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熱く語る人 愛国者学園物語 第195話


 吉沢友康議員は熱心に語る男であり、愛国心を武器に、多くの国民の心を奪う演説をした。

だがその演説手法は怪しいものであった。

第一に、その主張には具体的な根拠が少ない。

 一部の東アジア人や日本の左翼勢力、それに政権与党を嫌う人など、つまり日本人至上主義者たちが言う

反日勢力

が、旭日旗に反対していることは事実だ。しかし、それが旭日旗廃止運動につながる確証はない。あるいは、彼らが「朝日」などの言葉の使用禁止を日本に要求するかも不明である。だから、旭日旗廃止運動も、そのあとで起きると吉沢が言う、日本文化の破壊も根拠はどこにもないのだ。

 このような言動に対して、彼には、二八(にはち)の男という悪名がついた。2割の事実に、8割の空想を混ぜた演説をするという男という意味で、それは彼がうどん粉2割、そば粉8割で作られた二八そばが好きだからというわけではない。

 口が達者な本人は、「いや、そんなことはありませんよ。真実8割の演説もします」と平然と言い返し、そういう悪評をなんとも思わなかった。

 第二に、吉沢は、長年政権を担ってきた政権与党の大幹部らしく、まるで自分たちの政治が唯一で最高の政治であるかのような主張をしてきた。


 この男は政権与党しか見ない、という批判があったが、それは事実であった。事実、彼は野党の政策どころか、その話すらほとんどしないのだ。彼にとって、野党は存在感ゼロであった。連中は自分たち政権与党に反対するだけで、まともな政策を打ち出せず、野党勢力を結集して、自分たちに立ち向かうことも出来ない、などという非難を繰り返していた。

 この男は、自分たちの政権与党だけが唯一にして最高だと主張する精神構造の持ち主であった。つまり、吉沢は民主主義の対極にある独裁に賛成する人間だ、とも言えよう。

 第三に、彼は、差別的な演説をすることも珍しくなかった。

 吉沢はこんなことも言った。日本社会にLGBTが増えたら、日本はますます高齢化が進みますよ。なぜなら、彼らは子供を産まないからです。子供を産むのが健全な日本人ではないでしょうか、と。LGBTや子供を産めない人、あるいは子供を持たない選択をした人はまともな日本人ではない、というこの論理は、世の中から激しく非難された。だが、ある事情が彼に味方をした。

 かつて、ある日本人至上主義者である議員がそういう発言をしたが、それを支持する者がそれなりの数いたせいか、今回の発言にも賛同者が大勢現れたのだ。彼らは日本社会がLGBTの権利を擁護することに疑問を持っていたのだった。

 第四に、彼は近隣諸国の軍事的脅威が増大している、日本が絶滅の危機にあるから、日本も核武装すべきだと熱心に述べていた。


 もちろん、その

核武装論

は激しく非難されたが、彼は決めゼリフの一つ「日本がどうなってもいいんですか?」を連発して対抗した。そして、日本核武装論に反対する者イコール日本の安全を無視する者だとして、逆に非難した。事実、北朝鮮は国内経済が最貧国レベルでありながら、核戦力の増強を続けていた。もちろん、中国もロシアも核を持っている。だから、日本に対する核の脅威はあったことは事実で、それをもとにした吉沢の演説は作り話とはいえなかった。それゆえ、彼の意見に賛同する人々も少なからずいたのだ。日本が広島と長崎の核攻撃を経験してから、80年以上が過ぎた時代の話である。

 第五に、吉沢は度の過ぎたパフォーマンス議員であった。

 彼はマスメディアの精神構造を熟知しており、目立つようなパフォーマンスを何度も行なっては、マスコミに取材させていた。ある時は、国会の強行採決で大立ち回りを演じ、ある時は、演説会で涙をボロボロ流して日本人の素晴らしさを聴衆に訴えて、彼らの涙とスタンディングオベーションを手にした。それら、日本人至上主義丸出しの主張も、実はマスコミ対策だった。派手なことを言えば、彼らが取材してくれるからだ。吉沢の言動が年々ひどくなった理由は、マスコミの目を引くことだった。彼は目立つ者イコール真の政治家であり、目立たない者は政治家として意味がないとまで言った。

 だが、こんな粗暴な人間に世間の人々は魅力を感じたのだ。
日本を、反日勢力の暴力から守ってくれる議員。
日本を、外国の侵略から守ってくれる人。
生意気な近隣諸国に一発ぶちかませる男。

 多くの人が、彼を支持したからか、子供たちの中にさえ、彼の支持者がいた。そのうちの一人は、のちに、彼と親しくなり、事実上の弟子になったとは、誰が予想出来ただろうか。

続く
これは小説です。

次回 第196話
乱暴な演説をする吉沢友康議員が、愛国者学園の子供たちにした演説とは?
彼はどんな演説をして、愛国少年たちの心をつかんだのか。
お楽しみに!



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