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小説/【タイムレコード0:07】黄昏時の金平糖。

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タイムレコード0:07というアカペラグループの、宵宮氷、黄昏わらべ、師走わさび、涼路わた、暁愛華葉、木暮葉凰。少年少女らが出会ったとある夏の物語。
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#黄昏

小説/黄昏時の金平糖。【Ves*lis】#6 ヒーロー

黄昏わらべ 6月2日 木曜日 午前7時10分
           愛知県 夏露中学校登校道

「─」
 呆然と立ち尽くしていた。
 取り敢えずノリで話しかければなんとかなるって思ってた。でも、違った。
 そうだ。俺たちはもう幼くない。ノリだけじゃ仲は修復されない。もうすぐ大人なんだ。このまま居れるわけでもない。
 歩き続けなければならない。なんとか方法を探しだして、話し合わないと。
 さっき腕を

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小説/黄昏時の金平糖。【Ves*lis】#8 アイデア

木暮葉凰 6月2日 木曜日 午後13時40分
          愛知県 夏露中学校 美術室

 話を聞く限り、幼馴染みとのトラブル、のようなものなのかもしれない。
 時間が空き、成長し、相手のことはこの数年間一切分からない。好きだったのか、嫌いだったのか、ましては覚えていないのか。
 どちらにせよ、お互い気になっていることはなんとなく分かる。
 そんなに大切な幼馴染みを簡単に忘れられるわけがない

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小説/黄昏時の金平糖。【Ves*lis】#11 もう一人

暁愛華葉 6月3日 金曜日 午前6時

「─みんなー、おはよー」
「、、、ん?朝、、、?」
 アラームを止めて、弟妹たちを起こした。そしたら、魁斗が起きてくれた。
「朝。他はやっぱ起きないね」
「な。でもぐっすり寝てるのは良いことだよ」
 そう言って、弟妹を起こす。
 魁斗は起きるのが早いが、他の妹弟は遅い。
「おーい、若葉ー、翔瑠ー」
「鞠音も。遅刻するぞー」
「んん、、、?うるさいよ、魁斗、、

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小説/黄昏時の金平糖。【Ves*lis】#12 作戦失敗と製作開始

黎明わた 6月3日 金曜日 午前7時13分
          愛知県 夏露中学校の登校道

 よくないよくない。
 なんで隣町から中学校に通わなきゃいけないの?
 絶賛、走って通わされている。
 自分が通う夏露中学校は、「夏露」ってついてるくせに、実際には八季市(はつき)の冬雫町(とうだ)にあるのだ。
 って言っても、学校楽しいけど。
 ここら辺から夏露中に行く人は、ざっと10人くらい。他はみん

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小説/黄昏時の金平糖。【V*erno 】#13 憶忘逃避

黎明わた 6月3日 金曜日 午前7時20分
              夏露中学校 体育館

「げ、劇はプリンセスシリーズが良いんじゃない?」
「シンデレラとか白雪姫?」
「そうっ!」
「ありかもねぇ」
 そんなことより、さっきのことを思い返していた。
 気まずくて思わず逃げてきたけど、なんか話したかったのかな。
 って思うとなかなか集中できない。
 ─自分が思いきって逃げてきたんだ。自分を困らせ

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小説/黄昏時の金平糖。【V*erno】#14 一歩後ろに

師走わさび 6月3日 金曜日 午前8時15分
          愛知県 夏露中学校 1年10組

「ありがとうございました!」
 日直の号令を聞きながら、私は頭を下げた。みんながありがとうございました、と言う中で一人口をつぐんで。

 最近身体が重くなってきた。なんとなく。
 わらべと話してから、結構気が沈んでいる。でも、明日から休み。2日休める。2日もあればきっと気力も回復する、はず。

 ─

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小説/黄昏時の金平糖。【V*erno】#15 きっとうまくいくって、予測

黎明さだめ 6月3日 金曜日 午後3時20分
          愛知県 夏露中学校 体育館

「みんな終わったか!よくやった!」
 風邪からようやく復帰した、実行委員の顧問である坂ノ上先生(さかのうえ)が、自分含め実行委員を褒め称えた。
「さっかー、ようやく来たんだねー」
「おお、城谷(しろたに)!久しぶりだな!」
 1年1組の実行委員、城谷天嶺(たかね)はふわふわとした声で先生と話し始めた。

