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桜の季節5

前回のお話しはこちら。

  葉子と一雄が帰った後も庄之助は縁側に座り桜の木を眺めていた。満開の桜は風でざわめき揺れていた。

「今日も元気じゃな、羨ましいのう。ワシにもその元気があればのう。」

庄之助はうつむき溜め息をついた。

「昔に戻りたいのう。そうすれば一雄にも本当の強さってものを教えてやれるのになぁ。」

  そう言って庄之助は家の中へ入っていった。日は完全に落ち辺りは真っ暗になっていた。

  庄之助が家へと入り静まり返った中庭に少しの間の後、全身黒ずくめのスーツを纏った男が現れた。男は溜め息をつき庄之助の座っていた縁側へと近づいた。

「出てくるタイミングを逃したな……。」

  男は庄之助に用があったようだ。

「これは……?」

  縁側に置かれたままの日記を手に取った。

「桜の精か……。」

  先程の話をこの男も聞いていた様だ。すると庄之助が縁側に忘れた日記を取りに中庭に戻って来て男と鉢合わせた。

「ん?お前さんは何者じゃ?ここで何しとる?」

「あ!す、すいません!」

  男は突然戻ってきた庄之助に戸惑いを隠せない様子だ。

「勝手に入られては困るのう、何かご用かな?」

「あの、その、実は……。」

「ハッキリせんのう、とりあえずその本は大切なんじゃ返してくれんかのう。」

「あ!はい、すいません勝手に触ってしまい。」

  男は庄之助に日記を手渡した。庄之助は日記を受け取ると再度尋ねた。

「もう一度聞くが、お前さんここで何をしとるんじゃ?」

  男は冷静さを取り戻した様子で庄之助の問に答えた。

「すいません……、桜庭庄之助さんですね。」

「ああ。」

「申し遅れました。私はスレイブ、死神です。あなたを迎え来ました。」

「はぁ?」

  庄之助は耳を疑った。

「ですから、死神です。お迎えに上がりました。」

「……死神?」

「はい。」

  スレイブと名乗った男は満面の笑みだ、庄之助は冗談だと思い適当に流した。

「ああ、そうかいそうかい。死神さんのう。」

「はい!」

「すまんのう、宗教か何かの勧誘なら間に合っとるよ。」

「いえ、宗教のお誘いではなく。あの世からのお迎えです。」

  スレイブは変わらず笑顔だ、庄之助は少し不快になり。

「ははは、何を馬鹿な事を。」

「嘘ではありません、本当です。」

  庄之助は少し声を張り上げ。

「しつこいぞ!冗談でもしつこいと不愉快じゃ!」

  スレイブは冗談を言っている訳では無かった、彼は本当に死神なのだ。真剣な眼差しでスレイブは答えた。

「私の目を見て下さい。冗談を言っている訳では無いのです、信じてください。」

  庄之助はスレイブの顔をじっと見つめた。嘘をついている様には見えない。

「……いや、そうか……。」

  庄之助は信じたと言うより、納得した様子だ。

「桜の精がいるんだ、死神がいてもおかしくないか……。」

「信じてもらえましたか?」

「ああ……。むかしに娘も会ったと言っていたな……。」

「葉子さんですか。」

「知っているのか?」

「ええ、少し。」

「そうか、ワシは本当に……。」

「はい、すいません。」

「いつじゃ?いつワシは。」

  スレイブはスーツのポケットから手帳を取り出しページをめくった。

「えっと、4月20日午前10時12分に息を引き取る予定です。」

「20日!明日じゃないか!そんな急にか………。」

  死神の存在は容認したものの、急な死亡宣告に戸惑い容易に受け入れられるものでは無かった……。

つづく

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