小説/黄昏時の金平糖。【V*erno】#15 きっとうまくいくって、予測

黎明さだめ 6月3日 金曜日 午後3時20分
          愛知県 夏露中学校 体育館

「みんな終わったか!よくやった!」
 風邪からようやく復帰した、実行委員の顧問である坂ノ上先生(さかのうえ)が、自分含め実行委員を褒め称えた。
「さっかー、ようやく来たんだねー」
「おお、城谷(しろたに)!久しぶりだな!」
 1年1組の実行委員、城谷天嶺(たかね)はふわふわとした声で先生と話し始めた。

 劇の構成もようやく終わり、あとはショッピングセンターで先生が用具を取り揃えるだけらしい。
 先生には面白い劇にしてもらわないとなぁ、と気合いを入れたんだ。
 みんなが笑ってくれれば、大丈夫。

「みなさん、2日間ありがとうございました」
 やっと登場した副顧問を見てみんなはそちらの方に真剣な眼差しを向けた。
「2日間でここまで仕上げれるとは、、、。あなたたちは本当にすごいです」

 よくよく考えると2日間しか経っていない。
 なのに、情報量が多かったなぁ、と感じる。特に、今朝なんて、夢のような時間が実現しそうだったのに。
 適当に、流してしまった。
 ─そりゃそうよ。だって、わさびとも話せてないのに、急に話せなんて言われたら逃げるに決まってる。
 強い風にしてるだけで、実は自分ほ弱いのかもしれない。陽キャになりかけの陰キャなんて、こんなもんよ。

「─本番は来週の火曜日です。それまで個人練習をして、本番大成功させましょう」
「はい!!」
 全員が返事をする。
「それじゃあ解散!ありがとな、気を付けて帰れよ!」
 学校が、終わってしまった。
 明日は休み。いつもと変わらない日々を退屈に思うんだろう。
 ただ、まだ今日は終わっていない。

 これから、弓道に行くんだ。

 愛華葉が葉凰の方に行ったかと思いきやこっちへ来た。
 葉凰は、先に体育館を出ていった。
「葉凰は?」
 自分が訊くと、愛華葉は「用事だってさ」と苦笑した。
「じゃあ今日は二人かぁ」
「え、弓道はいいの?」
 あれ、弓道のこと、知ってたんだっけ。
「うん。だいぶ後だしさ!」
「そっか。じゃ、帰ろっか」
 自分たちは体育館を後にした。

木暮葉凰 6月3日 金曜日 午後4時00分
            愛知県 夏露町 黄昏家

「おじゃましまーす」
「いらっしゃい!」
「上がって上がって!」
 俺が一声掛けると、わらべの母親と、背の高い女性が出てきた。
「あれ、俺の家族!父さんは帰ってきてないけどね」
「え、あの背の高い女の人も?」
「あぁ、あれ姉ちゃん」
「そーゆう感じね、、、」
 どうやら、この家の人はみんな高身長らしい。母親は175くらい、姉は180くらいありそうだ。
 父親の身長も見てみたい、と思った。

「今から何するの?」
 母親の柚さん(ゆず)が、そう聞いてきた。
「これから歌の練習するんだ!」
 わらべが答えると、「頑張って!」とお姉さんのまつりさんに言われた。
「葉凰!こっちこっち!」
「ん、分かった」
 わらべに手招きされ、俺は階段を上がった。

 そこは、カーテンで大きな部屋が仕切られた、まつりさんと共同のわらべの自室だった。
 真ん中にカーテンがあり、わらべは右側だそう。
「ベッドってどこにあるの?」
「あぁ、寝室でみんなで寝てるよ」
 家族みんなで、自室と同じフロアにある寝室でねているんだ。
 なんだか仲良しだな、と思った。

「よし、練習を始めるか!」
「そういえばそうだったな」
 わらべの声で思い出した。
 今日は、俺がわらべに歌を教えるんだ。心に響く歌を歌って、わらべの大切な人に届けるために。
「お前が忘れてどうすんだよ笑」
「ごめんごめん」
 案の定、つっこまれた。

「じゃあ、“天体観測”を聴いてみるか」
「うん!」
 俺は、一度家に帰ってから持ってきたスマホを操作した。動画サイトを開き、「天体観測」をタップする。
「お前は一回聴いた?」
 そう訊くと、「毎日聴いてるよ」という頼もしい返事が返ってきた。
 広告も流れ終わり、音楽が流れ始める。
 チラッと横を見ると、わらべは楽しそうな表情で音を聴いていた。
 練習は上手く行きそうかな、俺はそう思った

「続」


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