨットの上から見上げた満天の星空。ゴビ砂漠の七色の砂のうねりが続く地平線に沈む巨大な夕陽。 そんな様子をボンヤリ見ていると時間は止まり、確かに「今日は死ににはもってこいの日だ」と、満たされて思う。 悲しいとか辛いとか、そんな人の営みとは違う物に包まれると、ふっとこのまま自然の中に溶け込みたいという気になる。 ただし、ここでの死ぬは「溶け込む

          朝日新聞「それぞれの最終章」⑤「今日は死ぬにはもってこいの日だ」

          朝日新聞「それぞれの最終楽章」④死の3人称

          人の死について、一番切実に考えていた頃の記事です。 「妻への十戒」本文の中ではジャンケレビッチの有名な「死の人称」について、もう少し詳しく触れています。 「1人称の死」は自分自身の死。「2人称の死」は最愛の人の死。「3人称の死」は他者の死。 この「2人称の死」(愛する者の死)については、R・A・グロルマンは 「愛児を失うと、親は人生の希望を奪われる/配偶者が亡くなると、ともに生きていくべき現在を失う/親が亡くなると、人は過去を失う」(グルマン「愛する人を亡くした時」) これ

          朝日新聞「それぞれの最終楽章」④死の3人称

          朝日新聞「それぞれの最終楽章」③栗本薫/中島梓さんのこと

          人生が根本から変わるような出来事が起こると、人は、さまざまな「因果」や繋がりの「縁」をつい考える。 「因果」とは何か。例えば淳子さんのことでいうなら、「ガンになった原因と理由」=「因」を探し求めることだ。頭では「因果」などないと分かっていてもつい探し求め苦しむ。だから「因果不落」=「因果を求める無限ループに陥ってはいけない」と言われる。  とはいえ完全には諦めきれないので「不昧因果」という言葉も対になっている。不昧=誤魔化さないでそのままを受け入れる。因果を求める自分自身そ

          朝日新聞「それぞれの最終楽章」③栗本薫/中島梓さんのこと

          「それぞれの最終楽章」②      愛情は本当に同じ方向を見つめることか

          朝日新聞「それぞれの最終楽章」連載2回目。紙面掲載は明日、土曜。デジタルはその翌日掲載です。 デジタル版は掲載紙面の倍くらいの分量があります。そしても、ちろんオリジナルの単行本は当然、そのまた何倍もの文章量です。それでも当初の原稿を1/3以上も削ってようやく一冊にまとめました。 削ったのは当然「語るほどでもない、普通のこと」です。 単行本では、告知から死までの3か月と、互いに20代で出会ってから逝くまでの30年間を、文字の色を変え(PCだとちょっと違いは分からないか)、交互に

          「それぞれの最終楽章」②      愛情は本当に同じ方向を見つめることか

          『kick the Bucket』と『Bucket list』

          映画「最高の人生の見つけ方」の原題は「Bucket List」。 ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンが人生の最後に、世界中を旅して互いの望みを叶えるというお話だ。(netfrixで見られます)  例えば二人が「バケツを蹴る=死ぬ」までに叶えたいとして、その中に入れたリストは……。「涙が出るほど笑う」「見ず知らずの人に親切にする」「タトゥーを入れる」「マスタングでレース」「スカイダイビング」「ピラミッドを見る」そしてリストの最後の最後が「世界一の美女にキスをする」――

          『kick the Bucket』と『Bucket list』

          「朝日新聞 それぞれの最終楽章」(1)「悼亡詩」について

          6月1日から、朝日新聞の「それぞれの最終楽章」紙面で、「妻への十戒」(ブックマン刊)を連載で毎週、紹介してもらいます。朝日新聞デジタルでも読めます。(デジタル版は毎週日曜日午前9時にアップされ、24時間は全文を無料で見ることが出来ます。デジタル版の方が写真も文章量も多くなっています。原稿は朝日新聞・高橋記者の署名原稿です)  せっかくなので、新聞の連載に合わせ、単行本で触れられなかったことについて、毎週、書いていきたいと思います。 ……と、こういうことじたい、なかなか悩ましい

