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恋愛万事塞翁が馬【柊 優斗】③

矢沢先生は僕の肩をひとつ、軽く叩くと耳打ちした。

「どちらも二人分だし」

笑いをこらえているかのような表情のまま、矢沢先生は職員室へ颯爽と戻っていく。

雨音が止まぬ中、廊下に残されたのは僕と、星野さん。
そして、一本の折り畳み傘。

千載一遇せんさいいちぐうのこの機会を逃すと、僕は一生弱虫のままだろう。
意を決して、口を開いた。

「星野さん、一緒に、帰らない?」
僕の問いかけに驚いて、やがてはにかむように僕に笑いかけた。

「喜んで」

僕の折り畳み傘は少し大きめのはずだったが、それでも二人で入ると随分とせまく感じる。
当たる肘と互いの顔までの距離に、鼓動が聴こえやしないか、息遣いは普通だろうかと余計なことを思わずにはいられない。

それでも、僕は彼女がなるべく濡れてしまわぬよう、傘を傾けた。
「あの、柊くんも濡れちゃうから」
そういわれてしまうと、気にして距離が縮まって、さらに緊張してしまう。

「柊くん……」
星野さんが僕の制服の上着の裾を掴んで、ポツリとつぶやく。

でも呼ばれる名前ですらも雨音で聞こえづらく、なんだろうかと僕の熱くなった耳を星野さんにゆっくりと近づけた。

「良かったら……消しゴムを買いに……一緒に行かない?」

――もちろん、喜んで。

僕が無事、星野さんを家に送るまで、雨が降り続けることを願うばかりだ。

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