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THE BLACK

それは、おそろしいくらいの黒だった。


学生最後の3月

大学卒業の3月、わたしは大学院に進む気でいた。
お金もないのに…。

親には「もう出せないから自分で稼げ」と言われた。
そりゃそうだ。

就職活動してきていないから、大学卒業の3月になっても就職先は決まっていない。
そりゃそうだ、活動してないんだから。

ならば自分の力で稼ぐしかない。

3月になって求人誌を読みはじめた。

今のようにインターネットが当たり前の時代ではなく、就職活動も転職活動も紙が中心だった。

就職氷河期、学生最後の月に就活を始めてもそう簡単に決まるはずはない。
と、思っていた。

とある求人のフレーズがとても魅力的が目に飛び込んだ。
日本一を目指しませんか?

すぐに履歴書を送った。

すぐに面接が決まった…。

面接

一次ですぐに反社会的勢力の幹部のように体格のいいトップの面接があった。
面接は数分程度ですぐに終わった。

「おもしろいじゃん!明日から働いてみない?今日ホテルとるからさ!」

え!
ちょ、ちょ、ちょ、あ、あ、あした!!!

「はい!」

もう授業も何も予定が無かったので断る理由もなかった。

まるで、みずから志願して面接に来たセクシー女優のようじゃないか…。

翌日の見学はとくにびっくりすることもなく、社会人経験もない自分は「会社ってこんなものなんだな…」と思うくらいだった。

研修

研修初日、朝から晩まで喉が潰れるまで大声で社訓をさけび、先輩全員に大きな声で自己紹介と挨拶をする。

そしてトイレ掃除や会社の掃除。

研修2日めには研修生の数が半分に、3日めには3分の1になる。
2桁いた研修生が、研修最終日には片手で数えられるほどしかいない。

「研修ってこんなものなのかな…。」

無知ほど恐ろしいことはない。
それが世界だと思っていた。

アルバイトはしたことあるけど、これが新卒で初めての社会人経験なんだから…。

会社の外部向けのチラシでは、「採用率0.3%のエリート社員たち」とポジティブに打ち出していた理由が分かった気がする。

全社員での研修中に、目の前で倒れて救急車で搬送された社員もいる。

99.7%の研修生や社員は、1年もたない世界ってことだったんだな…。

配属

1ヶ月程度の研修の日々を乗り越え、配属先が決まった。

それは会社最大規模を誇る中心拠点だった。

研修をしていた本社に配属されていた上司から
「もし、この拠点で1年続いたら、どんな会社のどんな仕事でも絶対できるから!」と
肩をたたかれ声援を送られる。

え?

もう約20年前のことだが、その言葉は嘘じゃなかったと思う。

先輩

社会人経験がなかった。

また、自営業だったり、酪農だったり、身近に会社員もいなかったし、大卒の親族もいなかった。

だから、社会も会社もどんなものだか分からず育った。

「まずは飛び込め!」と上司に言われ、目の前の机上に飛び込み、血だらけになった伝説のある先輩が、教育係のような役割になった。

少なくとも2年くらい、毎日深夜3~4時まで説教される。

そりゃそうだよね、何も知らないんだもの。

誰も何も教えてくれない。

「見て学べ!」

「先輩に呼ばれたら『ハイ!』と大きな声で返事をし、手帳とペンを持って走れ!」

「社長や会長が来たら、とにかく大きな声で挨拶して、深く敬礼しろ!」

たぶんここは本当に自衛隊より反社会的勢力より厳しい世界なんだろうな…。

回想

それは恐ろしいくらいの黒だった。

当時から約20年の時を経て、何社も経験している。

半分以上は上場企業だし、プライム企業だって10年以上の経験がある。

やはり違う世界だった。

メディアから断絶されたカゴの中の鳥だったから周りが見えなかった。

ネットもストリーミングも無い時代、帰るのは早くとも深夜3時を過ぎているから、テレビも「砂嵐」(何も映らない)しかない。

今みたいに個人が情報を発信するすべはなく、「この経験は大事だ」と思い、自由な時間ができたら日記を書く程度の日々を送った。

そんな、当時新卒から働いていたわたしが書いた実際の日記から、1つをシェアして、このお話の終わりとしたい。

死にたいくらい追い詰められているなら辞めるべきだし、今はハラスメントというワードもSNSもあるから、「まちがっている」と思ったら、周りに助けを求めて、発信してほしい。

実際はそんな世界じゃないよ。

理にかなっていなかったら逃げてもいいし、むしろ、自分を傷つけるくらいなら逃げるべき。
( 実際にまわりも逃げまくっていたからなお分かる… )

THE BLACK

毎日毎日身と心を削って働いている。


上司は会社に感謝しろと言う。

こんな恵まれた環境はないと言う。


ほとんど寝る暇も休みもなしに、

仕事仕事の毎日って恵まれた環境なのかな?


1日20時間以上働くこともしょっちゅうだけど、

恵まれてるなんて思ったことがない。


でも学生からすぐに社会人を始めて今の環境でしか

働いたことがないからよくわからないのが現状。


明日のことを考えるのが嫌なくらいの仕事量のある

今の生活が果たして恵まれているのかわからない。


かと言って、

仕事もろくにしないで遊んでばかりの生活も自分は嫌だ。


ただね、

ずぅっと文句も言わずに自分に振られた仕事は徹夜でもこなして、

さらにそれ以上のこだわりを持って命をかけてるのは、

きっとこの経験は貴重だって自負があるから。


早い人は1日で辞める。


新人研修、

初日は10人いたのが、

二日目には5人、

一週間後には2人になってる。


たとえそこを乗り越えたとしても、

1年もつ人は半分といない現状。


業務と仕事柄のプレッシャーの過酷さは、

他では経験できないものだとも思う。


夢をかなえるためには苦難が必要だと思う。


自分の夢は自分にしかできない仕事をして、

(未来の)家族と共に幸せで平凡な毎日を送って、

家族のために仕事もがんばれるダディーなんだけど。


苦しみさえも乗り越えられる人間、

壁があったらぶち破る精神のある人間が最終的に勝つと思う。


だから何も考えないように、

オフのときは記憶喪失のように仕事のことは考えない。

その日やるべきことを確実にこなして、

明日のことは考えない。

考えたら嫌になる。

決して楽な日なんてないから。


登竜門なんだろうね。

立派に成長するための登竜門。


自分はそう信じてる。


外部との接触がほとんどないから、

世の中がどうなってるのかよくわからないから。


夢と現実の狭間。


今は荒波に揉まれる期間だからしょうがないって。

実際はどうなのかな?

これまでほぼ苦難しかない半生でしたが、これからは上がるのみだと信じて活動していきます。苦あれば楽あり。苦労を知っているからこそ幸せに価値を感じるもの。よかったらサポートしてもらえると嬉しいです。