          「朝日新聞 それぞれの最終楽章」(1)「悼亡詩」について

          朝(だ)からカレー

          体重が落ちません!  普通だと75Kgの基準線を挟んで朝は1Kg減。体脂肪率は15%。ここから夏に向けて2Kgの減量、2%の体脂肪率減。というのが毎年恒例。 が、今年はなんと、いま現在77Kg。 「いえいえ。別にコンテストめざしてるわけじゃないから」 と、自他共にいいわけするけど、ど~にもスッキリしない。 「食事量を減らしすぎて代謝が落ちてるのかもしれん」 と、いうわけで今朝は朝からカレー作り。 トマト缶がなかったのでケチャップとペースト。本日はちゃんとタマネギから炒める。

          朝(だ)からカレー

          オリジナルもぜひ

          アニメの「バーテンダー」に合わせて、5本だけ新しいお話を掲載中。まったくのオリジナルもあれば、アニメとやや重複したお話も。 京都の話は、舞妓ちゃんが動く姿が見たかったけど、アニメでは設定が変わって、残念ながら別の話に。こちらがオリジナルの絵。 原作者にとっては思い入れのある話なので、是非オリジナルの漫画で読んでいただけると嬉しいです。 (長友先生も、気合い入れてとても、可愛く描いてくれた!) noteの使い方に慣れなくて、画像をドロップすると縮小ではなく切り取りになってし

          オリジナルもぜひ

          5月 新刊「妻への十悔(じっかい)」

          余命3か月。あの日、あなたに言われて約束したよね。 「無理心中なんて嫌だからね。後追い自殺もダメ」。 僕はまだ、生きている。あなたを失った時間を――。 喪失の対象はさまざまだろう。 時に妻であり夫であり、子供であり、両親であり、祖父母であり、 恋人や友人のこともあるはずだ。 ただ、唯一無二のかけがえのない「その人」。世界のすべてと交換しても、もう一度会いたい、もう一度取り戻したい。そう思える誰か。 そんな誰かを失ったあなたに、読んでほしい。 あなたのためだけに本書を書き始め

          5月 新刊「妻への十悔(じっかい)」

          千葉麻里絵&城アラキ 日本酒対談

          「ヒナの和酒」新連載特別企画 原作・城アラキ、日本酒監修・千葉麻里絵スペシャル対談! - Comic curea # (comic-curea.jp)  監修の千葉さんは説明がとても簡潔で分かりやすく、科学的でした。ワインに比べると、どうしてもとかく情緒的になりがちな酒の説明ですが(いえいえ、ワタシのことですけどね)。今回は千葉さんがとてもしっかりしてますので、客観的で説得力ある日本酒の解説が出来ると思います。  さて、ところでなぜ今回は日本酒なのか……。  実は漫画の一

          千葉麻里絵&城アラキ 日本酒対談

          漫画「バーテンダー」再アニメ化で原作者が唯一希望した2つの事(城アラキ)②

           漫画バーテンダーは、10年以上前に嵐の相葉君主演で実写版のテレビドラマになったことがあります。撮影所見学で会って、対談取材と撮影が終わると「一杯、飲んでくれますか」と言ってくれます。人気アイドルの一杯。それはなんとしても飲まねば。セットのバーカウンター。手慣れた手順でボトルを扱い、シェイク。作ってくれたのはホワイトレディでした。これが期待以上の美味しさで正直驚きました。半年間、銀座の酒向さんに指導してもらったそうです。 (後日、トップアイドルを見た印象を聞かれましたが。「

          漫画「バーテンダー」再アニメ化で原作者が唯一希望した2つの事(城アラキ)②

          漫画「バーテンダー」再アニメ化で原作者が唯一希望した2つの事(城アラキ)①

          お願いのひとつは、亡くなられたおふたりの名前をスペシャルサンクスとしてスタッフロールに加えて欲しいということでした。 ひとりは切り絵作家の成田一徹さん。 もうひとりがバーテンダー尾崎浩司さん。 成田さんからは銀座で飲みながら「バーテンダー」という漫画が生まれるきっかけになった言葉をたくさんもらいました。アニメにも使われているキメセリフはこの時に生まれたものです。 ただし、BAR(カウンターの横木)とTENDER(優しさ)を合わせてBartenderという説は文献的には正しく

          漫画「バーテンダー」再アニメ化で原作者が唯一希望した2つの事(城アラキ)①