海に書いたラブレター
老いぼれてたどり着いた
鄙びた教会で
涙ながらに
牧師から職を与えられた
かつての肉体派女優
快楽の極みを死にとりかえた
アイドル歌手
彼女はインタビューに
こう答えた
<今年は賞をいただいて最高に幸せでした
来年もがんばります>
海と戯れるときのあなたの肌は
原始の輝きを蘇らせる
ぼくらは海に由来する生き物なのだ
それにしても
ぼくらに肉体があるとは!
波は塩辛い想い出を
砂浜に浸み込ませては引き
海は水平線の向こうで
空の涙を拭っている
夏にこういえばよかったのかも知れない
<水平線を赤く焦がして
夕陽が沈んだら
あの崖一面に咲いている白い花を
夜明けまでにみんな摘んで
その香を壜につめて
あなたに送ろう
日が昇ると
匂の精がみんな
朝風に乗って逃げていってしまうから>
正午の花時計
日々の陽光は
アトリエで微笑んでいる胸像から
白い艶を化学者の手つきで奪ってゆく
光と色の関係は
忘却の法則を証しだてるものとして
備忘録に記入されることだろう
ただし末尾には
こう付け加えたほうがいい
<この関係は変更されることもありえる>と
性に関する項目をかたはしから
百科事典をひいては
犯罪者としての密かなときめきと
ヒトの哀しい動物性を知って
子供ではいられなくなった頃が
懐かしくなったなら
そのとき
まだ誰も知らない仕方で
あなたの涙を拭ってはくれないか
(突然ですが)
私の詩『日本国際救助隊』(20124年5月22日 note 投稿)が、
『ココア共和国』7月号の佳作に選ばれました。
Kindle版で275円です。