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小説/黄昏時の金平糖。【V*erno】#16 君のためのスタートライン

黄昏わらべ 6月3日 金曜日 午後4時10分
     愛知県 夏露町 黄昏家 わらべの部屋

「─おお!」
 何度も聴いていたが、俺はまた感動した。本当に、素敵な曲だ。
「まずは、準備運動からか。何するか分かる?」
「ん?あ、えーと、腹筋?」
 感動してるだけじゃいられない。今から、あいつよ心に響くような歌を完成させるのだ。
「そうだな。あと、背筋」
「それだけでいいの?」
 数年前まで習ってい

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小説/黄昏時の金平糖。【V*erno】#17 特訓

黄昏わらべ 6月3日 金曜日 午後4時30分
     愛知県 夏露町 黄昏家 わらべの部屋

「あぁぁぁぁ、、、」
 息切れしながら、小さく悲鳴を上げて倒れた。
 バスケを辞めて2年でこんなに体力が落ちるとは。でも、体力テストには響かなかったけどなぁ。
「わらべお疲れ」
 笑いながら俺の隣に座る葉凰。

「ここで疲れてたら次は続くのかー?」
 なっ、と思った。
 多分俺、煽られてる。
「まだまだ

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小説/黄昏時の金平糖。【V*erno】#18 思い出

黄昏わらべ 6月3日 金曜日 午後5時30分
     愛知県 夏露町 黄昏家 わらべの部屋

 、、、どれだけやっても、やはり上手く歌えない。
 入るタイミングを教えてもらっても、いつの間にか遅れていってるし、音程はバラバラだし、上手くできたと思ったら歌詞が飛ぶし、もうかれこれ30分ほど歌い続けた。
 葉凰がお手洗いに行っている間、この部屋には俺一人だ。

 ふざけているわけじゃないし、むしろ早

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小説/黄昏時の金平糖。【V*erno】#19 アカペラ

木暮葉凰 6月3日 金曜日 午後5時40分
     愛知県 夏露町 黄昏家 わらべの部屋
 
「ただい、、、ん?」
 さっきまで元気だったわらべが、綺麗な体育座りで、しかも顔を伏せている。
「おーい、わらべー?」
「あぁぁぁぁ、、、」
「大丈夫そ?」
 わらべは力なく唸って、全身の力が抜けたように、膝に頬を付けた。

「、、、音楽ってさぁ」
「?」
 小さな声で低く唸るものだから、なかなか聞き取

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小説/黄昏時の金平糖。【V*erno】#20 約束、やっぱり違う

木暮葉凰 6月3日 金曜日 午後6時05分
       愛知県 夏露町 黄昏家 リビング
 
「今日はありがとうございました」
「いいのよ!それより、本当にご飯いらなかった?」
 このまま長く居続けると、母さんに怒られてしまう。ご飯も食べてきた、なんて余計に。
「はい、そろそろ門限なので」
「そっか!、、、あ!」
 まつりさんが何かを思い出したかのように、走っていって、戻ってきた。

「これ、お

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小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#21 負けないように、ただいま

 黎明わた 6月3日 金曜日 午後6時35分
          愛知県 夏露町 弓道練習場

「─ありがとうございました!!」
 一人しかいない練習場に向かって叫んだ。
「お疲れ様」
 袴姿でやってきたのはあにい─灯籠真弓(とうろう まゆみ)だった。
「あにい!お疲れー」
 兄(あに)と兄(にい)の呼び方が合わさってあにいになった。あとは、ここら辺の方言的なのもあるらしい。
「じっちゃんが白玉作

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小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#22 絵日記

 宵宮氷 6月3日 金曜日 午後7時05分
    静岡県 紅無町(くれない) じいちゃんの家

 ベッドに寝転がって、日記帳を開いた。今日は、このページ。
 字の練習も勉強を好きにさせるのも兼ねて小学6年生から始めた。
 もともとはわた、わらべ、わさび、俺でやっていた、みんなで一つの絵を描いて、一文ずつ今日のことをまとめる「絵日記」から来たのだ。
 あの絵日記は、今も俺が持っていて、本棚に入って

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