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昼下がりの校舎、夏のひととき。

日本一深い湖で知られる秋田県の田沢湖。
そのほとりには、かつて小学校がありました。

現在は廃校となってしまい、学び舎として使われなくなってしまいましたが、当時の面影を残した校舎内部を見学することができます。
今回はかつての校舎で、夏のひとときを過ごしてみました。

思い出の潟分校の正式名称は旧田沢湖町立生保内おぼない小学校かた分校といいます。
1976年に廃校となり、その後地元の人々によって修復工事がなされ、2004年に「思い出の潟分校」として一般公開を始めました。

特筆すべきは木造校舎の外観の美しさです。校舎は大正時代、体育館は昭和初期のもので、当時の雰囲気を残したまま、貴重なの建て方や間取りを見ることができます。

出入り口に立つと、その佇まいに目を奪われます。
建物を囲うような木々の緑、扉の上の小さな時計、そして目を引く赤い郵便受け。

校舎にしては小さくまとまった入り口は、まるでアニメのワンシーンのようです。

土間に上がると、下駄箱にはわらぐつやかんじきなどがおいてあります。雪国ならではの光景です。

窓枠は全て木でできています。木造校舎でも一部は金属サッシに交換されているものも多くあるので、実はあまり見かけません。

教室に入ってみます。

黒板も木にペンキを重ね塗りしたものが使われています。

天井近い位置に窓があるため、教室内に光が入りやすいような作りになっています。

廊下を通って体育館へ。

体育館も木造で、今となっては珍しい窓の配置がなされています。

誰もいない教室に入ると、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っているので、子供心ながら寂しさと儚さを感じたあの頃を思い出します。

夏休みのあの日。
朝起きて、ラジオ体操のスタンプを貰って、自転車で夏休みのプールへ駆けずり出す。午後からは宿題と絵日記を書いて、アイスクリームを口いっぱいに頬張る。

きっとほとんどの人が小学生の頃に思い描いていた自分とは違っている、あるいは、自分は将来何になりたかったのか、はっきり思い出せない人もいるかもしれません。

学校を卒業し、社会の荒波に揉まれ、理想と現実のギャップに苦しみ、疲弊した自らの心に気づかずにただ時間だけが過ぎてゆく。

小学生の自分にそんな状況はきっと想像できなかったでしょう。

小学生の頃、自分はどうだったのか、将来どうあってほしかったのか。
思い返すためのトリガーとして、校舎の存在は大きなものであると言えます。

小学生の頃に思い描いていた将来の自分は、職業や生活スタイルは違ったとしても、結果として「幸せである自分」だったと思います。

今の自分を見て、小学生の頃の自分は納得してくれるだろうか。
思い出はそんな疑問を自らに問いかける通過点なのかもしれません。

古い校舎の魅力は歴史や建築だけではありません。
机や椅子を見て、少しの瞬間でもかつて子供だった自分を思い出させるところも魅力のひとつなのです。

校舎の多くは朽ちて消えゆく運命にあり、こうして美しい形を保ったまま残されるのは奇跡に近いです。
しかし、学校として復活することはなく、生徒の声が聞こえることはないと思うと、何処となく切なさを感じるのです。

校舎を流れる緩やかな時間に、つい過去の自分を思い出してしまいました。

「思い出の潟分校」で、忘れていた子供の頃のひとときを追体験してみてはいかがでしょうか。

思い出の潟分校
秋田県仙北市田沢湖潟字一ノ渡222-8

バスは2時間に1本しかないため、アクセスは車が便利です。
県道60号線から脇道に逸れます。曲がるポイントで看板が立っているのですが、見落としやすいのでご注意ください。
学校に至るまでの道は狭いため離合が難しいです。通行の際は十分ご注意ください。
車は校庭に駐車できます。


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