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恋愛万事塞翁が馬【柊 優斗】③
矢沢先生は僕の肩をひとつ、軽く叩くと耳打ちした。
「どちらも二人分だし」
笑いをこらえているかのような表情のまま、矢沢先生は職員室へ颯爽と戻っていく。
雨音が止まぬ中、廊下に残されたのは僕と、星野さん。
そして、一本の折り畳み傘。
千載一遇のこの機会を逃すと、僕は一生弱虫のままだろう。
意を決して、口を開いた。
「星野さん、一緒に、帰らない?」
僕の問いかけに驚いて、やがてはにかむように
恋愛万事塞翁が馬【矢沢先生】②
柊くんに差し出された折り畳み傘をみて、合点がいった。
朝礼の時のあの反応、それに今、カバンを不自然にもっていたこと。
「先生は今日、傘を忘れたんでしょう?」
「ええ、そうだけども――」
「僕はなんとか帰れますし。それに先生は……二人分、特に大事でしょう」
私の返答を終わらせぬまま、柊くんは畳みかけるように続けた。
いつもより饒舌な様は、有無を言わさず私に受け取れという意思すら感じる。
なるほど
恋愛万事塞翁が馬【柊 優斗】②
日直は僕と星野さんだった。
そのまま廊下にでて矢沢先生に声をかける。
矢沢先生の手元には、大きな教科書の束があった。
要するに、それを持って欲しかったのだろう。
「持ちます」
そういって両手を差し出すと、矢沢先生は僕に教科書の束を載せた。
「良かった、助かるわ。じゃあ、職員室に行きましょうか」
歩き出そうとすると、後ろからドアが開く音がした。
僕の予想通り、それは星野さんだった。
「じゃあ
恋愛万事塞翁が馬【星野 奈々】
なんてことだろう。
これからテストだなんて信じられない――。
テストが嫌という訳じゃない。
いや、テストは嫌なんだけども……。
「机の上にシャープペン1本、替え芯、消しゴムだけを出すように」
矢沢先生の発言に、わたしは必死で筆箱の中を探し回る。
シャープペン、替え芯に。そう、そうなのだ。
さっきの言葉で思い出した。
あろうことか消しゴムを昨日なくして、今日そのまま学校へ来てしまったのだ。
恋愛万事塞翁が馬【矢沢先生】①
「さて、黒板のこの文字が読めますか。柊くん」
ウトウトしていた生徒――柊くんをズバリと当ててみる。
柊くんは静かに椅子を引き、慌てることなく黒板を確認した。
「人間万事塞翁が馬、です」
「意味は?」
「ものごとは見方によるということです」
明瞭完結に解答するさまは、凛としている。
ただしそれは授業中と男の子に対してのみ。
とくに隣の女の子に対しては人見知りが激しいらしく、素材が良いのになんとも
恋愛万事塞翁が馬【柊 優斗】①
「今日は雨だってさ、折り畳み傘をもっていきなよ?」
出掛間際に姉ちゃんにいわれ、僕は折り畳みの傘を通学カバンに突っ込んで、急いで玄関を飛び出した。
僕の少し前を歩くのはクラスメイトであり、隣の席でもある星野さん。
後ろ姿でもわかってしまう。
巡りくる初夏の風にそよそよと黒髪がなびいている。
空をみると彼方に、薄暗い雲は迫っていた。
なるほど、確かに雨かもな――そうぼんやり考えていたら、星野
【短編小説SS】雨男
「いい加減にしろよ、お前」
一つ上の小林先輩が、僕の胸倉を勢いよく鷲掴みにしてきた。
「毎回毎回、お前がくるときだけ雨じゃねぇか」
吐き捨てるような先輩の言葉とともに、僕は更衣室のロッカーに体ごと押し付けられる。
金属質の扉の冷たさもあいまって、僕の背中はより痛く感じた。
「負けたからってみっともないぜ、小林」
「まあ、運営もこの状況でよく決行したよな……」
「っていってもさ、雨程度じゃ中
【短編小説SS】ラブコメ学園
入学希望で学生が殺到する、ラ・ブリリアント・コミュニケーション・メモリアル学園(長いため、通称ラブコメ学園と呼ぶ)が、創立三十周年となった。
私こと古屋大介は、いたって平々凡々な顔立ちと黒ぶちメガネ。
そして中肉中背の20代前半の男性。
どこに出しても恥ずかしくないモブである。
そんな私がこのラブコメ学園に教師のタマゴとして、新規配属されることとなった。
配属五日目にして、校長先生の妙に長い朝
短編SS「幽霊の条件」
学生服に通学鞄で、僕はゆっくりと夜の街頭下を歩いていた。
「うらめしや……」
その声で、立ち止まり暗い道路を振り返る。
視界に入ったのは白服に三角の天冠。長い髪は濡れていて、ポタポタと水が滴っている。
しだれ柳の下にいそうな、あんな風貌のーー
「君だれ?」
「うらめしや……」
そいつは僕の答えに返答しなかった。
「えっと、君、あのさ。幽霊かもしれないけど、もうちょっとなんとか