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#19 教育現場への哲学の導入について②


前回のまとめ

前回は、学校で是非とも教えてもらいたいこととして「お金」と「哲学」を挙げた。前者はもう誰もがその重要性を語っており、高校などでも導入が進みつつあるので、後者の方を重点的に書いた。「哲学=知ることの喜び」に基づいて、どういう形で哲学が導入されれば良いかを考えてみると、経験に基づく必要性、そして己の文脈に触れることの大切さ、それを対象化するためには表現や制作とセットで哲学を学ぶ(ある程度の哲学史や哲学研究にも触れる)ことはどうかというアイデアに至った。

教育の現場で触れる哲学

「哲学とは、問うことそれ自体を問う」みたいな話もわかるが、教育の現場でそれをやったとしても、せいぜい思考実験的な活動か「はい論破」みたいな議論がなされるだけになるだろうし、「問うことを問う」などは別に哲学の特権ですらない。
むしろ哲学は、今見えている世界とは別の世界があることを言葉によってさまざまな先人たちが編んで伝えてきたような、そういう営みのように思う。化学であっても、生物学であっても、アートであっても数学であっても、我々が了解しあっている世界とは別の世界があることを教えてくれているのではないだろうか。それがフィクションか科学的根拠があるかはここでは一旦脇に置き、それぞれは私たちが普段捉えている光や音やものの形とは別の世界があることを提示してくれている。哲学も同様に、言葉と概念によって別世界を提示している分野であり、僕はそれを知ることが本当に楽しいを今でも感じている。カントやスピノザ、ヘーゲル、フロイト、ラカンなどの先人たちが身近にあった世界の裂け目に、自らの言葉と概念で切り込み探求した別の世界が書物につまっている。本を閉じてそんな世界から戻ってくると、いつも僕の目の前の世界の様子が少し変わっていた。何かに違和感が覚えるようになってきた。映画マトリックスのように、世界でそれまで自分が見過ごしていたバグが見つかる。
哲学は、この自分にしか見えない裂け目を見つける手がかりを与えてくれるものだと思う。そして、それは各人に固有のものであり、それぞれ違っている。その裂け目から世界を剥がしてみるとこれまた自分にしか固有でない世界が見えてくる。この世界は究極的には分かち合えないが、とはいえ全く他者に伝えることができないかと言えばそうでもなく、ぼんやりとでもその輪郭や、その別世界にある建物や人、道のかたちを伝えることができる。それは言葉によって構成された現実だ。
自分なりの言葉によって構成された現実世界は、とても脆く、日常の他者の手垢に塗れた色褪せた言葉がすぐに濁った世界となってしまう。10代という決定的な時期に、せっかく見つけ出したそうした世界を濁らせないために、言葉の修練を積むことの他にも、やり方があるのだと思う。それが今回の教育の現場で哲学とセットで学ぶべき制作の役割じゃないかと僕は思う。

哲学とともにつくること、制作すること

哲学は先人たちが各人に固有の言葉で作り上げた別の世界に触れることで、自分にも親や友人、教師が言う世界とは別の世界があることを示すこと。それは、これまでの自分の生き方や馴染みのある世界を剥がすことに等しい。剥がされた後に残るグロテスクな世界をそのままにせず、そこで改めて「つくること」を通して新たな色彩や形を与えて自分なりの世界を構築することが哲学を教育に持ち込む目的にあたるのだと思う。10代のうちにカントがどう言った、ヘーゲルがどう行ったということを学ぶことはそれなりの意味があるかもしれないが、それは哲学史の勉強であって、哲学の勉強ではない。10代の時に、お金のことを学ぶように哲学を学ぶことは、生きることが、この先ずっと他者や世界、そして自分自身と自ら付き合っていかなければならない絶対条件を学ぶこと。
絶対条件としての「自ずから付き合っていく」ことは、僕は哲学だけは不十分だと思っている。哲学は「己が己である」という当たり前がいかに絶対的なことであるかを教えてくれる。そして、他者には決してなれない、訳のわからない世界に偶然にも生まれてきた己を引き受ける、その過程に知の喜びがあることなどを教えてくれる。しかし、世界について、他者について知るには僕は哲学だけが万能だとは思わない。それは、諸学問であったり、暮らし方であったり、あるいは芸術などの分野であったり、広く言えば「世界との交感」なのだと思う。この己が己であるという事実を学びつつ、世界と交感する技能を学ぶ両輪が同時に必要なのだと思う。


制作の哲学の件の具体的なかたちについて書くことができず、前置きでだいぶ長くなってしまった。いつもこうして書き始めると前置きが長くなってしまい当初に書こうと思っていたことに漕ぎ着くことができない。
でも、このことを考えることは非常に楽しく、引き続き書いて、それを実行にうつしてみたい。また今晩か明日にでもこの続きを書いてアップしてみようと思う。

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