マガジンのカバー画像

ショートショート(エブリスタ兼用)

10
エブリスタでUPしたショートショートなど
運営しているクリエイター

記事一覧

恋愛万事塞翁が馬【柊 優斗】③

恋愛万事塞翁が馬【柊 優斗】③

矢沢先生は僕の肩をひとつ、軽く叩くと耳打ちした。

「どちらも二人分だし」

笑いをこらえているかのような表情のまま、矢沢先生は職員室へ颯爽と戻っていく。

雨音が止まぬ中、廊下に残されたのは僕と、星野さん。
そして、一本の折り畳み傘。

千載一遇のこの機会を逃すと、僕は一生弱虫のままだろう。
意を決して、口を開いた。

「星野さん、一緒に、帰らない?」
僕の問いかけに驚いて、やがてはにかむように

もっとみる
恋愛万事塞翁が馬【矢沢先生】②

恋愛万事塞翁が馬【矢沢先生】②

柊くんに差し出された折り畳み傘をみて、合点がいった。
朝礼の時のあの反応、それに今、カバンを不自然にもっていたこと。

「先生は今日、傘を忘れたんでしょう?」
「ええ、そうだけども――」
「僕はなんとか帰れますし。それに先生は……二人分、特に大事でしょう」
私の返答を終わらせぬまま、柊くんは畳みかけるように続けた。
いつもより饒舌な様は、有無を言わさず私に受け取れという意思すら感じる。

なるほど

もっとみる
恋愛万事塞翁が馬【柊 優斗】②

恋愛万事塞翁が馬【柊 優斗】②

日直は僕と星野さんだった。

そのまま廊下にでて矢沢先生に声をかける。
矢沢先生の手元には、大きな教科書の束があった。
要するに、それを持って欲しかったのだろう。

「持ちます」
そういって両手を差し出すと、矢沢先生は僕に教科書の束を載せた。
「良かった、助かるわ。じゃあ、職員室に行きましょうか」

歩き出そうとすると、後ろからドアが開く音がした。
僕の予想通り、それは星野さんだった。

「じゃあ

もっとみる
恋愛万事塞翁が馬【星野 奈々】

恋愛万事塞翁が馬【星野 奈々】

なんてことだろう。
これからテストだなんて信じられない――。

テストが嫌という訳じゃない。
いや、テストは嫌なんだけども……。

「机の上にシャープペン1本、替え芯、消しゴムだけを出すように」

矢沢先生の発言に、わたしは必死で筆箱の中を探し回る。

シャープペン、替え芯に。そう、そうなのだ。
さっきの言葉で思い出した。

あろうことか消しゴムを昨日なくして、今日そのまま学校へ来てしまったのだ。

もっとみる
恋愛万事塞翁が馬【矢沢先生】①

恋愛万事塞翁が馬【矢沢先生】①

「さて、黒板のこの文字が読めますか。柊くん」
ウトウトしていた生徒――柊くんをズバリと当ててみる。
柊くんは静かに椅子を引き、慌てることなく黒板を確認した。

「人間万事塞翁が馬、です」
「意味は?」
「ものごとは見方によるということです」

明瞭完結に解答するさまは、凛としている。
ただしそれは授業中と男の子に対してのみ。
とくに隣の女の子に対しては人見知りが激しいらしく、素材が良いのになんとも

もっとみる
恋愛万事塞翁が馬【柊 優斗】①

恋愛万事塞翁が馬【柊 優斗】①

「今日は雨だってさ、折り畳み傘をもっていきなよ?」

出掛間際に姉ちゃんにいわれ、僕は折り畳みの傘を通学カバンに突っ込んで、急いで玄関を飛び出した。

僕の少し前を歩くのはクラスメイトであり、隣の席でもある星野さん。

後ろ姿でもわかってしまう。
巡りくる初夏の風にそよそよと黒髪がなびいている。

空をみると彼方に、薄暗い雲は迫っていた。
なるほど、確かに雨かもな――そうぼんやり考えていたら、星野

もっとみる
【短編小説SS】雨男

【短編小説SS】雨男

「いい加減にしろよ、お前」

一つ上の小林先輩が、僕の胸倉を勢いよく鷲掴みにしてきた。

「毎回毎回、お前がくるときだけ雨じゃねぇか」

吐き捨てるような先輩の言葉とともに、僕は更衣室のロッカーに体ごと押し付けられる。
金属質の扉の冷たさもあいまって、僕の背中はより痛く感じた。

「負けたからってみっともないぜ、小林」
「まあ、運営もこの状況でよく決行したよな……」
「っていってもさ、雨程度じゃ中

もっとみる
【短編小説SS】ラブコメ学園

【短編小説SS】ラブコメ学園

入学希望で学生が殺到する、ラ・ブリリアント・コミュニケーション・メモリアル学園(長いため、通称ラブコメ学園と呼ぶ)が、創立三十周年となった。

私こと古屋大介は、いたって平々凡々な顔立ちと黒ぶちメガネ。
そして中肉中背の20代前半の男性。
どこに出しても恥ずかしくないモブである。
そんな私がこのラブコメ学園に教師のタマゴとして、新規配属されることとなった。

配属五日目にして、校長先生の妙に長い朝

もっとみる
短編SS「幽霊の条件」

短編SS「幽霊の条件」

学生服に通学鞄で、僕はゆっくりと夜の街頭下を歩いていた。

「うらめしや……」
 その声で、立ち止まり暗い道路を振り返る。

 視界に入ったのは白服に三角の天冠。長い髪は濡れていて、ポタポタと水が滴っている。
 しだれ柳の下にいそうな、あんな風貌のーー

 「君だれ?」
 「うらめしや……」
 そいつは僕の答えに返答しなかった。

 「えっと、君、あのさ。幽霊かもしれないけど、もうちょっとなんとか

もっとみる
死神にろうそくを

死神にろうそくを

「こんにちは」
 軽やかな、でも少し低めの声でその人物は
机に突っ伏していた私に話しかけた。
黒く、深いフードをかぶった少年のように思える。
  通常であれば、私も挨拶は返していただろうと思う、けど今は午後十時。
 おまけに、私の部屋はマンションの八階にあった。きた、というよりは現れた、というのが正しいと思う。
「どなた、でしょう」
 震える声で私は返した。椅子を引き倒し、距離を取った。そのフード

もっとみる