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「海外では重い荷物を男性が持ってくれる」…は過去のものに



イギリスからの帰国子女の友人がよく文句を言っていたアレ


私がまだ若かった20年前、仲の良い帰国子女の友人がよく言っていたのは

「海外ではスーツケースを持って階段を上り下りしていると、すぐに男性が手助けしてくれるの!」
という話でした。

イギリス暮らしの長かった彼女は、
日本では、
女性が重い荷物を持って階段を登っていても男性が助けてくれない
男性がドアを開けてくれない
店に入る際に女性を先に通してくれない

…色々なことに憤りを感じていたようでした。


ただ、彼女の話はいつも決まって
「でもね、九州男児のうちのパパはいつも
”そんな小さなことで男の価値ははかれないんだぞ”
っていうんだ」
で終わるのです。

ちーっとも嫌味のない子で、私は彼女のイギリス話を聞くのが大好きでした。


実際にイギリスに行ってみると…想像以上にすごかった

結局進学先をイギリスに決めた私。

彼女の言っていた「スーツケースを男性が運んでくれる」
という話、ホントなのかしら?と半信半疑で渡ったイギリス。



実際、ロンドンへ行ってみると、
笑ってしまうほどに道ゆく人がスーツケースを運ぶのを手伝ってくれて驚きました。


当時、日本みたいにスロープやエレベーター(イギリスではリフトと呼びます)が整備された駅はほとんど無く、珍しくエレベーターのある駅でも、ほぼ50%以上の高確率で「故障中」。

だから、イギリスでは重い荷物を持って階段を上らなければならないシーンが頻繁に発生したのです。


するとどうでしょう。
荷物に手をかけるまでもなく、スーツケース片手に階段の下に立つだけで
「運びましょうか?」
と次々声をかけてもらえました。
そうした声をかけてくれた男性は白人男性が多かったな


別にそれは私が若かったから、とかそういうことではなく、
ロンドンではそれはごく当たり前にありふれた光景
で、

どの階段でもあらゆる年代・国籍の女性の
「あら、ありがとう」
「助かったわ」
という声が聞かれた
ものです。

ある日、もう足もともおぼつかなりくらいの老紳士が、重いスーツケースを持ってくれようとした時はさすがに
「このスーツケース、とっても軽いの!心配しないで!」
と慌ててお断りしたのを覚えています。


今回気がついてしまったのですが
ロンドンで20年前によく見られた光景がほとんど見られなくなっているのです!


最初の頃は
「あれ、もしや20年前あんなに荷物をもってもらえたのは私が若かったからなのか?w」
と想像もしましたがどうやらそうではないらしい。


駅を歩いていても、みんな女性は自分で荷物を運んでいます。


イギリス人男性が語ったその理由


せっかくなので仕事先のイギリス人男性にちょっと尋ねてみることにしました。


するとなかなか面白い答えが。


なんとそこにはジェンダーの話が密接に関わっているのだというのです。


重い荷物を持ってあげるというのは
「女性はか弱く、守られるべき存在だ」
という偏ったジェンダー意識の表れだ。

そう捉える女性が増えているそうで、
それが原因で男性は「運びましょうか?」と声をかけるのをためらうのだそう。


そのイギリス人男性も、
「ありがとう。でも私このくらい自分で持てるわよ」
と女性から断られることが多くなって、次第に声をかけるのをやめてしまったのだとか。


なるほど、たしかに外国の女性って体は大きいし、
ジムでムキムキに鍛えている女性も大勢いるし、
全然強そう…。


以前アメリカ人の友人と話していた時、
「日本では背が小さくて細い女性がモテるから、私は全然モテないのよw」
と自虐的に言った私に、
「え、日本人男性って小児性愛者なの?」
と真顔で聞かれたことを思い出しました。


「さすがにその言い方は無いでしょ〜
それぞれの国で、美醜の価値観は違うものよw」

とぴしゃりと言いましたが、

欧米文化では、特に女性側が
「私は男性から守ってもらわなくちゃならないような、か弱い存在ではない。私は独立した立派な大人な女性よ。」ということを
言葉で、態度で、きっぱりと示す
ことが多くあります。
だからこそ、女性もガチガチに体を鍛えていることも多いのだとか。



