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読み物「桜の季節」

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むかし書いた舞台の台本を小説風に連載中。死神と桜の精が織り成すファンタジー。
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2020年6月の記事一覧

桜の季節4

桜の季節4

前回の桜の季節はこちら。

   場所戻って現在の庄之助宅中庭。桜庭庄之助が一雄に語りかけている。一雄は庄之助の話しに夢中で聞き入っている。

「そう約束すると桜の精は消えてしまったんじゃ、それから桜の精がわしの前に姿を表すことは無かった……。まぁ、この桜とは毎日会っていたがな。」

 そう言うと庄之助は桜の木を見上げた、真似をする様に一雄も桜の木を見上げる。

「いままでの人生色々な事があったが

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桜の季節5

桜の季節5

前回のお話しはこちら。

  葉子と一雄が帰った後も庄之助は縁側に座り桜の木を眺めていた。満開の桜は風でざわめき揺れていた。

「今日も元気じゃな、羨ましいのう。ワシにもその元気があればのう。」

庄之助はうつむき溜め息をついた。

「昔に戻りたいのう。そうすれば一雄にも本当の強さってものを教えてやれるのになぁ。」

  そう言って庄之助は家の中へ入っていった。日は完全に落ち辺りは真っ暗になってい

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桜の季節6

桜の季節6

前回の桜の季節はこちら。

  死神スレイブにより明日死んでしまうと告げられた庄之助、信じられない庄之助はスレイブに問いかけた。

「明日で間違いないのか!」

  もう一度手帳を確認し頷くスレイブ。

「間違いありません。」

「そんな馬鹿な……、こんなにも元気なのにか?」

「そう言われましても、私は貴方の魂を迎えに来ただけですから、お身体の事までは。」

「確かに最近妙に胸が痛むと……。いや

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桜の季節7

桜の季節7

前回の桜の季節はこちらから。

  死神が本物である現実を突きつけられた庄之助であった。

「おじいちゃん……?」

「……ああ、すまんのう。ほれ、そろそろ帰らんと、すっかり暗くなってしまった。」

「……うん。それじゃ、また明日。」

「ああ……。」

  一雄はゆっくりと裏庭から外へと向かった。庄之助は複雑な心境だった、また明日……。今別れると明日にはもう会えないのだ、大好きな孫に……。

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桜の季節8

桜の季節8

前回の桜の季節はこちらから。

「キミは?」

  スレイブは急に現れた白い着物姿の人物に問いかけた。

「ふふ、初めまして。」

「私の姿が見えるのですか?」

「はい、もちろんです。」

  スレイブは驚いた、死神は死期の近ずいた者にしか姿が見えないのである。稀に霊感等の力が強いと言われる人間に見られる事はあるが、今回はどう理解すればいいのか。

「貴方は、庄之助さんの言っていた桜の精ですか?

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桜の季節9

桜の季節9

  前回の桜の季節はこちら。

   桜の精は語り始めた。

  「あれは70年ほど前の事になります。涼しくなり始めた秋の事でした。庄ちゃんの住んでいるこの家を改装する事になり、庭も無くしてしまう予定の為私を切ることになりました。」

  過去の桜庭家中庭。桜の木の前に立ち塞がる1人の少年がいる、幼少期の庄之助だ。

『ダメだよ!この木は僕の友達なんだ!お願いだから切らないで!』

「当時まだ小さ

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