20年でそんな変化が起きていたんですね。




ジェンダー論以外の理由

今回きいたのはジェンダー論的理由でしたが
それだけでなく、統計などからもその理由とも考えられる変化がありました。


移民の増加

ロンドン市の発表によると、
・2001年:ロンドンの人口は約720万人で、そのうち外国生まれの人口は約280万人
・2021年:ロンドンの人口は約880万人に増加し、移民が354万人

今や5人ロンドン市民がいたらそのうち2人以上が外国生まれなのだそう。

非白人の増加

・2001年:非白人率 約28%
・2021年:非白人率 46%以上

かつて「女性の荷物を持つ」という行為が白人男性を中心に行われていたことを考えるとそうした文化が薄れるのも頷けます。


公共施設のバリアフリー化が進行

古い建物を大事にし、そして何よりも地震のないイギリスでは、
建物を滅多に建て替えません
だからこそ、そう簡単には「エレベーター/エスカレーター設置しよう」とはなりません。

そんなイギリスにも12年前に転機がありました。
そう、ロンドンオリンピックです。
世界中から観客がやってきて、パラアスリートもやってくる。

そんな時に、どこもかしこも階段・段差だらけ…
50年前のエレベーターはいつも故障中…
というわけにはいかないのです笑


オリンピックを経ても、もちろん日本に比べれば、バリアフリー施設の数は信じられないくらい少ない。
池袋駅くらいのサイズのターミナル駅で、駅じゅうのエレベーター全部足しても5基…みたいなことも普通にあります。

それでも、昔のように
「助け合わなければ不便すぎる社会」では着実になくなっているのです。

その日の暮らしが厳しい貧困層の存在

現在、ロンドン市民の約28%が貧困状態(住居費控除後の世帯収入中央値の60%以下の収入と定義)にあるというデータが、ロンドンにあるNPO法人Trust for Londonからも出されています。

ブレグジットの影響で富裕層の流出がとまらないロンドンにおいて、
日々の暮らしが厳しい人が、女性旅行客のスーツケースをいちいち持ってあげるかというと…ちょと難しそうです。


20年前のロンドンを知る日本人として何を思うか

20年前に圧倒された「持ちましょうか?」という光景
それがほとんど見られなくなっている今。


私の心の9割を占める感情は意外にも
「ホッとした」
でした。

やっぱり根は日本人なんですよね。
急に
「お荷物持ちましょうか?」
なんて言われたらこそばゆくて、申し訳なくって、階段を登りながら

「サンキュー」
って10回くらい言い続けて、
「そんなにサンキュー言わなくていいよw」
と笑われたこともありました。


それに、
ありがたいという気持ちとともにいつもふと現れる感情として
「このままスーツケース持って逃げられたらどうしよう!」
という感情。

海外ではあり得ないことが普通に起きます。

だから、超超失礼なのだけど、
いつも荷物を持っていただく時に「この人大丈夫かな〜」
ってちょっとばかり疑いの気持ちを持って接したり
たとえ逃げられても走って追いかけられるように、同じスピードですぐ後ろにぴったりくっついて階段を上り下りしたりしていたのです。


もちろん、ほんのちょっとの寂しさはあります。
だって、十数時間飛行機に乗っただけで、突然「荷物を持ちましょう」ってみんなに言われるのですから、かなりの非日常です。
「海外来たなァ〜」って実感できました。

それに英国が誇る紳士文化の一部とも言える行為がほとんど消えていること
もともとあったものが消えていくことは寂しいものです。

それが「文化」という目に見えないものであるとなおさら。


だけど、そうして少しずつ変化していくことで、
また新たな文化が花開くのだと思います。


すくなくとも、私みたいな日本人からすると、
大きな荷物を持って出かけるたびにこそばゆい思いをしなくて済むのは、ちょっと気が楽なのでした。


ロンドン・パディントンより愛を込めて…✨

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